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2019年07月23日00:03
236 view
遊びの流儀
つれづれなぐさむるもの。物語。碁。雙六。（枕草子133段）
あそびわざは。さまあしけれども、鞠もをかし。小弓。碁。（同201段）
浮世の憂さの晴らし方。
遊びの流儀〜遊楽図の系譜
＠サントリー美術館
『梁塵秘抄』の「遊びをせんとや生まれけむ」を掲げた展覧会です。
大きな展示替えがあり、
◇遊楽図屏風（重文・相応寺）
◇四条河原遊楽図屏風（重文・静嘉堂文庫）
◇琴棋書画図屏風（重文・海北友松・妙心寺）
◇婦女遊楽図屏風（国宝・松浦屏風・大和文華館）
はいずれも7月24日からです。
そんなときだから空いている？
いえいえ、レクチャー開催日なので結構混んでいました。
展覧会構成
第1章 「月次風俗図」の世界〜暮らしの中の遊び
第2章 遊戯の源流〜五感で楽しむ雅な遊び
第3章 琴棋書画の伝統〜君子のたしなみ
第4章 「遊楽図」の系譜� 繊崚‘睛軍攷沺廚僚�様相
第5章 「遊楽図」の系譜�◆遡邀依軍擇蛤徇藕垰�
第6章 双六をめぐる文化史〜西洋双六盤・盤双六・絵双六
第7章 カルタ遊びの変遷〜うんすんカルタから花札まで
第8章 「遊楽図」の系譜��〜舞踊・ファッションを中心に
とまあ盛り沢山な内容で。
「雅な遊び」については源氏物語図屏風が出ていたり「小弓」があったりしましたので
1年以上かけて橋本治の『窯変源氏物語』を通読したのが大変役に立ちました。
そして「遊楽図」のオンパレード。
17世紀には庶民もいろいろ楽しんでいたのですね。
三味線にあわせ輪になって踊る。
刻みタバコの長煙管、碁。芝居見物。祇園祭礼図ではところてんや鮒ずし、まくわ瓜を食べたり。
来ている着物もバラエティゆたかな柄で。
『新板小袖御ひいなかた』という文様図鑑には茶筅模様や将棋のコマ模様まであります。
7月には盂蘭盆会 風流おどり
8月には月見
9月には重陽・貴船狭小神輿
10月には紅葉狩り
11月には御火焚
12月には雪あそび
『十二ケ月風俗図』をみてこれからも楽しいこといっぱい〜という気持ちになりました。
8月18日まで。
https:/
ショップでは今回展と関係のない《病草紙〜不眠の女》のクリアファイルを購入。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
関連レクチャーを聞きました。
以下、お話の流れのメモを。
美術にみる遊びを語らう
丸山伸彦（武蔵大学教授・専門は服飾史）
大久保純一（国立歴史民俗博物館教授・専門は浮世絵）
司会：石田佳也（サントリー美術館学芸部長）
実は登壇されたお３方、辻惟雄門下・大学院の同級生だそうで
お互い先生とよばないようにと打ち合わされたそうですが「さん」づけで
呼ぶのも照れていらっしゃいました。本来呼び捨てなんでしょうねえ。
それぞれの専門分野のお話をされても「ゼミの発表を思い出した…懐かしい」という具合。
辻先生のキーワードにも「かざり」「奇想」と並んで「あそび」があるのですが
辻先生の「あそび」は遊びごころ、という意味。
今回の展覧会は「六本木という土地柄」文字通り大人の遊びとして
人々がどのように暮らしを楽しんできたのか、遊楽図の流れをたどりながら
さぐるのが狙いだそうです。
【輪舞遊楽図をめぐって】
最初にとりあげられたのが民博の（��89）輪舞遊楽図。
大久保 (以下大と表記)「民博の所蔵品では貸出要望が多い作品です。
一級品とはいえませんが風俗的にみるものが多い。
私が跡見学園で教えているときに購入を検討していた民博から評価のため
呼ばれました。そのとき丸山さんが民博にいて。私が入るとすぐにいなくなったけど。
