襷の力2019-2020〜5〜ハイレベルの大会

ピンクのシューズが目立つ。箱根駅伝の予選会でも目立ったシューズだ。今はやりのナイキの厚底シューズ。出雲駅伝でも伊勢駅伝でも箱根の予選会でも目立ったこのシューズ。高校駅伝でもその力をいかんなく発揮したのだろうか。

男子の部で優勝したのは女子に続いて仙台育英。かつて同校が2004年に記録した2時間1分32秒と同タイムで歴代2位タイという素晴らしい時計だった。

ボクが応援していたのは千葉代表の八千代松陰。昨年2年生で1区を走り2位だった佐藤一世君が今年も最長10キロのエース区間1区を走る。終始先頭集団をリードして走り28分48秒で区間賞。これはもちろん区間記録ではないがこれまでの並み居る外国人留学生を除けば上野裕一郎選手を抜く日本人1位である。

2区でも1位を守り4区までは3位と粘っていたが5区6区で崩れ結局は16位に沈んだ。時計は2時間3分53秒だった。だが、昨年7位入賞を果たした八千代松陰のタイムは2時間4分19秒。今年の時計であれば昨年なら5位だったのだ。

倉敷が3区のキプラガット君の快走で序盤からぶっちぎり1分以上差をつけたものの後半勝負の仙台育英は6区のディラング君で5秒差まで迫り、最後はアンカー同士の駆け引きでトラック勝負まで持ち込み1年生の吉居駿恭君が倉敷の長塩君を引き離して3秒差で優勝した。

このアンカー勝負。当然ながら勝つことが第一だ。並走しながらいつでも抜け出せそうな吉居君。スプリント勝負なら相当な自信があったのだろう。だからこそ自身からは仕掛けない。長塩君の様子を伺いながら一度前に出たもののそのまま引き離すことはしなかった。

トラック勝負を避けたい長塩君はスタジアム前でスパートをかけたが、それが想定内であるかのように追走するとトラックに入ってから最後の残り200メートルで突き放すとそのままゴールした。

ボクが言いたいのはこの自信に満ちた1年生の吉居君の戦いぶりもさることながら、この吉居君の区間タイムは9位の14分27秒。長塩君は14位の14分34秒だったことだ。

もちろんアンカーは勝利優先。スローペースとなっても相手に勝つことが最優先だ。アンカーに求められたのは時計ではなかったのだ。それでいて仙台育英は歴代2位タイの記録。そして敗れた倉敷もその仙台育英に3秒差だった。

昨年の8位入賞タイムは豊川の2時間5分19秒。今年この時計を破っているのは21位の鎌倉学園まである。長距離の時計などはその日の気温や天候などによって変わるのはわかっている。それでも優勝は2時間2分切り、8位入賞は2時間3分切りが来年からの常識になるかもしれない。

だがこの大会で一番重要に感じるのは勝利第一主義を感じないことだ。確かに強豪校にとって優勝はどのチームの目標でもある。だが、この1区で走った、6区で外国人留学生に食い下がった、最後のアンカー勝負で駆け引きを経験した・・・・

高校の部活である。それでも高校野球や高校サッカーと比較すれば高校駅伝は個人競技の集大成であり、チームスポーツの最後という悲壮感は野球やサッカーと比べてはあまりないのかもしれない。さらに時計という絶対的な数値で評価されることも野球やサッカーとは違う。

ボクが応援した八千代松陰の佐藤一世君は来年には青山に進学する。彼は松戸市立小金中学の出身で、その時に出場した東葛飾地方中学校駅伝競走大会は今年で73回大会。高校駅伝よりも歴史は古く、中学駅伝でありながらも松戸・野田間を白バイ先導の公道で行われる本格的な駅伝だ。ここを走った選手をボクは自然と応援する。

佐久長聖に進む選手もいた。市船から早稲田に行く選手も、埼玉栄に進む選手もいた。

時計が速くなる一方の高校駅伝。そこにスカウトの力があることは高校野球やサッカーと同じだ。そして今年の注目選手もそのほとんどは進学先が決まっている。

一方で50年ぶりの出場で踏ん張ったチームや笑顔を大事に襷を繋いだ初出場のチームもあった。全国レベルの強豪校がいるために出場がままならなかったチームは記念大会の地域大会枠で出場を果たした。当然目指しているものは違うが・・・

それでも強豪校はそれなりの成績を残した。結局は3強と言われた仙台育英、倉敷、佐久長聖が3位を独占。2チームが優勝を競り合う中タイムは伸びなかったが、今年の大会は極めてレベルが高かったと言えるだろう。レース展開が違えばレコードが出たかもしれない今年の大会。悔しい思いのチームもあるだろう。だが、それぞれのチームがそれなりの結果を出した大会だったようにも思える。

2019年12月22日　第70回全国高校駅伝男子　（於　たけびしスタジアム発着7区間）
仙台育英学園　2時間1分32秒（歴代2位）12年ぶり8回目の優勝