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2018年06月04日05:31

241 view

栗原邸

山科。

栗原邸
継承のための一般公開

90年ほど前に建てられた国の登録有形文化財。
新オーナー募集のための公開を見てきました。

場所は御陵から山手に上がった住宅地で、背後には疎水が流れています。
600坪の鬱蒼とした木々の間から姿を現した三階建ての邸宅は
堂々とした円柱に支えられた半円形のポーチがまず目に入ります。
応接と食堂を仕切る引き戸の絵。ろうけつ染めです。
いくつものマントルピース。レトロモダンな照明器具。
ゆったりとした階段の途中の窓は、高さに変化がつけてありました。
バルコニーからは市内が眺望できます。
家具も当時のものが多く残されています。
5～6人が働けそうな広いキッチン。
かつてのオーナーのアトリエ…

ひととおり見学したあとでギャラリートークを聴きました。

住宅遺産栗原邸の可能性について
講師:住宅遺産トラスト関西理事(役職敬称等略)
笠原一人/玉田浩之/長岡弘隆/ 末村巧

【設計・本野精吾】

この建物は1929年(昭和4年)現在の京都工芸繊維大学の学長にあたる鶴巻鶴一という化学者の邸宅として建てられました。
鶴巻はろうけつ染めを復興したアーティストでもあります。
ここの襖絵も鶴巻によるものです。
鶴巻がこの家に住んだのは12年ほど。のち栗原邸となりました。

設計をしたのは本野精吾。
京都工芸繊維大の教授です。
東京生まれで帝大から三菱地所に入った本野を京都に招聘したのは武田五一。
京大の時計塔を作った人です。
京都に来た本野はドイツに留学してモダニズムに近づいていきました。
現在残っている本野の建築作品は4つ。

・西陣織物会館(現考古資料館)
・自邸
・栗原邸(竣工時は鶴巻邸)
・京都工芸繊維大学3号館

建築のみならずデザイナーとして
船舶から家具、グラフィックデザインも手掛けました。
栗原邸の家具も多くは本野のものですし、三木楽器の現事務室も彼によるものです。

最近は藤森照信氏により再評価されています。
2010年に本野精吾展を開催たときには沢山の方に来ていただきました。

【栗原邸の特徴】

さて栗原邸ですが、まず表面のブロックが目につくと思います。
建築法は中村式鉄筋コンクリート建築。
現在では行われていません。
Ｌ字型のブロックを風車のように並べて鉄筋を通し、コンクリートを流し込んでいます。
つまり構造を支えているのはあくまで鉄筋で、
ブロックは型枠のようなもの。
型枠が残っているようなものです。
いまアトリエの天井で漆喰を剥がしているのでよくわかると思いますが
床スラブまでブロックを使っています。

この工法はとても堅牢で、関東大震災でもこの工法による建物は１つも倒壊していません。
そこで本野が中村式で自邸を建てたのが1924年、関東大震災の翌年です。
素材を見せるモダニズムの表現、ワンルームによるコンパクトで機能的な動線でできています。

それに対して5年後に建てた鶴巻邸は豪邸であり、
デザイン豊かで装飾的でした。

では建てられた後の鶴巻邸について玉田先生からお話しいただきます。

【GHQによる接収】

(画像を映しながら)
戦後GHQによる接収では近代的モダニズムのものが選ばれました。
まあ京都では数寄屋建築もあったという特殊事情もありますが。
逆に接収されたことで、当時近代モダニズム住宅がどのようなところに建っていたのかがわかることになりました。
御所周辺。下鴨エリア。北白川。東山。京都女子大周辺。山科。

GHQの本部は古今烏丸のところですね。
府庁とか京都ホテル、都ホテル。
まずホテル、それから邸宅が接収されました。
駅前には第一軍団がいるという、こんな看板が立っていました。
市立美術館、いま改修中ですがここにも雑魚寝していますね。
用地を提供しなければならないということで植物園が米軍住宅地になりました。

接収された住宅に住んでいたのは将校クラスで
一般の兵士はこんなプレハブにいたわけですね。

1947年には栗原さんは出たり入ったりしていますね。
こんな風に接収したという看板がつけられていた。

【修復】

栗原邸の修復は京都工芸繊維大学大学院のプログラムとしてスタートしました。
2013年には日本建築学会教育賞を受賞して、今も続いています。

まず状況の調査、そして当時の材料がどのようなものだったのかという調査が行われました。

工事としては雨漏りをまず止めることから。
疎水が近くて湿気が多く、苔むしていたりコンクリートが劣化していて。
１年目は防水工事、それから１年に１部屋ずつ改修していきました。
屋上のアスファルトを剥がして、左官職人の指導で院生が塗っていきました。
タジマルーフィングが資材提供してくれまして、ここは卒業生の会社だったんですよね。

コンクリートは使われた川砂がどこのものだったのか調べないと再現できません。
そのあたりは佐藤ひろゆき氏にお願いしました。

修復はなるべく本来の姿に戻すという方針でやっています。
接収されたときにかなりの改修が行われました。
たとえば部屋をすべて違う色のペンキで塗る。
それを学生がカッターで剥がしていくという気の遠くなるような作業で。
ブラインドをつけたのも米軍ですね。
台所は白く塗られたし。椅子も花柄に張り替えられてしまった。

(接収時に床柱や白木にペンキを塗られた例は多いようです)

【座談会・活用の可能性】

住宅遺産トラスト関西という団体は2013年に設立されました。
メンバーは研究者や建築家、不動産業のかた、弁護士など様々な専門家です。
皆さん本業を持ちながらボランティアに近い形で活動しています。

こうした歴史的建物の継承について座談会形式で話し合ってみます。

個人の住宅で120坪、土地も広い。
このような場合どのような活用が考えられるのでしょうか。
ちなみに第１種低層住居専用地域です。

・共同住宅、シェアハウス、診療所というのもありましたね。
店舗では50㎡までであれば可能。
ホテルというか民泊施設、まずは近隣対策が必要ですが。

・末村です。大阪市内で不動産業をしています。
はじめ11年間は新築の物件をやっていました。
その後独立して20年です。
20年前は中古住宅の供給はしにくかった。
ローンが300万までしか組めない。リノベーション、リフォームからリモデルと言葉も変化して
今は20年30年のローンも組めるようになりました。
特に昭和59年金の耐震基準以降の建物がやりやすい。

・ヘリテージマネージャーというのも最近でてきた専門家ですね。

・歴史的建物の転用例といいますと
神戸のジェームス邸が在りますね。
結婚式場とレストランですか。
あそこも第１種住専なんですが、住民の同意を受けて許可をとったんです。

(ここで聴衆から発言。背後に疎水があって遊覧船が運行しているのだから
立ち寄る駅にすればよいという意見)

・そうですね、大文字山の登山口ですし疎水もあるし。

・単体で個人が買うというのは時代にあまり合いません。
周辺を巻き込んだ賑わい作りといいますか。
ここを単体で開発しても…
たとえばレストランはこの先にあるから食事はそこで、とか
善光寺の町ぐるみ旅館とか、視野を広げた再生が成功しています。

・2日前に改正文化財保護法が可決しました。
4月1日時から施行されます。1950年に法律が作られて以来の大改正です。
ポイントは文化財を地域作りに生かそうということ。
都市計画にもかかわりますし新しい追い風となりますね。

こちらは京都駅も近いし景色も美しい。
町の資産として守っていきながら
色々な可能性が探れますね。

＊＊＊＊＊

さてどのような展開となりますか…

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