服飾史が専門の丸山さんがなぜこれを購入したんですか」
丸山 (以下丸と表記)「この作品と『妓楼遊楽図』(��34)の購入にかかわりました。
京都でたまたま出てきた作品で。注目したのはファッション的な意義ですね。
染色や服飾資料は高温多湿の日本では実物が残らないんです。
残るのは例外で特権的な人々の好みしかわからない。
寛永という時代は特別で、文様と形態が大変大きく変化しました。
その発端はかぶきものや遊女の風俗にみることができる。
そこでモノで確認できない資料として注目しました。
多少の誇張はあるかもしれませんが、全くの想像でもないはずです。
そして次の世代では一般人に変化が現れるのです」
石田 (以下石と表記)「V6も輪になって踊りますが（笑）2重になって踊っていますね。
しかも夜に。
この絵の凄味というのは、１人として表情をみせていないこと。
うつむいてトランス状態になって熱中している。六本木のクラブのようです」
◇輪舞図（大和文華館）
◇妓楼遊楽図（歴博）
丸「共通するのは、将棋盤を前にしてのけぞっている人がいるんですよね。
手前には枕引きをしている人もいる。
小弓、蹴鞠もある。
しかもこの、のけぞっている人の横で指を十文字にしてデコピンをしようとしている人がいる。これも共通。
泥酔している男の後ろから財布を盗ろうとしている奴もいる。これも共通しているんです。
ほかには、女性の髪形が垂れ髪から結髪にかわるときで両方が混在している。
あと男女の見分け方ですけど、遊女に酒をすすめているこれは若衆です。
頭に白いところがあるでしょう？中剃りをしているからです。
丸「輪踊は全て反時計回りです。
歌舞伎踊りや阿国歌舞伎の模倣でもありますが
1629には女歌舞伎が禁止され
1652には若衆歌舞伎が禁止される。
風俗を乱したからというのが表向きの理由ですが
実は人々が熱狂して別世界に行ってしまうからでした」
【双六】
丸「先ほどの双六を前にしてのけぞっている人ですけれど、この双六は
高さのある板で盤双六とよばれます。
双六の歴史は古くて、持統天皇のときに早くも禁止令がでている。そのくらい流行っていた。
白河法皇も、思い通りにならないものとして、鴨川の水・僧兵とならんで挙げているくらいですし」
石「今回の展覧会は、西洋双六盤のお披露目を兼ねて…という企画からはじまったんです。
バックギャモンの外側に日本の観光地の蒔絵をほどこした、これは輸出用ですね。（��55）
そもそも双六には 盤双六、絵双六、西洋双六とありまして皆違う。
それが徳川美術館の碁・将棋・双六と３種そろって婚礼調度品にまでなって（��58）」
丸「まず盤双六、これはバックギャモンに類似したもので、中国伝来です。
江戸後期には衰退しました」
丸「次に絵双六。（��61）これは室町時代に誕生しました。
江戸中期に、浮世絵版画の流行とともにひろがります」
有名な『彦根屏風』、ここに琴棋書画として屏風（画）の前で双六（棋）を楽しむ
人が描かれています。
この盤双六は場面が遊里であることを示すモチーフです。
大「妓楼遊楽図(��3
4)、相応寺屏風(��28)にも屏風の前で双六を
する遊女がでてきます。
時代がくだって江戸中期の浮世絵版画にも出てきます。
・奥村政信《新吉原座敷土手通シ大浮絵》(1745)
透視遠近法をつかっている作品ですが、
よくみると、正面奥で双六を楽しむ２人とみている人の３人組がいます。
こうしたものは元来のぞきからくりでした。
地獄とか極楽、仙境から派生した風景を描くことが多かったのです。
それが浮絵になると、非日常としての遊里となって登場する。
ここでちょっと脱線しますと、そもそも盤双六の寓意は中国からきました。
