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2019年07月21日09:51

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宮本茂紀

自分の好きな椅子を探してみたくなりました。

椅子の神様宮本茂紀の仕事
@LIXILギャラリー（グランフロント大阪）

神様、というタイトルにはご本人が異を唱えていらっしゃいましたが。

この道一筋60年の第一人者、
迎賓館や鹿鳴館(明治村)の椅子の修復から
カッシーナ、アルフレックス等有名ブランドの商品開発、
建築家から依頼されたり、公共空間の一点ものなど幅広く活動してこられた方です。

こちらは建築家のザハ・ハディドが札幌のレストラン・今はなき《ムーンスーン》の内装を
手掛けたとき試作した《Fluffy Chair》。

ふわふわの羊毛とシャープな金属でできています。
これがレストランの椅子だなんて素敵。

こちらは《ボスコ》。

厚さ7cm・長さ2mの板から曲線状に各パーツを切り出すことにより美しい木目が現れます。
材質により異なるイメージ。会場にはオークの根とブナによる椅子が出ていました。
座面はグレイのスウェードです。
右下は《ZOU》。
文字通り象さんみたいで可愛い。背面の内部ははじめ樹脂加工された紙でしたが
経年変化で強度に問題が生じたため木に変えたそう。
20年かかって完成したことになります。

極めつけは最新作《SPRING》。

スプリングは座面・背もたれなどパートによりコイルの巻き方を変え
カバーは鹿皮、１本の釘も使わず組み木でできています。(デザイン佐藤卓)
人間より長生きする椅子だそうですがカタログのお値段を見て…！
一脚240万円。。。
うーん、アイリーン・グレイの《ドラゴンチェア》オリジナル・28億円に比べれば、
天文学的数字ではないんですが。。。
１度座ってみたいものです。
（いくつかの椅子は会場で実際に座れるのですが、これは触れるのもだめでした）

8月20日まで。
9月5日から東京に巡回。
https://www.livingculture.lixil/topics/gallery/g-1906/

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

トークイベントを聞きました。
以下お話の流れのメモを。

家具を考える・建築と身体の架け橋
宮本茂紀(家具モデラー)×藤江和子(家具デザイナー)

【宮本さんのお話】

「神様」という展覧会のタイトルが気になります。
極めるとは程遠い試行錯誤の連続でした。

私は1950年代から職人として古典的な椅子づくりの修行を13年間
していました。
ところがその頃からものの作り方が全くかわってきたのです。
たとえば天然素材から化学合成樹脂が登場してきました。
40年代おわりからモダンデザインが登場し、特権階級のための椅子から
暮らしを豊かにするものづくりへと変化してきたのです。
周囲は危機感をもっていましたが、私は新しいものにも興味がわきました。
同時にこのままでいいのか、と自問したのです。

これは1966年、28歳のときの旭岳の登頂写真です。
このとき独立を決心しました。
計画を両親に相談しますと、
慎重な努力家だった父は、お前は商売に向いていないから失敗する、工場長
くらいが合っている、といいます。
しかし母は、やってみなければわからない、目いっぱいやってみるさ、と
背中を押してくれました。

そこで五反田製作所を開設したのが1966年です。
6坪と狭かったので、すぐ横の高速道路の下を倉庫としてこっそり
使わせてもらいました。
のちに怒られて使えなくなりましたが。

やっていた仕事は三好木工関係が多かったです。
・高島屋シャンブル・シャルマン
・高島屋ハイランド
・高島屋を通して海外大使館領事館の特注
・エアーボーン（フランス）
・イノベーター（スウェーデン/村田合同）
下請けの孫請けですね。
具体的には
・オリビエ・ムルグ（エアーボーン）
・チップレアやアップのようなウレタンのかたまり
・イノベーターの日本初ファンシーケース、これはスチールにキャンバス張り
今までのような古典的な訓練は不要なものもたくさんありました。
図面に忠実に作る職人から開発へ、かかわりかたも変化していきました。

