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2017年08月29日06:00

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聞いたこともない映画に接すると、新しい世界が広がる。テッド・コッチェフ監督「荒野の千鳥足」(1970)。

テッド・コッチェフ監督は「おかしな泥棒ディック&ジェーン」(1977)というコメディーで名前を知りました。ジェーン・フォンダとジョージ・シーガルが演じる夫婦が、突然仕事を首になって生活できなくなり、金を借りに行ったところ強盗が入り、そのどさくさに大金を手に入れるという話。いや、痛快なコメディーでした。

今回は、オーストラリアが舞台。片田舎に赴任させられた若い教師が、クリスマス休暇(南半球なので6週間の夏休み)でシドニーの恋人に会おうとしますが、飛行機を待つために一泊したヤバという町で、町をあげて行っているような丁半賭博に手を出し、無一文になってしまうという展開です。考えてみたら「おかしな泥棒ディック&ジェーン」の逆パターンですね。

テッド・コッチェフ監督はこの後、アメリカ映画に進出して「ランポー」を生みだし、「地獄の7人」(1983)や「スイッチング・チャンネル」(1988)など商業監督として活躍します。とくに「ヒズ・ガール・フライデー」や「フロント・ページ」をテレビ界を舞台にリメイクした「スイッチング・チャンネル」が秀逸でした。その後はテレビ界で「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」(製作総指揮と初期の監督も)を生みだします。

元々はカナダ出身の監督で(両親はブルガリアからの移民)、カナダ放送協会に最年少監督として勤めた後イギリスに渡り、テレビや舞台から映画に進出。そしてオーストラリアで作ったのがこの「荒野の千鳥足」です。これがカンヌ映画祭でパルムドールの候補となり、注目を集めたらしい。

パルムドールの候補作なら見なくちゃ、と思う方はぜひご覧ください。まずファーストシーン、オーストラリアの辺境の地タブンダという町の駅にカメラを据えて、360度ぐるりと周囲を見せるのですが、まず民家が見当たらない。そんな町(村?)の小学校教師が、生徒たちとにらめっこして終業時間を待っている、その空気感に驚くはずです。

しかし、この教師が支度金1000ドルにつられて赴任して来て、それを返さないと都会に戻れないという事実が分かるのは、もう少し後。飛行機を待つために一泊する、ヤバと呼ばれる町でのことです。やたら親切な住人(親切なのは保安官だけではありません)の好意に乗って、丁半賭博に加わると200ドルが800ドルになる。1000ドルは目の前、という展開です。

そしてこの物語を、じつにオフビートで展開するから、見ていてジリジリします。この味わいがカンヌの審査員の映画心をくすぐったのでしょう。カンヌ映画祭は作品の持つ空気感を大切にしますから。しかしパルムドールはジョセフ・ロージーの「恋」が取り、審査員特別賞は「ジョニーは戦場に行った」と「パパ/ずれてるウ!」にさらわれました。

オーストラリアを舞台にした少女のサバイバル映画に、ニコラス・ローグの「美しい冒険旅行」がありましたが、なんとこの「荒野の千鳥足」と同時にカンヌに出品されていたんですね。「美しい冒険旅行」はイギリス映画で、「荒野の千鳥足」はオーストラリア映画となっています。ちなみに日本代表は中平康の「闇の中の魑魅魍魎」です。

カンヌ映画祭では一部から、“オーストラリア映画史上最高の作品”と評されたらしい。この言葉で見たくなった方、すぐにレンタル店に走ってください。ツタヤのネットレンタルにもあります。公開後、しばらくしてネガが紛失したとかで、噂だけが世界を駆け巡ったようです。何でも、アメリカ東部の古道具屋で、“破棄用”と書かれた箱から見つかったそうな。

主人公を演じるのはゲイリー・ボンド。僕は全く知りません。ボンドという名前に惹かれて起用したんじゃないかな。唯一知っている俳優がドナルド・プレゼンスですから、ブロフェルドの相手役にはちょうどいい。ゲイリー・ボンドは本名を、ゲイリー・ジェームズ・ボンドというそうですし。ドナルド・プレザンス(誤植じゃないよ、後の検索用)も「大脱走」で失明したから脚本読まずに引き受けたのかもね。

とりあえずアメリカン・ニューシネマが広まろうかという時期に、あの空気感を先取りする雰囲気の映画がオーストラリアにあったという意味では、映画史的に重要でしょう。←そういえば同じカンヌ映画祭に、ジェリー・シャッツバーグの「哀しみの街角」が出品されてますね。映画のタッチが世界的に大きく変わる、その時代を代表する映画というわけだ。

お断りしておきますが、この映画に手を出して、時間の無駄をしたなどという不満不平は一切受け付けません。すべて自己責任ですのでよろしくお願いします。
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