玄宗皇帝の寵を、楊貴妃と虞子君が盤双六の勝敗で争うというものです。
・菱川師宣《美人絵づくし》(1683)
にも登場します。18世紀中期まではこれがくりかえし出てくるモチーフだったのです。
・蘇州版画《蓮池遊楽図》(清代)
をもとにして描かれた
・奥村政信《浮絵唐人館の図》
では西湖の前の建物の中で玄宗皇帝、虞子君、楊貴妃が会している。
それが
・田中益信《あふみ八けい石山の図》(18世紀)
では琵琶湖の前の建物に紫式部がいる、という場面に変わっている。
・鈴木春信作といわれている1766の作品(1766)にも
玄宗皇帝、楊貴妃、虞子君が描かれている。
これは絵暦ですね。
ふたりが挟んでいる盤双六の目の表示が暦になっています。
大の月、小の月がわからないと商売の掛け取りもできませんからね。
それが18世紀末になると盤双六自体があまり描かれなくなります。
・歌川豊国《新版風流節句遊 正月》
これは水茶屋、ティハウスの看板娘二人が双六の勝敗を競っている。
観ているのは人気役者の瀬川菊之丞。女二人の勝負を男が見る、ということで
玄宗皇帝・虞子君・楊貴妃というモチーフをひきずっています。
しかしこの作品以降は描かれなくなりました。
双六自体は《誰か袖屏風》にも登場しますが、人物はいない」
【ファッションの話】
・重文《四条河原遊楽図屏風》(��43 静嘉堂文庫)
丸「この作品にはプレ寛文の模様がつめこまれています。
以前は埋め尽くすように柄が入っていて文様がわからない。
先んじてかぶきものが使用した模様、たとえばこの男の背の
鎌＋輪＋ヌ
七代目団十郎で有名な「かまわぬ」ですが、これが最も古い使用例です。
《邸内遊楽図屏風》(��31)にも「かまわぬ」がありますね。
・『新版小袖御ひいなかた』(��100)
こうした模様のカタログや染色技法が出版された。
元来秘法だったものが公になったのはそれだけ需要が拡大したからです。
たとえば「芭蕉の葉」模様。
相応寺屏風にありますね。
相応寺屏風には、そのほか「耳のびらーんと長い兎」や
「背中にかかる橋」のような文様もありまして
「橋」はサントリーさんの《邸内遊楽図屏風》（��35）の若衆の背中にも
ほらあるでしょう。
流行というものは
不特定多数の人々が新しさを消費していくことです。
その意味で、この時代には他のどの文化圏にもありません。
宮廷の中だけで流行っていた、とかはありますが。
出版を通じて情報を共有していたというのは、17世紀後半には
日本だけの現象だったのです。
モード、という概念は日本が発祥なんですよ。
「流行り色目は５年〜８年」とか、サイクルまで意識されていました」
丸「さらには黒の発見です。
女性の装いに黒が入ってくるのは寛永からです。
金箔をおくのに黒という地色が映えてよかったからです。
《誰が袖美人図屏風》(��97)にも黒地に金のものが衣桁にかかっています。
30年ほどで急速に拡がりました。
普通根本的なものは変わりにくいものですが、この時代は
短期間で根本的な変化をおこしたのです。
《歌舞遊宴図屏風》(��36)には
黒地に蜘蛛の巣が描かれたきものがあります。
蜘蛛は「ささがに」ともいいまして、七夕を連想させる。
笹＋蟹という判じ物模様が生まれます。
《婦女遊楽図》(��37)には
右隻に黒いきものの女がいます。これは客ですね。
髪型もいろいろです。この時代、それまで男しかしなかった結髪が
女へと広がり、男模様だった小紋も女のきものへ拡大しました。
《舞踊図屏風》(��93)
ここでは形態の変化がみられます。
1615年を境に、生地巾が42ｃｍと狭くなりました。
そのため裄(ゆき)が短くなったのです。
生地の裁ち方もかわりました。
重文《湯女図》(��102)
