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2019年04月19日14:54

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小池一夫の記紀神話解釈

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ちょうど先日、ネットで無料で読めたので『マッド☆ブル34』を全部読んだところだった。『マッド☆ブル34』は小池一夫の代表作とは言えないかもしれないが、僕と同じ世代の人間にとってはもしかしたら『子連れ狼』より印象深い作品かもしれない。

『マッド☆ブル34』は、治安が悪いイメージの強かった80年代のNYを舞台にした「ポリス・アクション」になるのかな。10代の頃に読んだ記憶だとドぎついエロ描写が多いようなイメージが強かったのだけど、たしかにスリーピーは出会う女出会う女とほとんど見境なくセックスしているとはいえ、全体的にはそんなエロ描写が多いわけではなかった。

特に今回『マッド☆ブル34』全編通読して、小池一夫の作風はちょっとスタンダールにも似ているような気がした。くだくだしい説明は省いて、簡潔でインパクトのある描写で畳みかける展開のスピード感、人と人が出会えば必ずそこにドラマが生まれるある種ロマンチックな人間観、そして英雄的人間の無条件な賛美を前提とするある種アルカイックな人生観――どれも小池一夫とスタンダールに共通のものである。物語の通俗性を恐れない健康なヴァイタリティも両者よく似ている。

そんな小池一夫の作品で、個人的に思い出深く、唯一手許に全巻所有しているのは、『マッド☆ブル34』の後にヤンジャンで連載されていた『連環 日本書紀』。これは覚えている人も少ない作品だと思うのだけど、主人公である現代の陶芸家が実は太安万侶の転生で、安万侶と稗田阿礼に古事記編纂を命じた天武天皇は実は時空エイリアンで、その天武天皇=時空エイリアンから日本の神話/日本の歴史を取り戻す――という、日本神話をモチーフにした荒唐無稽な伝奇ファンタジー。日本神話を批判的に再解釈することで、神話的呪縛から日本の歴史を解放するというモチーフは、ちょっと諸星大二郎の『マッドメン』にも通じるものがあるかもしれない。

『連環 日本書紀』がヤンジャンに連載されていたのは1992年で、ちょうどオウム真理教の全盛期。『連環 日本書紀』の作中にも、オウムっぽい新興宗教団体が出てくる。そんな地下鉄サリン事件前夜、バブル末期にあたる90年代前半の熱に浮かされたような世相も、『連環 日本書紀』には反映されているように思う。

現代の文脈に強引に引きつければ、時の政権が国粋色を強め、記紀万葉という日本のカノンが注目されている昨今、政権の思惑に絡め取られない形での記紀の読み方を提示した作品ということで、『連環 日本書紀』を読み直しても面白いかもしれない。

小池一夫の事務所だった「スタジオシップ(小池書院)」は、以前僕の住んでいた目黒のアパートから歩いて5分くらいのところにあった。そんなこともあって、勝手に「ご近所さん」的な親しみも抱いていた。ご冥福をお祈りします。
劇画原作者の小池一夫さんが死去
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=84&from=diary&id=5587805
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