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2018年04月07日19:15
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池大雅
円山応挙(1733-1795)
伊藤若冲(1716-1800)
与謝蕪村(1716-1784)
曾我蕭白(1730-1781)
長澤芦雪(1744-1799)
など
後世に名を残す絵師たちがきら星のごとく集まっていた18世紀の京都
そのなかのひとり、池大雅(1723-1776)
85年ぶり、国宝と重文が全て揃った展覧会です。
池大雅
〜天衣無縫の旅の画家〜
@京都国立博物館
初日の記念講演会を聴きました。
以下その概要のメモを。
自由な魂を求めて
〜池大雅の憧れた文人的世界〜
佐々木丞平(京都国立博物館長)
フライヤーでは「天才南画家」とされている大雅ですが、 講演では後の「文人画」を切り開いていく存在として紹介されました。
【絵画の構造】
もとより絵画とは厳然とした構造を持ったものです。
表面に現れているものから順に
�ゝ史 �材料・力量
��構成
ここまでの目に見えるものを「写形」としますと
その下に水面下の氷山のように「写意」が隠れている。
その「水面下の写意」も
�Ｌ榲�・方向性
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�ネ�解・解釈
�γ亮院�情報・概念
という階層を成し、
さらに「写意」全体を縦に貫く「感性」がある。
例えば私たちは若冲の絵画の色や形に魅了されますが
それは水面の上の氷山の一角にすぎません。
そして水面下をより重視するのが文人画なのです。
【絵画のみかた】
私たちは写実的な西洋絵画をどのように見るでしょうか。
・３次元としての空間表現
・位置的規定表現
・量感表現
・形態表現
・質感表現
・陰影表現
が整っているかを見ています。
同じように東洋画でもよく似た基準があります。
・気韻生動
・骨法用筆
・応物計象
・随類賦彩
・経営位置
・伝模移写
このルールにのっとっていれば、破綻のない
空間表現になるのです。
ではそれを見るときは。
・高遠近法
・平遠近法
・深遠近法 画面上に見上げたり見下ろしたり、
という視線の移動が示されます。
さらに
・大小差遠近法（大きいものが近くみえる）
・明度差遠近法（濃く描くと近くみえる）
・鮮明度差遠近法（くっきりしたものは近くみえる）
この６つによって空間表現がなされています。
【描く側から】
反対に描く方はどうでしょうか。
初心者にとって、実際の風景をいきなり絵にするのは難しくても
写真に撮ったものを写すことは容易なものです。
３次元ものが写真で２次元になっているからですね。
同じように、複雑な自然を分析して示すものに
『芥子園画伝』（今回展示��43）
のようなものがあります。
中国・康熙１８年（1679）編纂で、 樹形や 木の葉、岩、人間などをパターン化して描いた
辞典のようなもの。
大雅もおそらくはじめはこのようなものを写して学んだことでしょう。
文人画の勉強のしかたは、まず中国の本を読んで知識を積み重ねるのです。
我が国の初期文人画は「知識人の間で」「中国を手本として」「江戸中期に」 興りました。
特色は次のようになります。
�｜羚駟顕修悗梁し悗�深い
��空間構成法としては３遠近法、６遠近法
�Ｃ羚餡菎蠅陵�解
�こ┣萇集修稜愀覆�大きい
�ゴ岨蹐箚漸茲覆匹悗凌爾ざ詰�
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【大雅の特徴】
では大雅はどうでしょうか。
そこには伝統的な文人画との明確な違いがあります。
たとえば今展に出ている明代の《五百羅漢図巻》（王振鵬 ��51）、
静謐な空間を悠々と渡る羅漢が巻物に描かれています。
それをみた大雅がどのような作品を描いたか。(��151部分)
萬福寺東方丈の襖絵8幅でした。大きい。