生地巾が狭いので腕がみえています。
たてづまも短い。身体の線がみえるので中世のボディコンと呼んでいます。
生地巾の変化で正座のしかたもかわりました。
それまでは女も立て膝で坐っていたのですが、それでは前が割れますので」
【すごろく】
大「鈴木春信には同時代に 盤双六を描いた作品と 絵双六を描いた作品があります。
人物の配置もほとんど同じ。
このころから盤双六は衰退しました。
ただし、だからといって絵双六がとってかわったというわけでもありません。
双六には
飛び双六・振り分け双六、廻り双六・とびまわり双六
といった形式があります。
このうち我々にお馴染みなのはサイコロの数だけすすむ「廻り双六」ですね。
ロードムービーのようなものです。
ここでマスの重要度に差がないというのが特徴です。
《妖怪浄土双六》
上の方ほど価値があります。下は地獄、上は極楽。
《百種階段妖物双六》
妖怪にも大物小物がありまして、上の方には九尾の狐などがいます。
レストランの飛び双六もあります。
下は麦飯とか粟もち。上は八尾善とか当時の高級料亭が並んでいます。
《御大名出世双六》
島耕作、だっけ？上は大老・老中まで。右下は隠居。
《男女振分婚礼双六》
最初の目で男女のコースにわかれ、出た目でとんでいきます。
ゴールは婚礼。
【カルタ】
時間がなくなったため、簡単に紹介されました。
作品それぞれに情報量が多いそうです。
流行に鋭敏であった人達にびっくりする、とのお３人でした。
＊＊＊＊＊
レクチャーのあと、会場へもどって《婚礼双六》を
よくよく見てきました。
女性コースでは
ふりだし→３を出す→ぬいとりけいこ→５→おさんどん→３→
茶屋女→５→傾城→６→婚礼
というのが最短コースか。傾城(けいせい)が婚礼につながるという価値観が
面白い。
男性コースでは
いそうろう→２→めしたき→４→番頭→１→婚礼
あれ？居候へはどうしたら行けるんだ…？
なかなか難しいようです。
あそびわざは。さまあしけれども、鞠もをかし。小弓。碁。（同201段）
浮世の憂さの晴らし方。
遊びの流儀〜遊楽図の系譜
＠サントリー美術館
『梁塵秘抄』の「遊びをせんとや生まれけむ」を掲げた展覧会です。
大きな展示替えがあり、
◇遊楽図屏風（重文・相応寺）
◇四条河原遊楽図屏風（重文・静嘉堂文庫）
◇琴棋書画図屏風（重文・海北友松・妙心寺）
◇婦女遊楽図屏風（国宝・松浦屏風・大和文華館）
はいずれも7月24日からです。
そんなときだから空いている？
いえいえ、レクチャー開催日なので結構混んでいました。
展覧会構成
第1章 「月次風俗図」の世界〜暮らしの中の遊び
第2章 遊戯の源流〜五感で楽しむ雅な遊び
第3章 琴棋書画の伝統〜君子のたしなみ
第4章 「遊楽図」の系譜� 繊崚‘睛軍攷沺廚僚�様相
第5章 「遊楽図」の系譜�◆遡邀依軍擇蛤徇藕垰�
第6章 双六をめぐる文化史〜西洋双六盤・盤双六・絵双六
第7章 カルタ遊びの変遷〜うんすんカルタから花札まで
第8章 「遊楽図」の系譜��〜舞踊・ファッションを中心に
とまあ盛り沢山な内容で。
「雅な遊び」については源氏物語図屏風が出ていたり「小弓」があったりしましたので
1年以上かけて橋本治の『窯変源氏物語』を通読したのが大変役に立ちました。
そして「遊楽図」のオンパレード。
17世紀には庶民もいろいろ楽しんでいたのですね。
三味線にあわせ輪になって踊る。
刻みタバコの長煙管、碁。芝居見物。祇園祭礼図ではところてんや鮒ずし、まくわ瓜を食べたり。
来ている着物もバラエティゆたかな柄で。
『新板小袖御ひいなかた』という文様図鑑には茶筅模様や将棋のコマ模様まであります。
7月には盂蘭盆会 風流おどり
8月には月見
9月には重陽・貴船狭小神輿
10月には紅葉狩り
