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2019年07月28日17:47

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本棚177『小松左京セレクション 1 日本』東浩紀編(河出文庫)

 今まであまりSFは読んで来なかったけれど、NHKの『100分de名著』の小松左京の特集で、その世界観の広大さに惹かれ手に取った。
 
 この選集のテーマは「日本」。戦後、高度成長を経て経済大国になった日本社会、そこに生きる日本人を当たり前のものとして捉えず、新たな視点から光を当て、読み手に疑問を呈する。その問いかけをより強調し直截に行うために、SFという「舞台装置」が用いられているように感じられる。

 著名な長編小説『日本沈没』はエピローグ部分のみが載っているが、竜に見立てた日本列島が海中に飲み込まれてゆく断末魔と、その運命を受け止める地上の人々のそれぞれの想いは圧巻である。
 『地には平和を』は太平洋戦争が8月15日で集結せず、地獄のような本土決戦へと突き進んだ世界を描く。実際にあった降伏を阻止する陸軍のクーデター未遂事件を基にするなど、ディテールが密に描かれ、「歴史改変もの」にリアリティを与えている。

 小松左京の作品は、SFとは「空想科学小説」という狭く無機的なものではなく、人の心の奥底のようなミクロのものから、宇宙の深淵のようなマクロのものまでを描く豊沃な世界だと教えてくれる。
 その舞台は多様でも、描かれるテーマー人生とは、愛とは、この世界とはーは、他の小説ジャンルときっと同じなのかもしれない。
 江戸に未来の科学技術が入り込んだ、パラレルワールドに生きる男女を描いた『お糸』の言葉は、紛争や環境破壊など多くの課題を抱える現代人への著者の骨太のメッセージのようで、忘れられない。

「「好きな人と一緒になって···好きな人の子供をうんで···そんな贅沢なんかしたいと思わないけど、親子水入らずに、しあわせにくらして、共白髪になって···それ以外に、どんな事がのぞめて?どうして、それだけじゃいけないの?」···なぜーただこうして「ある」というだけでいけないのか?なぜーこうして「生きて」おり、その時代々々に人の世のかわらぬつつましい喜び、つつましいしあわせをもとめるだけではいけないのか?それ以上、何をのぞめというのか?」
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