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2017年02月05日20:12

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茶碗の中の宇宙

対談のおわり、吉左衛門氏は宮沢賢治を暗誦されました。
まことのことばはうしなはれ 
雲はちぎれて空をとぶ
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ 


茶碗の中の宇宙
〜樂家一子相伝の芸術〜
@京都国立近代美術館

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樂家十六代450年にわたる作品と光悦や乾山など関連資料が94点
現当主十五代吉左衛門の作品が65点。


当代をして「わたしが生きている間に、これほどの展覧会は二度とできない」
と言わしめた充実内容です。

茶碗には詳しくないし、さらりと観るつもりが、三時間近くかかってしまいました。
それは各人の特長など、丁寧な解説がされていたことにもよります。



観賞後に十五代吉左衛門氏とアーティスト ジュリー・ブルック氏の対談を聴講。

ステージ前には炉に釜がかかり、まわりに赤い土塊がまかれています。
あとでわかったのですが、それはブルック氏の作品に登場する素材でした。

ブルック氏はスコットランド出身のランドワークアーティストです。
吉左衛門氏とは一年ほどの交遊のようですが
吉左衛門氏はブルック氏の作品映像をみて、アートのなかに美しさを取り戻したような気がしたといいます。

紹介された作品映像。
(1)スコットランド、アウターヘブリティ諸島
夕陽の海。夕陽と同じ色の燃え盛る炎。海底から水面を見上げる映像。海藻の森。
カメラが海面に戻ると、炎は水際に積まれた石垣の上に燃えているとわかる。
波をかぶり水蒸気を吹く炎。再び燃えさかる炎に満潮が迫る。ぱちぱちとはぜる音。


(2)ナミビア、ヒンバ族の採石洞窟
赤い砂嵐のような画面。プリミティブな歌。土を掘る若い女たち。手拍子。
揺れるビーズ。彼女たちはこの赤い粉を獣脂と混ぜて皮膚と髪に塗るという。


(3)ナミビア、採石場。
白い岩。所々にはいっている亀裂。風の音。
この景色のどこかはブルック氏の手が加えられているのだという。


あるいはただ河岸を削るだけ、という作品もあるそうです。
いずれも力強い。それは火・土・水・風という4つの要素でできているから。
実際の制作活動もかなりハードなようで、最初の海中の炎など、季節は冬だし
潮目にふりまわされて「潮のコレオグラフィみたいだった」
つまり地球を相手にした一時的な創作です。


そんな作品に吉左衞門氏はなぜ惹かれたのでしょうか。
考え方が似ている、といいます。
千利休から依頼されて始めて樂茶碗をつくった初代長次郎の作品は
パーフェクトなバランスをもっていました。
「長次郎は別格だと考えて欲しい。
そこにいけない自分が考えているのは、完全なバランスが壊れているのが大事ということ。
バランスとアンバランスのぎりぎりのせめぎあいもあるのではないか」


ブルック氏も自分と自然のありかた、いいかえれば
作られるものと作られていないもののバランスに興味がある。
それは一歩はずせば作品として成立しなくなる微妙なもの。
いわば自然との競作。ここまで踏み込もう、ここでやめておこう、というバランス。
自然に手を加えることで風景の再解釈が試みられる。


吉左衛門氏は藝大で彫刻を学びました。
しかしわずか数年でなぜ作るのかわからなくなった。
自分が考えているものが一つの形となって、みて下さい、と世界に存在させることが空しくなったといいます。
解決不能な疑問に入り込んでは続けられない。
それでも氏は、やきものをもってものを作る世界に戻ってきました。


「僕は自意識が突出しているから、なんでこんな形なの、といわれようととんがらす。
でも火・土・水・風の4大元素が自分の意志をくじく。
面相筆でひいた細い線、それを火がくずす。とばす。変える。
相容れない意識と自然がシェイク・ハンドしたところに作品ができる。
人が作った世界だけがアートではない」


吉左衛門氏の仕事場、一番奥には土置き場があるのだそうです。
先祖が集めた石が積まれている。
いま自分が使っているのは十二代が見つけた石。
それを石臼のようなもので砕いていく。
細かすぎても土が割れてしまうから横にいて盛り上がった土を周りから
すり鉢のなかに落としていく。
まいあがる白い粉。肺に悪いから手ぬぐいで鼻と口をおおって…
ああ、それはナミビアで赤い石を掘る現場のブルック氏に繋がる光景ですね。
そして火。
お二人が相手に共通するものを感じるのがようやく少しわかってきました。


ブルック氏は今年5/6月〜9月、石川県の小松にある採石場で
新しい活動をするそうです。


最後にブルック氏が展覧会で心に残った作品から。
No.95十五代吉左衛門 黒樂 月朧明(これは本当に情熱的で素敵★)
No.33三代道入 黒樂 寿老人
No.55七代長入 赤樂
No.112十五代吉左衛門 黒樂 シリーズ夜の航海より 桂舟
No.101十五代吉左衛門 黒樂 砕動風鬼
No.158十五代吉左衛門 黒樂(岩石茶碗)

何度も繰り返された「アートは美しくなくては」、という言葉。しかし
「美しいものをただ模倣しても何にもならない。
それとのかかわりかたを自分で決めていくことが大事だと思う」
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2月12 日まで。
3月14日から東京国立近代美術館に巡回
http://raku2016-17.jp/index.html

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ちなみに十五代吉左衛門の長男は次期十六代篤人として修行中、
次男雅臣は年始、京都で彫刻家として個展を開いていました。
一子相伝という言葉を考えさせられます。

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