11月には御火焚
12月には雪あそび
『十二ケ月風俗図』をみてこれからも楽しいこといっぱい〜という気持ちになりました。
8月18日まで。
https:/
ショップでは今回展と関係のない《病草紙〜不眠の女》のクリアファイルを購入。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
関連レクチャーを聞きました。
以下、お話の流れのメモを。
美術にみる遊びを語らう
丸山伸彦（武蔵大学教授・専門は服飾史）
大久保純一（国立歴史民俗博物館教授・専門は浮世絵）
司会：石田佳也（サントリー美術館学芸部長）
実は登壇されたお３方、辻惟雄門下・大学院の同級生だそうで
お互い先生とよばないようにと打ち合わされたそうですが「さん」づけで
呼ぶのも照れていらっしゃいました。本来呼び捨てなんでしょうねえ。
それぞれの専門分野のお話をされても「ゼミの発表を思い出した…懐かしい」という具合。
辻先生のキーワードにも「かざり」「奇想」と並んで「あそび」があるのですが
辻先生の「あそび」は遊びごころ、という意味。
今回の展覧会は「六本木という土地柄」文字通り大人の遊びとして
人々がどのように暮らしを楽しんできたのか、遊楽図の流れをたどりながら
さぐるのが狙いだそうです。
【輪舞遊楽図をめぐって】
最初にとりあげられたのが民博の（��89）輪舞遊楽図。
大久保 (以下大と表記)「民博の所蔵品では貸出要望が多い作品です。
一級品とはいえませんが風俗的にみるものが多い。
私が跡見学園で教えているときに購入を検討していた民博から評価のため
呼ばれました。そのとき丸山さんが民博にいて。私が入るとすぐにいなくなったけど。
服飾史が専門の丸山さんがなぜこれを購入したんですか」
丸山 (以下丸と表記)「この作品と『妓楼遊楽図』(��34)の購入にかかわりました。
京都でたまたま出てきた作品で。注目したのはファッション的な意義ですね。
染色や服飾資料は高温多湿の日本では実物が残らないんです。
残るのは例外で特権的な人々の好みしかわからない。
寛永という時代は特別で、文様と形態が大変大きく変化しました。
その発端はかぶきものや遊女の風俗にみることができる。
そこでモノで確認できない資料として注目しました。
多少の誇張はあるかもしれませんが、全くの想像でもないはずです。
そして次の世代では一般人に変化が現れるのです」
石田 (以下石と表記)「V6も輪になって踊りますが（笑）2重になって踊っていますね。
しかも夜に。
この絵の凄味というのは、１人として表情をみせていないこと。
うつむいてトランス状態になって熱中している。六本木のクラブのようです」
◇輪舞図（大和文華館）
◇妓楼遊楽図（歴博）
丸「共通するのは、将棋盤を前にしてのけぞっている人がいるんですよね。
手前には枕引きをしている人もいる。
小弓、蹴鞠もある。
しかもこの、のけぞっている人の横で指を十文字にしてデコピンをしようとしている人がいる。これも共通。
泥酔している男の後ろから財布を盗ろうとしている奴もいる。これも共通しているんです。
ほかには、女性の髪形が垂れ髪から結髪にかわるときで両方が混在している。
あと男女の見分け方ですけど、遊女に酒をすすめているこれは若衆です。
頭に白いところがあるでしょう？中剃りをしているからです。
丸「輪踊は全て反時計回りです。
歌舞伎踊りや阿国歌舞伎の模倣でもありますが
1629には女歌舞伎が禁止され
1652には若衆歌舞伎が禁止される。
風俗を乱したからというのが表向きの理由ですが
実は人々が熱狂して別世界に行ってしまうからでした」
【双六】
丸「先ほどの双六を前にしてのけぞっている人ですけれど、この双六は
高さのある板で盤双六とよばれます。
