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2017年03月20日10:09

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新宮晋

展覧会冒頭に掲げられた言葉にすべてが凝縮されていて。

風と水の彫刻家
新宮晋の宇宙船
@兵庫県立美術館

関西国際空港のロビー頭上で揺れるもの。
新宮晋(しんぐうすすむ)の作品は世界各国の公共空間で見られます。

長崎、横須賀と巡回した展覧会がようやく地元にやって来ました。

《星の海》に迎えられて会場に入ると

《雲の日記》《小さな宇宙》《空のこだま》など
カーボンファイバーやポリエステル等でできた作品が天井から吊るされ

床には144枚のパーツからなる《風》。

どの作品も空気の対流で緩やかに動いています。

続く照明を落とした展示室では《雨の光線》。
降り注ぐシャワーを受け、細長いステンレスのじょうごのようなものが時計の針状の支持体とともに複雑に回転。
ピンスポットの照明を受けて作品と水が輝きます。

いちばん好きだったのはこれもおとした照明の中にあった《小さな惑星》。
フライヤーのメインビジュアルにもなっています。

プールの上に半身ずつずらして吊るされたステンレス製の6つの形。
上からパイプで水を受けてその重みで揺れて傾き、時おり両端の穴から水を落とします。
スポットライトがあたり6つの金属の反射する光が展示室の壁に文字どおり惑星の軌跡のような光筋を作っていくのです。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

初日のアーティストトークを聴きました。

グレイの上着の下に鮮やかな緑のポロシャツの新宮さん、今年80歳ですがスニーカーで若々しい。

人前でしゃべるのが慣れないもので、と仰りながら
今回の展覧会のコンセプトから進行中のプロジェクトまで作品映像を映しながら語られました。

◆展覧会について
今回の出品作の殆どは2016年の作品です。
本来アウトドアの屋外彫刻がメインなんですが
電話１本で美術館内でやることになって。
隈研吾さん(長崎県美術館)、山本理顕さん(横須賀美術館)、ここ(兵庫県立美術館)も誰か忘れましたが(客席ウケる、安藤忠雄さんです)有名建築家の代表作の美術館だというので
各美術館を活かしたもの、3つ全体を通して１つのものにしようと考えました。
没後誰かに計画されるのはイヤだから自分で自分流にやりたい。
これまで美術館には興味がなくて勉強もしていなかったので今回とても勉強になりました。
皆さんはもう会場を見られたのか、トークを聞いてから行こうと思われてるのか、聞いて行くのをやめようと思われるのかわかりませんが(客席笑い)
長崎横須賀とまわってきて一番成熟したものをご覧いただけると思います。
展覧会はチームで行いますがそのメンバーがよくて、これなら美術館でやるのも悪くないと思っています。
ハコを提供されてその中に納めるというのでなく作品から展示空間を考えたのが今までの展示と違いました。
壁・床を使わず、空間のなかで浮遊するような
会場に入ってから出るまで浮遊感を味わうような
現実とは別の時間を過ごしてもらえるといいなと思います。

◆関空の作品について
作品には台風でも耐えられるよう計算された重量彫刻と、
室内で、ピンでとめられるようなグラム彫刻とよんでいるものがあります。
関西国際空港の出発ロビーの空中で動いている17基は1992年に作りました。
関空の設計コンペをとったレンゾ・ピアノのオフィスからある日電話があって、ヒルトンホテルのロビーで会いました。1988年のことです。
彼は大きな図面を巻いたのを抱えてきて。
「イタリア語できるよ」って言ったら「なんで？えーっ」(新宮さんはローマに留学されましたので)
「お前だけが空気のことをわかっている作家だ、会いたかった」
後に同い年だとわかりましたし、彼にしてみたら時差ボケと通訳を通した打合せでくたくたになっていたところにイタリア語を話す男が現れた！ってところでしょうか。
親友になりました。
以来レンゾと10点以上コラボしています。
近年ではアテネ文化会館のロビーとオペラハウス。
レンゾは建物の性格からやってほしいことを説明してくれる。
「新宮はいつもハイと言うが出来上がると違うことになっていてビックリする」
今も2022年のベイルートの話が進行中で、いつまで続くか、前に(プロジェクトが)あるからそれまで頑張らないと、と思います。