遠近法によって空間がなめらかにつながっている中国文人画と違って、
前景の羅漢の すぐそばに極小の羅漢がドラスチックに描かれている。
さらに金泥を用いたり指で描いたりというのも中国文人画には ありませんが、
それについては後で述べます。
大雅は正規の文人画のルールをどんどん破っていくのです。
�仗鏡茵坡挈杪膣竸沺佞眩海蝓�
遠方から鳥瞰する中国文人画の「静」に対して
大雅の《岳陽楼図》 （後期展示）はダイナミックです。
こちらは重文《瀟湘勝概図屏風》（部分��138）
枝、幹、岩の濃く描かれた部分をみてください。
遠近法がくずれている。
見ているこちらは面白いですが伝統表現ルールに沿っていない。
手前の岩が薄く描かれているし、遠くの幹が濃いし。
でも合理性をシャットアウトしてみると、いいでしょう。
その場その場で関心をもって描いているというか。
蛍の光のようなもので、あっちできれい、こっちできれい。 目が迷う。
森で迷うときに感ずる感覚のようなものを 大雅というひとは強く持っていたのではないか。
このようなルール違反をたくさんしていることが大雅の魅力です。
いいかえれば大雅の絵は表現の自由性・危具性、 表現における一種の抵抗感を大事にしている。
いい筆を選ぶよりはちびた筆を使ったり指で描いたり。
ものの存在をしっかりとらえる応挙や若沖と違って 常に変化していく現象をとらえる「現象主義」。
金碧画法についても説明しておきましょう。
文人画と違う流派として群青や緑青を用いる描き方です。
しかし大雅は文人画でありながら、かけはなれた金を採り入れた。
《五百羅漢》では小指の爪をのばして羽ペンのようにして金で描いている。
指がしら、爪、こよりなど不自由さのなかで描いている。
そのほかにも空間を傾けたり
皴法（しゅんぽう）を破壊したり。
まさに現象主義ですね。
【文人画というもの】
最後に本来の文人画について。
文人画はそもそも人に見せるのが主目的でなく、自己確立を 目的とするものです。
自己の内的世界の覚醒を求める人が、内的世界を
再確認するため 多芸になったり旅に出たりして
五感をめざめさせて描かれる。
中国で文人の身分ある人が余技に描いた絵画からはじまりました。
よって作品に込められた知性的な表現が特徴です。
文人とは武人に対する言葉で、 士大夫で深い洞察力と幅広い教養を身につけた徳の高い人を指します。
例えば《桃鳩図》で知られる宋の皇帝徽宗は自ら画院を指導し 院体画をひろめました。
そのように文人画では精神性・哲学性・知性が重視され 技術的な職業画家とは違うものです。
そして古来中国では文人画をより高く評価していました。
唐の張彦道は「画の源流を叙す」で 意味の伝えようがないので書が生まれ、
形の伝えようがないので画が生まれた、 と述べています。
つまり言葉で表せないものを表現するのが絵であると。
絵を描こうとすれば自然界を深く観ようとするので大自然のなりたちに精通し 見聞を広め知識を積むことができる。
芸術は学問の一分野と考えられ
なればこそ科挙試験にも書や詩が課せられたのでしょう。
では文人をとりまく精神世界はどのようなものであったのでしょうか。
文人の精神的背景には儒教の影響が大きかった。 すなわち
「正心、誠意、修身、斎家、治国、平天下」。
一つの仮説をたてるならば 仏教（出家主義）の外に 儒教（政治主義、文明主義）があり、
その外に 銅鏡（反文明主義、自然主義）があった。
天地のために心をたて、生民のために命をたてても追放されることもあり
そうすると社会から隠遁して自然にかえる。そこでいい作品をつくる。
しかし世がかわればふたたび理性の支配する儒教や政治の世界に戻る。
それを繰り返す、蘇東坡のように。
個人の心という小宇宙から天下国家、さらには大然・大宇宙へつながる
壮大な精神のなかで文人は生きていた。
大雅は市井のひとであり政治とは無関係でした。
でも道教と儒教の世界を行き来するひとをみていたかもしれない。
自分はいきなり道教の世界・自然にとびこんで従った。 現象主義です。
それが大雅の醍醐味であり
