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2020年06月06日22:17

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ヤン・ヴォー

歴史や比喩を含んだ唯一のレディ・メイド

ヤン・ヴォー
@国立国際美術館
フォト



はじめましてのアーティストでした。

1975 ベトナム生まれ。
2005  デンマーク王立美術院, コペンハーゲン
2002  Städelschule, フランクフルト
2019 史上最年少でグッゲンハイム美術館の個展
メキシコシティ在住


経歴をみるだけで様々な要素を持っているだろうと予想され
楽しみにして行きました。


薄暗い会場にはいると最初に3つの壁面全体を使ったインスタレーション。
赤地に白抜きの巨大なカリグラフィ。両手のないキリストのブロンズ像、
床には瓶。自身によるカリグラフィ額も最初に掲げられていますが
異国人である私の目には文字がその意味を失ってひとつのかたちに映ります。


反対側の壁に穿たれたガラス張りの展示枠のなかには
箱に入ったロレックス、デュポンのライター、アンティークの指輪。
あとで知ったのですが指輪はアメリカ軍のカレッジリングだそう。
展示枠を形成する仮設の壁はその裏が丸見えにむきだしです。


次の展示室は唯一、光にあふれた空間でした。

油彩と写真とカリグラフィの組み合わせ。
金と銀の鏡面に薄くはかれた絵具、ピーター・ボンデの油彩には鑑賞者がぼんやりと映りこみます。
ハインツ・ピーター・クネス撮影の写真はヴォーの甥グスタフ、彼のミューズと称されるだけあって
真紅のニットを着た姿は何気ないようで部分も全体も美しい。


そこからあとの展示は作品番号も見えないほど薄暗く。


ヤン・ヴォーはレディ・メイドのものを組み合わせて作品をつくりますが
選ぶものは一筋縄ではいかないものばかりです。



たとえば輸送用の木枠に入ったままのどっしりしたアンティークのシャンデリア。
美しいだけでなく
1973年にパリ協定(ベトナム戦争の終結)が協議されたマジェスティックホテルのものという
歴史的意味を知ると灌漑深いものがありますし


たとえば4つのペン先。
ジョンソン大統領が1964年国防物質調達法案に署名する際に使ったもの。
いったいどうやって手に入れるの??と思ったら


こげ茶色のこんもりした山は
ケネディ政権の閣議室の椅子を解体破壊したもの
だというし。


さらに額装された書簡シリーズでは
ジョン・F・ケネディからマクナマラ宛
キッシンジャーから劇場関係者?宛
等々


鍵のモビールもありました。
・パークハイアット東京C28号室の鍵
・ベルリントル通り93番地のアパートメントの鍵
・ボーイフレンドからプレゼントされた(!)アルファロメオ147の鍵
を鎖でつないだもの。


ジェミニ4号で宇宙飛行した銀製のタグとか
1648から1962の間にアジアで処刑された殉教者の名前がずらりと刻まれた大理石
とか
本当にどうやって手に入れたのか。


色的にはゴールドがお好きなようで
天井から下げられた30枚以上の旗のような
《天の川銀河の闇の奥にある巨大なブラックホール》

・コカ・コーラの使用済み段ボールに金塗り
・段ボールに描かれた星が13個のアメリカ国旗
・カーボンコピー用紙に金のカリグラフィで書かれたシンデレラの物語
・茶紙の紙袋に金で描かれた自由の女神
等々。
雑多な内容なのに不思議とみすぼらしくならず統一感があります。


もう
・スーツケースの本体部分にはトルソ、蓋部分には下半身が詰め込まれたキリスト像
・古代ローマ時代のウェヌスとサュロスの大理石像の真鍮マウント
なんて普通に見える。

展示室が暗かったのはイサム・ノグチの明かり作品とのコラボレーションを
際立たせるためだったのかも知れません。


ホワイトキューブの中にありながら外の世界や歴史をいやがおうにも
意識させられる展覧会でした。


図録は6月下旬に完成予定。
展覧会は当初と会期かわって10月11日まで。
巡回はありません。
http://www.nmao.go.jp/exhibition/2020/danh_vo.html

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同時開催の収蔵品展は


越境する線描


ともすれば未完成/下書きのようにみられてしまう「線」に
注目した展示です。


線といえば、のサイ・トゥオンブリー《マグダでの10日の待機》や


人気なのかな?最近よく展示されるジグマー・ボルケの《恋人たち》
フォト



そして33点もずらりと並んだヴォルスのドライポイントが圧巻です。
フォト



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