◆作品スタイルができるまで
留学でローマに行ってからの6年間で、平面から立体、動くもの、と作品がものすごいスピードで変わりました。
以来53年間自然エネルギーで動くものを作っていますが、飽きない。
この53年間はこれからやることの準備期間だったように思います。

◆各地の作品紹介(映像を映しながら)
・光のさざ波(三田アトリエ付近)
・波の翼(瀬戸内生口島)
・水の木(青野ダム)
・宇宙に捧ぐ(メゾンエルメス)
・コロンブスの風(ジェノバ)
・遠い空(NY メルセデスハウス)
・風のフーガ(フランス個人蔵)
・光のシンフォニエッタ(チュイルリー公園)
・水の惑星(ミツカンミュージアム)etc.

◆風のミュージアムでのイベント
30年前「ウインドサーカス」としてブレーメン、バルセロナ、フィレンツェ、ラハティを巡った作品12点を
兵庫県に寄贈、アトリエ近くに「風のミュージアム」として常設展示されています。
(池の中の《風のロンド》は新作)
この池に舞台を作っていろいろなイベントが開催されています。

・風の能
人間国宝の梅若玄祥さん、小鼓の大蔵源次郎さん、笛は藤田六郎兵衛さん等々
ものすごい出演者。
完璧屋外、水の上に作られた舞台で日没後は新宮さんの作品で薪が焚かれます。

・風のジャズ
ビッグバンドで屋外でジャズ。
「さっきの《キャラバン》、最後は《singsingsing》。僕は新宮(シングー)だから」
「皆で踊ろうっていうコンセプトだったんですが、日本人がこんなにみんな客席から立って踊ってくれるとは思わなかったです」

・苺エクスプレス
新宮さんは絵本も沢山だされています。
その《いちご》を読んで育ったというギタリストの清野巧巳さんとコラボした、たった一回のオリジナル公演。幼稚園の子供たちも出演、ミニ鉄道まで走ったり楽しそう。
「3mの絵本も3.5mの苺もまだほぼ新品でうちにあります。ご要望がありましたら」

◆メッセージ
53年間風や水と遊んできたのは地球が素晴らしい星であると伝えたいためです。

やっと少しわかってきて、今まではウォーミングアップ、いよいよ本気をだそうと思います。
続けることでわかる世界があるのです。
それほど地球は面白い。永遠には生きられないから限度はあるけれど、この星に生まれてきたのはラッキーなのだから、もう少し地球と遊びたい。

(皆さんも)やりたいことはどんどんやったほうがいい。
「自分のできること」から考えるのは消極的でまずいのでは。
ちょっとやれないことにもハッキリとしたイマジネーションをもつこと。
目標に現実が追いついたらそれは夢じゃない。
僕は宿題をたくさん残してあの世へ行きたいんです。
そしてそれを誰かが受け継いでくれれば。

プロジェクトにあたって予算とか人材とかから割り出して「これしかできない」というのは間違っている。
世の中は何だかおかしい。その中でアーティストは何をやるべきか？
僕らは政治家やビジネスマンじゃない。
アーティストとは何かを真剣に考えるべきだと思う。

人は誰でも心の中にアートを持っている。
アートは人間の本性のようなもの。
今日何を着ようか、というのもアート。どうでもいい日常ではない。気分と結び付いた楽しいもの。

こんなことを言い出すのは年のせいですね。
今年で80歳です。
いくつまで生きれば本当にやりたいことができるのか。

◆これまで、そしてこれからのアートプロジェクト

・ウインドキャラバン2000-2001
製作に行き詰まった訳ではないのですが
このままではただの芸術家で終わる、地球のことをもっと知りたいと思って
作品を携え２年かけて世界6箇所をまわりました。
スポンサーなし、お金もなし。各国の文部省に掛け合ったり。
行ったのはニュージーランド、フィンランド、モロッコ、モンゴル、ブラジル。自然と密着した生活をしている先住民の方々のところ。
輸送も大変でモロッコからモンゴルでは日通にもそんな輸送はしたことがないと驚かれたり。