合理的な世界観から逃れた大雅の自然主義でしょう。
＊＊＊＊＊
展覧会は5月20日まで。
4月末に大きな展示替えがあります。
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伊藤若冲(1716-1800)
与謝蕪村(1716-1784)
曾我蕭白(1730-1781)
長澤芦雪(1744-1799)
など
後世に名を残す絵師たちがきら星のごとく集まっていた18世紀の京都
そのなかのひとり、池大雅(1723-1776)
85年ぶり、国宝と重文が全て揃った展覧会です。
池大雅
〜天衣無縫の旅の画家〜
@京都国立博物館
初日の記念講演会を聴きました。
以下その概要のメモを。
自由な魂を求めて
〜池大雅の憧れた文人的世界〜
佐々木丞平(京都国立博物館長)
フライヤーでは「天才南画家」とされている大雅ですが、 講演では後の「文人画」を切り開いていく存在として紹介されました。
【絵画の構造】
もとより絵画とは厳然とした構造を持ったものです。
表面に現れているものから順に
�ゝ史 �材料・力量
��構成
ここまでの目に見えるものを「写形」としますと
その下に水面下の氷山のように「写意」が隠れている。
その「水面下の写意」も
�Ｌ榲�・方向性
�せ彖�
�ネ�解・解釈
�γ亮院�情報・概念
という階層を成し、
さらに「写意」全体を縦に貫く「感性」がある。
例えば私たちは若冲の絵画の色や形に魅了されますが
それは水面の上の氷山の一角にすぎません。
そして水面下をより重視するのが文人画なのです。
【絵画のみかた】
私たちは写実的な西洋絵画をどのように見るでしょうか。
・３次元としての空間表現
・位置的規定表現
・量感表現
・形態表現
・質感表現
・陰影表現
が整っているかを見ています。
同じように東洋画でもよく似た基準があります。
・気韻生動
・骨法用筆
・応物計象
・随類賦彩
・経営位置
・伝模移写
このルールにのっとっていれば、破綻のない
空間表現になるのです。
ではそれを見るときは。
・高遠近法
・平遠近法
・深遠近法 画面上に見上げたり見下ろしたり、
という視線の移動が示されます。
さらに
・大小差遠近法（大きいものが近くみえる）
・明度差遠近法（濃く描くと近くみえる）
・鮮明度差遠近法（くっきりしたものは近くみえる）
この６つによって空間表現がなされています。
【描く側から】
反対に描く方はどうでしょうか。
初心者にとって、実際の風景をいきなり絵にするのは難しくても
写真に撮ったものを写すことは容易なものです。
３次元ものが写真で２次元になっているからですね。
同じように、複雑な自然を分析して示すものに
『芥子園画伝』（今回展示��43）
のようなものがあります。
中国・康熙１８年（1679）編纂で、 樹形や 木の葉、岩、人間などをパターン化して描いた
辞典のようなもの。
大雅もおそらくはじめはこのようなものを写して学んだことでしょう。
文人画の勉強のしかたは、まず中国の本を読んで知識を積み重ねるのです。
我が国の初期文人画は「知識人の間で」「中国を手本として」「江戸中期に」 興りました。
特色は次のようになります。
�｜羚駟顕修悗梁し悗�深い
��空間構成法としては３遠近法、６遠近法
�Ｃ羚餡菎蠅陵�解
�こ┣萇集修稜愀覆�大きい
�ゴ岨蹐箚漸茲覆匹悗凌爾ざ詰�
�ι奮�
【大雅の特徴】
では大雅はどうでしょうか。
そこには伝統的な文人画との明確な違いがあります。
たとえば今展に出ている明代の《五百羅漢図巻》（王振鵬 ��51）、
静謐な空間を悠々と渡る羅漢が巻物に描かれています。
それをみた大雅がどのような作品を描いたか。(��151部分)
萬福寺東方丈の襖絵8幅でした。大きい。
遠近法によって空間がなめらかにつながっている中国文人画と違って、
前景の羅漢の すぐそばに極小の羅漢がドラスチックに描かれている。
さらに金泥を用いたり指で描いたりというのも中国文人画には ありませんが、
それについては後で述べます。