双六の歴史は古くて、持統天皇のときに早くも禁止令がでている。そのくらい流行っていた。
白河法皇も、思い通りにならないものとして、鴨川の水・僧兵とならんで挙げているくらいですし」
石「今回の展覧会は、西洋双六盤のお披露目を兼ねて…という企画からはじまったんです。
バックギャモンの外側に日本の観光地の蒔絵をほどこした、これは輸出用ですね。（��55）
そもそも双六には 盤双六、絵双六、西洋双六とありまして皆違う。
それが徳川美術館の碁・将棋・双六と３種そろって婚礼調度品にまでなって（��58）」
丸「まず盤双六、これはバックギャモンに類似したもので、中国伝来です。
江戸後期には衰退しました」
丸「次に絵双六。（��61）これは室町時代に誕生しました。
江戸中期に、浮世絵版画の流行とともにひろがります」
有名な『彦根屏風』、ここに琴棋書画として屏風（画）の前で双六（棋）を楽しむ
人が描かれています。
この盤双六は場面が遊里であることを示すモチーフです。
大「妓楼遊楽図(��3
4)、相応寺屏風(��28)にも屏風の前で双六を
する遊女がでてきます。
時代がくだって江戸中期の浮世絵版画にも出てきます。
・奥村政信《新吉原座敷土手通シ大浮絵》(1745)
透視遠近法をつかっている作品ですが、
よくみると、正面奥で双六を楽しむ２人とみている人の３人組がいます。
こうしたものは元来のぞきからくりでした。
地獄とか極楽、仙境から派生した風景を描くことが多かったのです。
それが浮絵になると、非日常としての遊里となって登場する。
ここでちょっと脱線しますと、そもそも盤双六の寓意は中国からきました。
玄宗皇帝の寵を、楊貴妃と虞子君が盤双六の勝敗で争うというものです。
・菱川師宣《美人絵づくし》(1683)
にも登場します。18世紀中期まではこれがくりかえし出てくるモチーフだったのです。
・蘇州版画《蓮池遊楽図》(清代)
をもとにして描かれた
・奥村政信《浮絵唐人館の図》
では西湖の前の建物の中で玄宗皇帝、虞子君、楊貴妃が会している。
それが
・田中益信《あふみ八けい石山の図》(18世紀)
では琵琶湖の前の建物に紫式部がいる、という場面に変わっている。
・鈴木春信作といわれている1766の作品(1766)にも
玄宗皇帝、楊貴妃、虞子君が描かれている。
これは絵暦ですね。
ふたりが挟んでいる盤双六の目の表示が暦になっています。
大の月、小の月がわからないと商売の掛け取りもできませんからね。
それが18世紀末になると盤双六自体があまり描かれなくなります。
・歌川豊国《新版風流節句遊 正月》
これは水茶屋、ティハウスの看板娘二人が双六の勝敗を競っている。
観ているのは人気役者の瀬川菊之丞。女二人の勝負を男が見る、ということで
玄宗皇帝・虞子君・楊貴妃というモチーフをひきずっています。
しかしこの作品以降は描かれなくなりました。
双六自体は《誰か袖屏風》にも登場しますが、人物はいない」
【ファッションの話】
・重文《四条河原遊楽図屏風》(��43 静嘉堂文庫)
丸「この作品にはプレ寛文の模様がつめこまれています。
以前は埋め尽くすように柄が入っていて文様がわからない。
先んじてかぶきものが使用した模様、たとえばこの男の背の
鎌＋輪＋ヌ
七代目団十郎で有名な「かまわぬ」ですが、これが最も古い使用例です。
《邸内遊楽図屏風》(��31)にも「かまわぬ」がありますね。
・『新版小袖御ひいなかた』(��100)
こうした模様のカタログや染色技法が出版された。
元来秘法だったものが公になったのはそれだけ需要が拡大したからです。
たとえば「芭蕉の葉」模様。
相応寺屏風にありますね。
相応寺屏風には、そのほか「耳のびらーんと長い兎」や