そこで事業拡大をもくろみました。
月１万から月５万の利益を目指す。
年間５０万として１２年で返すから600万の借金をしようと。
その保証人探しが大変でした。
あてにしていた叔父や妻の叔父には断られました。
しかし妻の従弟がサラリーマンでしたが保証人になってくれ
なんとか戸越銀座に物件を手に入れました。
雨漏りがしましたが、土地は60坪と広かった。

このころ高島屋の孫請けで迎賓館の椅子の仕事がきました。
できあがったものの検査は三好木工で検査をうける孫請け仕事ですが。
自らばらし、灰汁新井、彫刻補修、箔はりまですべて手掛けました。
徒弟時代の経験が生きたのです。
過去に敬意を表し未来を積極的に取り入れる。
たとえばスウェーデンのオバーマン、これは中は発泡スチロールですし
アルフレックスのレインボーはウレタンとFRPでできています。
アルフレックスのM７、これも思い出深いですね。
マレンコのカバーリングシステムも画期的でした。
こうして内外のブランドと開発にかかわっていきました。
新しいものにはリスクもあります。倒産した会社もずいぶんありました。

そんな中、イタリアで「モデラー」という言葉を知ったのです。
そこでアルフレックス（イタリア）やカステリオン（スペイン）で
学ばせてもらいました。
縫製やかたどりなど、国によってずいぶん違いました。
それはこうじゃないか、と言って「お前は修行にきているんだろう」と
アルフレックスの工場長に怒られたこともあります。
スペインではうまくできると美人のスタッフがキスしてくれて
どぎまぎしたこともありました。
・キャブ（カッシーナ）これは当初キャンバスの予定でしたが
試作の結果、皮になりました。
・マラルンガ（マジストレッティ）

職人とはその時代が必要なものを必要なときに作り出すことが
できる人だと思っています。
そして領域をきめないで常に可能性を拡げていく。

これからは物語を背負うモノ作りにかかわりたいと思います。
モノは生まれることより、生まれて存在してきたことに意義がある。
現実は極めて厳しい、でも楽しい。
生きていることは次世代に夢を託しモノを作り続けること。
とにかく宿題があると頑張れますので皆さんよろしくお願いします。
ありがとうございました。

【藤江さんのお話】

私は宮本さんより10歳くらい若いので、宮本さんが独立されたころ
デザインの仕事を始めました。
デザインといっても商品デザインでなく、設計された空間に必要な
家具をデザインするという仕事です。
最初は宮脇壇設計事務所におりました。
そこでもエアポンなどを導入していました。

70年代になりますとトータルデザインという考え方が盛んになります。
システム家具もそうですね。
80年代のバブル期になりますと、エントランスなど大きな空間で
安全に心地よく過ごすためのデザインがもとめられるようになりました。
主な作品をシリーズとしてまとめますと
・くじらシリーズ（30作品）～慶応大学図書館、京都近代美術館２階展望室の椅子など
・万華鏡シリーズ～三角形の面をあつめたもの
・モルフェシリーズ～シンプルな形の集積
その後90年代には公共建築にも質の向上が求められ
2000年代には建築空間自体も変化していまに至っています。

・出雲古代歴史博物館～インフォメーションカウンターをどのような形で
　どのように配置するか考えました。

・DISTRITO38～磯崎新さんの建築の内部をやらせていただきました。
　バルセロナにあるのですが、これは不況でどんどん権利が売られて
　大変でした。

・KIRINプラザ大阪～以前道頓堀にあったものです。懐かしいでしょう？
　あの内部をやりました。

・リアスアーク美術館～気仙沼です。3.11でも残ったようです。

・むさしクロスピア～金沢です。近江町市場の通路下のリノベーション。

・岐阜メディアコスモス～図書館です。
　これは是非行ってみていただきたいですね。公共物ですから誰でも入れます。
　さまざまな年代の方が自由にすごせるようにいろいろな場所をつくりました。
　「ゆったりグローブ」、これは藤にしたかったんですが不燃材料でなければいけなくて。
　座面も広いところ・狭いところと変化をつけています。

