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2016年04月15日16:44

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下野竜也 読響 フィンジ「霊魂不滅の啓示」

熊本地震によるご被害、心よりお見舞いを申し上げます。
(4月14日、サントリーホール)
 最近評価が高まりつつあるとは言え、めったに演奏されることのない英国の作曲家ジェラルド・フィンジ(1901-1956)の大作「霊魂不滅の啓示」をとりあげてくれた下野竜也に敬意を表したい。池辺晋一郎「多年生のプレリュード」(2011年)とベートーヴェンの交響曲第2番を前半にもってくるプログラムも凝っている。共通するキーワードは「生命力」「再生」だろうか。長く個体が生存する植物をイメージした池辺作品、聴覚障害の最中に完成され再起を果たしたベートーヴェンの2番、そして幼い日の清純な魂が失われることへの哀惜から自然賛歌に終わるフィンジ。
 
 下野の指揮は明解で、特に池辺作品は初演も担当しており、快刀乱麻を断つばかりにエネルギーに満ちた曲を鮮やかに聴かせる。続くベートーヴェンは師匠の朝比奈隆を思わせる中低音が充実した重厚さの中に、下野の切れ味の良い解釈が加わる。ただ、こうしたオーソドックスなベートーヴェンに新鮮さが感じられないのは、自分の耳が昨今の過激で多様なベートーヴェンに慣れてしまっているためかもしれない。
 フィンジの「霊魂不滅の啓示」ではテノール独唱をロビン・トリッチュラーが、合唱は二期会合唱団(合唱指揮:冨平恭平)が担当した。ここでも下野の指揮は生命力にあふれダイナミックで、二期会合唱団も清らかで分厚いハーモニーを展開する。トリッチュラーの歌唱はフィンジの曲想と同じく繊細でナイーブ。そのため時に合唱とオーケストラの音の渦に負けることがあるのはやむを得ない。

 下野の指揮でひとつだけ気になったのは、第3部「いま、鳥は歓びの歌をさえずり」から第4部「祝福された生き年生きるものよ、私は聞いたよ」にかけての合唱とオーケストラによるダイナミックな部分が、例えは適切ではないかもしれないが、余りにもオーケストラを鳴らすためかスペクタクル映画のサウンドトラックのように聞こえたこと。ここはオラトリオのように色合いを持たせた方がフィンジにはふさわしいのではないだろうか。
 それでも全体的にはホルンをはじめとする読響の優秀な奏者の力量を最大限引き出した下野竜也の指揮は見事なもので、フィンジの魅力を存分に味あわせてくれたことは確かだ。この演奏会と次の定期をもって読響の首席客演指揮者を退任する下野竜也の花道を飾るにふさわしい名演だった。
  
(c)Naoya Yamaguchi

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