・元気のぼりプロジェクト
東日本大震災のあと、宮城県へ沢山の人達に描いて貰った鯉のぼりを送りました。ドイツは黒っぽかったりアラスカは白っぽかったりお国柄が出るのが面白い。
送るのも保管もラク、現地の風を受けて完成する作品だからこそ伝わるものがある。
宮城県の漁港にはウインドキャラバンの作品も持っていきました。

・ブリージング・アース
進行中のプロジェクト。
未来のまちづくりというか、自然エネルギーで自活する村の構想。
南イタリアのマデーラが名乗りをあげてくれたのですが首長が代わったりしてなかなか難航しているようです。

未来への考え方として、目に見えるものを作っていかなければ単なる理想主義者だと思われてしまう。
正しいものはいつもマイノリティで。

風で動くものを作っているせいか、自分はドン・キホーテのような気がしている。
まあ幸いサンチョ・パンサがついてきてくれていますが。
趣旨にご賛同いただけるかたはどうぞご協力ください。
こうして僕の話を聞いてくださる方々は有望だと思ってますので。(会場笑い)

◆質問コーナー

問い。(子供から)どうしてジンベイザメの絵本をつくったのですか。
答え。
自分が知らなくてビックリしたことを絵本にしています。こんなものが生きていて、こんなに優しくて、ゆったり悠々と泳いでいて、口をあけてエビなんかを食べていて。
沖縄の水族館の館長さんに教えていただいて。
絵本が出たあと海遊館にジンベイザメが来てスターになってしまったけどそうしたらもう書きたくない(笑)。
知らないものを面白いと思ったら人に伝えたくなって描く。趣味でやってます。

問い。
お気に入りの作品は。製作で苦労することは。
答え。
特別に好きなものはないです。今までのものは皆きらい。
これから大好きなものを作ります。
作品は、自分の作りたいものと、こんなものを作ってくださいというものが一致しないと成立しません。
営業活動をしないアトリエなのに作ってくださいという、しかもちゃんと支払ってくれる人が現れるのはラッキーなこと、奇跡のようなことです。
やはり人との出会いですね。
僕の作品にはメンテナンスが要るし場所が大事なんで、転売して高く売ろうという人には作りたくない。

問い。
《時の流れ》という作品がありますね。短針と長針のように見えましたが自然と人工物の取り入れかたは。
答え。
それ、質問ですか？
あのね、作品のタイトルに騙されちゃいけませんよ。
僕は美人を描いて《美人》ってタイトルをつけるのはようやらん。
ちょっと捻ってスキマを作る。
具象ではないし、イメージを膨らませてもらうといいのでは。
その点、子供たちはいろいろ直感的に言ってくれて面白い。

問い。
アーティストを目指しています。ドイツに行くのですが新宮さんは若いときイタリアにいらっしゃいましたね。イタリアにどのような影響を受けましたか。
答え。
ドイツに行く人にイタリアのアドバイスは…(会場笑い)
今は簡単に外国に行けますが、私が行った頃は外貨に替えるのも大変でした。
ただ当時の藝大は田舎から絵のうまいのが集まってきていて、このまま東京にズルズルいたらダメになるな、と。
政府の留学制度があったのがフランスとイタリアで、
フランス語の教室に行ったら一杯。これは%がわるい、と音楽の方のイタリア語へ行って。
キャンバスに描くことへの興味が段々薄れていって建物と一体化したフレスコとかステンドグラスをみたいと。
ピエロ・デ・ラ・フランチェスカ様々って感じで作品があると知ればどんな田舎でも行きました。
この壁の前で彼が(制作に)悩んだのか、と思ったり。本物はいい。
あと、イタリア人は表現の天才ですね。フェラーリやアルマーニのギラギラは日本にない。「そこまでいうか」と思う。

会場の要望で最後に奥さまが紹介されると「サンチョ・パンサです」と自ら仰っていました。

5月7日まで。
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1703/index.html

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常設は「彫刻大集合」。

ロダン《永遠の青春》
ジャコメッティ《石碑Ⅰ》
舟越保武《ダミアン神父》
佐藤忠良《若い女》
ブランクーシ《新生》
堀内正一《線a》
シーガル《ラッシュアワー》
舟越桂《消えない水滴》etc.

見応えがあります。
もう少しタイトルなんとかならないのかな。

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