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2016年04月23日19:11

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モイツァ・エルトマン

(4月22日、王子ホール)
 よく練り上げられたプログラム。キーワードは「花」「死」「祈り」「星」と見た。「もの言わぬ花」(R.シュトラウス)で始まり、「すみれ」(モーツァルト)、「花束を編みたかった」(シュトラウス)、「野ばら」(シューベルト)と進む。踏みつけられ手折られる花の背後には「死」がある。歌唱でも「イヌサフラン」(シュトラウス)の「todlich(死に至る)と「重苦しい夕べ」(シューマン)の「Tod(死)」を強調して歌う。
 同じシェイクスピアのハムレット「オフィーリア狂乱の場」をシュトラウス(「3つのオフィーリアの歌」)とリーム(「オフィーリアは歌う」)で対比するアイデアも秀逸だ。リームはオリジナルの英語の歌詞。ピアノのマルコム・マルティノーが対話するように間の手を入れる。リームは1952年生まれの作曲家でありスピード感がシュトラウスと決定的に違う。
 エルトマンの声は透明感があるが同時に音域の広さと強靭さも持っている。そして、歌い方や曲の解釈にユーモアのセンス、諧謔性を感じさせる。美しい声の持ち主だが、ただ清らかに歌うということはない。だからこそ歌詞の裏にある意味が浮かび上がってくる。
 後半最初にアカペラでスポットライトを浴びながら演技たっぷりに歌ったライマンの「ヘレナ」に彼女の魅力が端的に出ていた。現代音楽に秀でたエルトマンならではの劇的で迫力ある歌唱は他の歌手たちと一線を画す。 
 R.シュトラウスの「夜」が間髪を入れず歌われ、祈りがテーマと思われるシューマン「レクイエム」、R.シュトラウス「万霊節」シューベルト「万霊節のための連祷」と続いた。シューベルトでの抑えた歌唱はまた彼女の違った一面を聴かせたが、マルコム・マルティノーのピアノ伴奏にも素晴らしいものがあった。
 最後は夢のような「わたしは漂う」そしてメンデルスゾーン「歌の翼に」、最後は星にまつわるR.シュトラウス「星」、アカペラでライマン「かしこい星たち」で締める。アンコールはモーツァルト「夕べの想い」、R.シュトラウス「明日の朝」が歌われた。
 「明日の朝」は5年前フェリシティ・ロットもアンコールで歌った。東日本大震災のあとの数少ない来日コンサートのひとつでそのスピーチは心を打った。今回のエルトマンも熊本地震の直後。サイン会でその偶然を話し「あの時と同じように勇気をもらった」と伝えたら喜んでくれた。
(c) Felix Brode

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