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2016年05月21日18:33

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死か、豚箱か、ロックンロールか

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昨夜は誘われてマイケル・モンローの来日公演を観に渋谷のクアトロへ。

まず、2016年の東京でマイケル・モンローのライヴを観に来る客層とは一体どういった人たちなのか気になっていたのだけど、基本的には90パーセントくらいは、僕とほぼ同世代の、40代の男女という感じだった。80年代のハノイ全盛期にファンになって以来、一途にずっとマイケル・ファンで居続けている人びと――ということになるのだろう。一度ファンになった人にずっと慕われ続けるというのが、マイケル・モンローの人柄の反映でもあるようで、アーチストとファンの「絆」のあり方としては一つの理想形なのかもしれない、などと思う一方、若いファンがほとんどいないということは、結局マイケル(及びハノイ)の音楽は世代を超える力を持つには至らなかったということにもなるのかもしれない、なんてことも感じた。

たとえばポール・マッカートニーやボブ・ディランやブライアン・ウィルソンのライヴには世代を超えた老若男女が集い、ある一定の世代のみのノスタルジーの祭典では終わらない普遍性を獲得するに至っている。そもそも僕自身、ポールやディランやブライアンが本当に現役の「アイドル」だった頃には生れてすらいなかったのである。世代を超えてファンを獲得し続ける作品の力が、彼らを特別な存在にしているということなのかもしれない。

しかし一方、ロックンロールとはそもそも若い時代にのみありうる刹那の輝きに殉じるというところにその最大の魅力があると考えれば、思春期の取り返しのつかない一度きりの原体験を共有する同世代のみで構成されるコア・ファンからフォローされ続けるマイケルの方が、ポールやディランやブライアンよりも、ロックンローラーとしての純度はより高いということになるのかもしれない。

ライブ本編は、最近のマイケルのソロ作からのナンバーが中心で、ハノイとソロ二枚目の『Not Fakin' It』しか聴いていない浅いファンの僕には、やや感情移入するのが難しい展開だった。ハノイ時代の曲を連発すれば大盛り上がりになるのは分かっているのに、最近の曲をメインにセットリストを構成するマイケルの姿に、単なる特定世代のノスタルジーの対象で終わるつもりはない現役アーチストとしての意地みたいなものを感じた。ただ、正直、最近の曲の楽曲自体の出来はあまりいいとは思わなかったけど。ソングライターとしては、やはりアンディ・マッコイの方が遥かに上だと思う。なんだろう、マイケルの生真面目な性格が楽曲にも反映されていて、しっかり作られてはいるのだけど、展開に意外性や驚きがないのが残念なんだよね。

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――という感じで、ステージ上を飛び回る元気なマイケルの姿を微笑ましく思いながらも、最近のソロアルバムからの楽曲の弱さにややかったるさを感じながら観戦していたのだけど、本編中盤になり、「マリブビーチの誘惑」が飛び出した頃から、僕も少しずつ引き込まれていき、本編ラスト近くでフーの「フー・アー・ユー」をちょっとだけカヴァーしてくれたのは意外なサプライズで嬉しかった。マイケル・モンローが歌う「フー・アー・ユー」、なかなかのレアテイクなのではないでしょうか。

そして本編ラストの「トラジディ」〜「アップ・アラウンド・ザ・ベンド」〜「デッド・ジェイル・オア・ロックンロール」の三連発はやはり強力だった。特に「デッド・ジェイル・オア・ロックンロール」でのマイケルのハープが好きなので、これを生で聴くことができただけで、もうこの日の僕の目的はすべて達成されたようなものだった。80年代のハードロックシーンで、こういうピュアなブルースハープを聴かせるアーチストって他になかなかいなかったように思う。そして、このブルース的な感覚こそ、マイケルを当時のハードロック系のアーチストと一線を画す存在にしていたのではないかというのが僕の仮説。大体、自分の人生には「死か、豚箱か、ロックンロールか」という三択しかないという決意表明が素晴らしい。この曲はマイケルの生真面目さ・不器用さがいい方向に作用して、器用な才能あふれる人間には決して書くことのできない愚直な名曲に仕上がっていると思う。

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アンコールは「オリエンタル・ビート」〜「アイ・ウォナ・ビー・ラヴド」〜「アイ・フィール・オールライト」とこれも大盤振る舞い。この日のベースはハノイ時代の盟友サミ・ヤッファが弾いていたのだけど、昨年の9月に観たウォルター・ルーの来日公演でもサミがベースを弾いていて、しかもその日も「アイ・ウォナ・ビー・ラヴド」が演奏されて、一年の間にサミがベースを弾く「アイ・ウォナ・ビー・ラヴド」を二度もライヴで観るというのも、なかなかレアな体験だな〜と勝手に一人でしみじみしてしまった。

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マイケル・モンローは、とにかくそのグラマラスなビジュアルが圧倒的に魅力的で、これだけ華のあるブロントマンというのもなかなかいないと思う。ただ、ボーカリストとしてはそれほどパワーやテクニックがあるわけではないし、作曲能力もそれほど卓越したものは持ってない。ミュージシャンとしては残念ながら一流とは言い難い。しかし、そんなミュージシャンとして一流とは言い難いからこそ、B級だからこそ体現できるロックンロールというのも確かにある、ロックンロールの刹那さ=切なさという意味では、あるいはB級にとどまりつづけるマイケルこそ「王道」なのではないか――と、その愚直なパフォーマンスに思わされた2016年の東京で観るマイケル・モンロー来日公演でした。



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