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2016年11月19日22:40

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ヴェネツィア・ルネサンス

ルネッサンスといえばフィレンツェ。
三大巨匠といえば レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ。
でも、そこにヴェネツィアのティツィアーノを加えて四大巨匠に!とのことでした。

アカデミア美術館所蔵
ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
@国立国際美術館


国立新美術館からの巡回です。
監修者のお話を聴きました。


講演会「ティツィアーノ〜晩年様式の驚異」
講師:越川倫明(東京藝術大学 教授)

そもそものはじまりは2年前、越川先生がフィレンツェにいたとき
TBSから呼ばれて展覧会の出品交渉にあたったとき。

目玉となる作品がどうも借りられそうになく、そんなときふと
「アカデミアの所蔵じゃなく教会のものだけど、”あれ”どうかなぁ」と
先生がつぶやいた作品、
それが半年後、来日することとなって文字通り狂喜乱舞したというのがこちら

《受胎告知》(1564〜66)
フォト



ティツィアーノ(1490?〜1576)の晩年の作品です。
後期高齢者?となってから高さ4mの祭壇画とはおそるべきエネルギー。

お話は『絵画的様式』という言葉をキーワードにすすめられました。

【1】線的様式と絵画的様式

このことばは越川先生のものでしょうか。
アングルのように輪郭がぴたりときまっていて、髪の毛の一本一本まで
描いていくようなものを線的様式、とよぶならば
ぼやっとしている、スフマートとよばれるぼかしを用いて周りの空気にとけあう
ような人物を描くのが絵画的様式。

フォト


たとえば左の ブロンズィーノ《愛の寓意》(1545) は線的様式。
詳細に描かれた人物は硬質で磁器のようです。

それに対して右 ティツィアーノ《ダナエ》(1545)の人物は体温まで伝わってきます。
「黄金の雨」の表現もまさに絵画的。

こうした16世紀後期のヴェネツィア派スタイルの特徴はバロックへ、そして次の時代へと
伝わっていきました。例にあげらるならば

・ルーベンス《マルスとレア汁ヴィア》
・レンブラント《ユダヤの花嫁》
・ベラスケス《織女たち》
・ゴヤ《サンイシードロへの巡礼》
・ドラクロワ《ライオン狩り》
・ルノワール
・モネ
・ドガ
・デ・クーニング・・・

(なんと表現主義まで繋がるのですか)

【2】ヴェネツィア派の技法の展開

テンペラから油彩へかわると同時に
計画通りの忠実な再現から自由な即興へ、
そして緻密な描写から粗い筆触へ。

たとえばラファエロの場合は詳細な下絵が描かれ、
それに点をうがって木炭の粉で下絵そのままを写し
そこから作品がつくられていますが

さきほどのティツィアーノ《ダナエ》では
X線写真により、当初は中央に窓があり、《ウルビーノのヴィーナス》と
まったく同じ背景が描かれていたことがわかりました。
つまり、描きながら変更が加えられたのです。

さらに粗い筆触は、画家の手の動きを観るものに追体験させ、
作品をつくりあげるエネルギーを感じさせます。

もっともティツィアーノも最初は線的様式の作品を描いていたのであり、
絵画的様式となったのは晩年、その傑作が《受胎告知》というわけです。

【3】ティツィアーノの晩年様式は当時どのように評価されたか

ひとくちにいえば、当時はあまり評価されませんでした。

◆ジョルジョ・ヴァザーリ『芸術家列伝』(1568)
ヴァザーリはティツィアーノの20歳年下で、現実に本人に会っています。

「最近の絵(受胎告知のことです)は大まかな斑点で
たたきつけるように描かれているので近くからみると何がかかれているのかまるで
わからない」
「他の作品に観られる完全性に欠けている」


◆カルロ・リドルフィ『芸術の驚異』(1648)

「注文主にはこの作品がほかの絵に比べて完成度が低いように感じられた」
そこでティツィアーノは”フェチット・フェチット”と署名に2回も完了形を添えた
というのですが、これは後の世の作り話のようです。

◆マルコ・ボスキーニ『豊かな鉱脈』(1664)

ティツィアーノは「たった4度の筆さばきですばらしい人物像を素描することが
できるのである」
見てみたいですね。ようやく誉められている。
そして作品ができあがると裏向けにしてしばらく立てかけておく。
時間をおいてから仕上げにかかりますが、最後は指を使って仕上げた、とのこと。

【4】受胎告知の系譜

受胎告知をルカによる福音書にあたってみると
天使ガブリエルから神の子を宿すとつ告げられたマリアの心にはいくつかの段階があると
わかります。

簡単にいうならば
驚き→軽い反論→受け入れ

そして《受胎告知》は数多くの作品に描かれていますが、
どの段階が描かれているかは微妙に違います。

◆ロテンツェッティの壁画(14世紀)
下絵の段階では驚きの場面が描かれていましたが恭順のポーズに変更されています。


フォト


◆フラ・アンジェリコ(15世紀)(画像左)
画面、天使の口からマリアへ向けて台詞が描かれています。
マリアの台詞は右から左へ、そして上下ひっくりかえっているのが興味深い。
つまり天上から神が読むようになっているのですね。

◆ボッティチェルリ (画像右)
近頃来日した作品とは違うバージョンですが
これに台詞をつけるのなら
「えっ、何それ?」という感じ。

◆レオナルド・ダ・ヴィンチ ( 画像下)
マリアの片手はそれまで読んでいた本に置かれています。
もう一方の手は軽い驚きを表していますが顔の表情は静か。
まるで女王のような威厳さえ感じられます。


【6】ティツアーノの《受胎告知》

では今回の作品はどうか。

ダ・ヴィンチまでの作品になかったのは天上部分の描写です。
そしてマリアと天使ガブリエルの手のポーズが
この作品の前に描かれた作品(焼失)とは入れ替わったことがわかっています。
前作ではマリアは胸の前で手を組み、天使は精霊を指していたらしく。

本作で、マリアのヴェールをもちあげる手は何を意味するのでしょうか?

この場面は天使の口から強い言葉が発せられた瞬間です。
ふりかえったマリア(体がねじれている)はそれをまさに驚きをもって受け止めている。
ここで前作のように天使の手がマリアに向いていては両者が
対立しているようにみえてしまうでしょう。
しかし天使の手は胸の前でクロスし、マリアへの敬意を表しているかのようです。

この絵には細かいみどころもたくさんあります。
例えば右下の水差しも美しい。
しかしなによりもティツィアーノの筆触を間近で感じていただきたい、とのことでした。



1月15日まで。
http://www.nmao.go.jp/exhibition/2016/accademia.html

来年早々には東京都美術館で

ティツィアーノとヴェネツィア派展

もあるようですね。
どんな作品が来るのでしょうか。楽しみです。
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