mixiユーザー(id:2615005)

2017年05月04日22:29

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最新作と超古典〜『暗手』『フランケンシュタイン』

こちらへ戻ってから読んだ本を二冊レビューします。

・暗手(2017)作:馳星周
ひさしぶりのノワールだ。台湾プロ野球の八百長をテーマとする『夜光虫』の続編である。
主人公はイタリアでサッカーの八百長コーディネーターをやっている。前半は緊迫感があって、なかなか読ませる。日本人ゴールキーパーを狙って罠にかけるプロセスは、黒くて吸引力がある。

が、中盤以降がいけない。主人公の加倉はプロ野球のピッチャー崩れだが、台湾で無敵の殺し屋になっている。そんな安直な。立ちふさがるギャングを射的の人形みたいに殺しまくる。主人公が強すぎると、大味で興を削ぐ。冷血を気取りながら、昔の想い人に似た女に惹かれてふらつくのもどうかと思う。かつての濃密な馳ノワールを期待したら、間違いなく失望する。

ノワールというより普通のハードボイルドだな。大藪春彦の亜流みたいだ。アクの強い悪者たちも精彩を欠く。特にライバルの馬兵が魅力的になりそうなキャラだけに、惜しい。まあ普通の娯楽小説としては、悪くはない。★★★


・フランケンシュタイン(1831)作:メアリ・シェリー
ほとんどの人が知っているが、原典を読んだ人は少ないだろう。
髪を振り乱したマッドサイエンティストが、深夜雷鳴の中で怪物を創造するーーというのは映画が作ったイメージで、そんな場面はない。怪物創造はしごくあっさりしていて、「作った」と書いてあるだけ。フランケンシュタインは別にマッドではなく、頭がいいだけの好青年だ。

古い小説というのはみんなそうだが、やたらと余分な記述が多い。主題は人造人間なんだからそこに力点を置けばいいのに、家族だの友人だの端役の人物にまでベタな人情話みたいな事情があって、延々と無関係な枝葉を読まされる。怪物が身を隠す農家の住民にまで複雑な事情があるのだ。どう考えても余分だろう。終盤の怪物の行動と心情は哀れで、ほかの人物より遥かに共感できる。怪談という割には怖くないが、200年前は「人が人を造る」というだけで冒涜的な恐怖だったのだろう。★★
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