「背中にかかる橋」のような文様もありまして
「橋」はサントリーさんの《邸内遊楽図屏風》（��35）の若衆の背中にも
ほらあるでしょう。
流行というものは
不特定多数の人々が新しさを消費していくことです。
その意味で、この時代には他のどの文化圏にもありません。
宮廷の中だけで流行っていた、とかはありますが。
出版を通じて情報を共有していたというのは、17世紀後半には
日本だけの現象だったのです。
モード、という概念は日本が発祥なんですよ。
「流行り色目は５年〜８年」とか、サイクルまで意識されていました」
丸「さらには黒の発見です。
女性の装いに黒が入ってくるのは寛永からです。
金箔をおくのに黒という地色が映えてよかったからです。
《誰が袖美人図屏風》(��97)にも黒地に金のものが衣桁にかかっています。
30年ほどで急速に拡がりました。
普通根本的なものは変わりにくいものですが、この時代は
短期間で根本的な変化をおこしたのです。
《歌舞遊宴図屏風》(��36)には
黒地に蜘蛛の巣が描かれたきものがあります。
蜘蛛は「ささがに」ともいいまして、七夕を連想させる。
笹＋蟹という判じ物模様が生まれます。
《婦女遊楽図》(��37)には
右隻に黒いきものの女がいます。これは客ですね。
髪型もいろいろです。この時代、それまで男しかしなかった結髪が
女へと広がり、男模様だった小紋も女のきものへ拡大しました。
《舞踊図屏風》(��93)
ここでは形態の変化がみられます。
1615年を境に、生地巾が42ｃｍと狭くなりました。
そのため裄(ゆき)が短くなったのです。
生地の裁ち方もかわりました。
重文《湯女図》(��102)
生地巾が狭いので腕がみえています。
たてづまも短い。身体の線がみえるので中世のボディコンと呼んでいます。
生地巾の変化で正座のしかたもかわりました。
それまでは女も立て膝で坐っていたのですが、それでは前が割れますので」
【すごろく】
大「鈴木春信には同時代に 盤双六を描いた作品と 絵双六を描いた作品があります。
人物の配置もほとんど同じ。
このころから盤双六は衰退しました。
ただし、だからといって絵双六がとってかわったというわけでもありません。
双六には
飛び双六・振り分け双六、廻り双六・とびまわり双六
といった形式があります。
このうち我々にお馴染みなのはサイコロの数だけすすむ「廻り双六」ですね。
ロードムービーのようなものです。
ここでマスの重要度に差がないというのが特徴です。
《妖怪浄土双六》
上の方ほど価値があります。下は地獄、上は極楽。
《百種階段妖物双六》
妖怪にも大物小物がありまして、上の方には九尾の狐などがいます。
レストランの飛び双六もあります。
下は麦飯とか粟もち。上は八尾善とか当時の高級料亭が並んでいます。
《御大名出世双六》
島耕作、だっけ？上は大老・老中まで。右下は隠居。
《男女振分婚礼双六》
最初の目で男女のコースにわかれ、出た目でとんでいきます。
ゴールは婚礼。
【カルタ】
時間がなくなったため、簡単に紹介されました。
作品それぞれに情報量が多いそうです。
流行に鋭敏であった人達にびっくりする、とのお３人でした。
＊＊＊＊＊
レクチャーのあと、会場へもどって《婚礼双六》を
よくよく見てきました。
女性コースでは
ふりだし→３を出す→ぬいとりけいこ→５→おさんどん→３→
茶屋女→５→傾城→６→婚礼
というのが最短コースか。傾城(けいせい)が婚礼につながるという価値観が
面白い。
男性コースでは
いそうろう→２→めしたき→４→番頭→１→婚礼
あれ？居候へはどうしたら行けるんだ…？
なかなか難しいようです。
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