大雅は正規の文人画のルールをどんどん破っていくのです。
�仗鏡茵坡挈杪膣竸沺佞眩海蝓�
遠方から鳥瞰する中国文人画の「静」に対して
大雅の《岳陽楼図》 （後期展示）はダイナミックです。
こちらは重文《瀟湘勝概図屏風》（部分��138）
枝、幹、岩の濃く描かれた部分をみてください。
遠近法がくずれている。
見ているこちらは面白いですが伝統表現ルールに沿っていない。
手前の岩が薄く描かれているし、遠くの幹が濃いし。
でも合理性をシャットアウトしてみると、いいでしょう。
その場その場で関心をもって描いているというか。
蛍の光のようなもので、あっちできれい、こっちできれい。 目が迷う。
森で迷うときに感ずる感覚のようなものを 大雅というひとは強く持っていたのではないか。
このようなルール違反をたくさんしていることが大雅の魅力です。
いいかえれば大雅の絵は表現の自由性・危具性、 表現における一種の抵抗感を大事にしている。
いい筆を選ぶよりはちびた筆を使ったり指で描いたり。
ものの存在をしっかりとらえる応挙や若沖と違って 常に変化していく現象をとらえる「現象主義」。
金碧画法についても説明しておきましょう。
文人画と違う流派として群青や緑青を用いる描き方です。
しかし大雅は文人画でありながら、かけはなれた金を採り入れた。
《五百羅漢》では小指の爪をのばして羽ペンのようにして金で描いている。
指がしら、爪、こよりなど不自由さのなかで描いている。
そのほかにも空間を傾けたり
皴法（しゅんぽう）を破壊したり。
まさに現象主義ですね。
【文人画というもの】
最後に本来の文人画について。
文人画はそもそも人に見せるのが主目的でなく、自己確立を 目的とするものです。
自己の内的世界の覚醒を求める人が、内的世界を
再確認するため 多芸になったり旅に出たりして
五感をめざめさせて描かれる。
中国で文人の身分ある人が余技に描いた絵画からはじまりました。
よって作品に込められた知性的な表現が特徴です。
文人とは武人に対する言葉で、 士大夫で深い洞察力と幅広い教養を身につけた徳の高い人を指します。
例えば《桃鳩図》で知られる宋の皇帝徽宗は自ら画院を指導し 院体画をひろめました。
そのように文人画では精神性・哲学性・知性が重視され 技術的な職業画家とは違うものです。
そして古来中国では文人画をより高く評価していました。
唐の張彦道は「画の源流を叙す」で 意味の伝えようがないので書が生まれ、
形の伝えようがないので画が生まれた、 と述べています。
つまり言葉で表せないものを表現するのが絵であると。
絵を描こうとすれば自然界を深く観ようとするので大自然のなりたちに精通し 見聞を広め知識を積むことができる。
芸術は学問の一分野と考えられ
なればこそ科挙試験にも書や詩が課せられたのでしょう。
では文人をとりまく精神世界はどのようなものであったのでしょうか。
文人の精神的背景には儒教の影響が大きかった。 すなわち
「正心、誠意、修身、斎家、治国、平天下」。
一つの仮説をたてるならば 仏教（出家主義）の外に 儒教（政治主義、文明主義）があり、
その外に 銅鏡（反文明主義、自然主義）があった。
天地のために心をたて、生民のために命をたてても追放されることもあり
そうすると社会から隠遁して自然にかえる。そこでいい作品をつくる。
しかし世がかわればふたたび理性の支配する儒教や政治の世界に戻る。
それを繰り返す、蘇東坡のように。
個人の心という小宇宙から天下国家、さらには大然・大宇宙へつながる
壮大な精神のなかで文人は生きていた。
大雅は市井のひとであり政治とは無関係でした。
でも道教と儒教の世界を行き来するひとをみていたかもしれない。
自分はいきなり道教の世界・自然にとびこんで従った。 現象主義です。
それが大雅の醍醐味であり
合理的な世界観から逃れた大雅の自然主義でしょう。
＊＊＊＊＊
展覧会は5月20日まで。
4月末に大きな展示替えがあります。
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