・多摩美術大学図書館
　森を散策するように本を探す、というイメージです。
　１階の床は傾斜していまして自然と外につながる。
　外に近い家具にも外の緑が映り込むようにしています。
　ラウンジソファは床が盛り上がっていて寝そべることもできます。
　芝生に寝そべって本を読むイメージですね。フェルト製です。

・台湾大学国家歌劇院
・台湾大学図書館
　多摩美術大学図書館をみたスタッフの方が是非同じイメージで、という
　ことでしたので、同様に内部はアーチが連続する構造になっています。
　88本の柱が不均一に立っていて、本棚は渦巻くように配置しました。
　AI用のチェアはなかなか現地スタッフに思うように作ってもらえなくて。
　設計図をわたすだけでなくどのようなポイントを伝えたらよいか
　宮本さんに相談にのっていただきました。

【お二人のつながり】

お二人では１９のプロジェクトをコラボされているそうです。
「宮本さんにいえば何でも作ってくださるから」

・水すまし
藤江さんの個展のための作品です。
「強度的にどうかな」「でもどうしてもやりたい」
ところが展示会当日に気になった宮本さんがそっと座ってみたら、ポキン！
急遽アクリルで補強したそうです。
「展示会ですから座れなくてもよかったんですよ」
「いやいや。今度（注文を）受けるときは大丈夫です」

・東京歯科大学水道橋ビル
藤江さんのくじらシリーズ№20。
エントランスに仕切りと椅子とアートを兼ねたものをいくらの予算で、
という注文にこたえたもの。
合板とアルミとガラスの組み合わせでできています。
「宮本さん受けてくれたの？あそこ狭いじゃないの、って言ってました」
「こんな大きなもの受けちゃって、と（社内でも）いわれました」
「作業場を借りたから、って。
これは木材を切り出しているところですね」
「アルミを切るのが大変だった」
「いくつかのブロックに組み立てて運んで、現地で組み上げていった」
「いまはないんですよね」
「設置したあと、真上の光源がかわって、頂上にまともに光があたりっぱなしになったら
アルミと木材の膨張率がちがうのでヒビがいってしまって」
「あせりましたねぇ。くみなおすことはできないし」
「危険はないからそのままになったんですが、のちにビル自体の用途がかわって撤去になった」

・愛知芸術文化センター
「これは隙間があいたのでばらしてメンテナンスしているところです」
「こういうことがあると学習しますね」
「指示してください、は困るんですよ。
宮本さんはその点、一緒に考えてくださるので助かります。」

・カッシーナCAB
「骨と皮。椅子が人のようにできている」
「これをみたときから宮本さんと仕事をしたいと思ったんです。
厚い皮をこんな風にできる人がいるんだ、って」

・富山市民プラザ
「厚い皮でロビーベンチをつくっていただきました」

・ヒルサイドテラスF棟
「モルフェシリーズの最初です。
長い皮製の横板が特徴で、直角がない。
背中をゆっくり受け止めてほしい、さらにゆるくしなってバウンド
してほしい、と無理難題をいいまして」
「骨格はスチールですが柱に丸と四角のポールを入れて皮はあとから着せて」
「裏側の皮の編み上げがセクシーですよね」

・東京マザーズクリニック
「局面で上が広がったデザインの皮の椅子、シワを抜くのが大変でした」
「病室でお母さんが赤ちゃんを抱っこして座る椅子もゆったりつくりました」

・新宿区立漱石山房記念館
「狭いスペースにちょっともたれて休むものをつくりました。
ここは固め、ここは柔らかめ、猫をなでるような肌触りとか
現地で説明しましたね」

【家具塾】

お二人が思いつかれて後進に経験を伝えるために主催しているものです。
宮本さんはスーパーバイザー
藤江さんが塾長。
作り方から考える家具シリーズ、とか素材から考える家具シリーズとか
見学会など盛りだくさん。
講義はワインを飲みながらすすめているそうです。

「頭の中でぼんやりと考えたものを具体的な形と大きさにするには
大きなエネルギーがいります。それを私は飛躍とよびたい。
宮本さんはそれができる人」
「まあ宿題があればやるんで、よろしくお願いします」

お二人の信頼関係が素敵でした。

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