とん平のヘイ・ユウ・ブルース

左とん平が亡くなった。

左とん平というと、僕としては、西田敏行の後任で演じていた『西遊記』の猪八戒と、そしてなんといっても「ヘイ・ユウ・ブルース」での一世一代の絶唱が忘れ難い。

スチャダラパーがサンプリング・ネタにしたことがきっかけとなり、「ヘイ・ユウ・ブルース」は90年代初期にリバイバル・ヒットしたのだけど、元々は、70年代初期に、左とん平が流行らせていた「ヘイ・ユー! 　ホワッチャー・ネーム?」というギャグに目を付けたミッキー・カーチスのプロデュースで録音されたという企画物のカルト名曲。

70年代のフィリー・ソウルを思わせる流麗なストリングスに、クールなホーンセクションが絡む、最高にファンキーなバックの演奏に乗せて、都会で生きる男の孤独と悲哀を「すりこぎ」に譬えた歌詞――というか愚痴――を、ＪＢを彷彿とさせるダミ声で激しく訴える左とん平のヴォーカル・パフォーマンスが絶品。

はじめは単なるギャグでしかなかった「ヘイ・ユー! 　ホワッチャー・ネーム？」というフレーズが、この曲では、現代社会という出口のない迷路のような巨大な不条理を前にして絶望する人間の名も知らぬ神へのヨブ的な訴えのようにすら響くに至っている。

ギャグもつきつめれば祈りに通じる？　いや、むしろ、根底にギャグのないような祈りなど畢竟偽りに過ぎない――という、不条理劇の核をなす根源的な「笑い」にまで聴くものを連れて行ってくれる、ほとんど哲学的ですらある名曲である。

カップリングの「東京っていい街だな」は、作詞者の郷伍郎の自伝的な歌詞で、少し太宰の遺作『グッド・バイ』にも通じる粋人の「軽み」を感じさせる逸品。




左とん平さん死去80歳　昨年６月急性心筋梗塞入院
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=8&from=diary&id=5001946