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2016年04月14日09:15

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フォルムの実際 ブグロー編 人工顔料の登場

フォルムの実際 ブグロー編 油絵の具の使い方
 19世紀に油彩画は大きく変化する。油絵の具もその一つで、人工顔料の登場で色数が増える。鮮やかな発色をする人工顔料を使った油絵の具を使っていたのが印象派の画家達だ。だが、使いこなすのが容易ではなかったのはご存知の通り。それまでのアカデミックな油彩画の描法では、新しい顔料の鮮やかな発色を生かせなかった。油彩画は、ここで大きな分岐点にぶつかる。色彩を生かした描き方に特化させるのか、造形を重視した、それまでのアカデミックな描法で描くのかで画家の方向性が大きく変化していく。セザンヌが行った造形の解体は、その先の話しになる。今回は油絵の具の使い方。明治時代以降、本格的に日本でも西洋絵画である油彩画が学ばれるようになっていくのだが、情報が断片的で、当時、アカデミックな描法から印象派的な色彩の使い方への変化を系統だてて教授してくれる先生が少なかった。これも、アカデミックだ、印象派だとレッテル貼りをして、いがみ合っていた弊害だ。歴史は、その変化の過程が重要で、それを欠くと意味が分からなくなってしまうのだ。印象派の画家達が鮮やかな色彩の絵画を描くようになったきっかけは、人工顔料を使った鮮やかな発色の油絵の具が普及し始めたためだ。画家が、いくら鮮やかな色彩を描こうとしても、それを可能にする絵の具がなければ無理なのだ。技法や方向性の問題ではない。そして、新しい絵の具の色彩を生かすには、新たな描法が必要だった。対立概念ばかりを取り上げると、この変化の必然を見失ってしまう。印象派の画家で、直接的な弾圧にあったのはマネだが、そのマネは、生涯サロンに固執していたし、セザンヌもサロンへの入選を大きな目標にしていた。また、印象派の画家達もサロンには入選しており、ドガは落選した事もなかった。印象派の画家達とサロンとの対立は、思われている程深刻なものではない。そのため、後の、アカデミック系の若い画家達が、印象派の描法を取り入れようとする。サロンと印象派との対立は、多分に物語上の演出の匂いが強く、実際には、ルノアールは後にアカデミックな絵画研究に没頭するなど、アカデミック絵画と印象派との間には、常につながりが存在していた。言うなれば親子ゲンカのようなもので、頑固な親は子供を叱るが、子供は反発する。対立のように見えるが、実際には愛憎ないまぜになっており、やはり親は子を愛し、子は親を愛するものだ。この感情がセザンヌがブグローを認めていた理由の一つだろう。この関係性を勘違いしている日本人が大変多いように思える。
 19世紀当時の新しい人工顔料で出来た油絵の具は、現代の油絵の具と、あまり変わらない。カドミウムレッドが無かったのと、エメラルドグリーンが無くなったぐらいだろうか。エメラルドグリーンは、パリグリーンとも言われ、印象派の画家達が好んで使っていた絵の具だ。だが、その正体は猛毒のヒ素で、致死量のある絵の具だった。もちろん、その後、エメラルドグリーンは製造が中止された。現代もエメラルドグリーンと言う絵の具は存在するが、顔料は、別の素材が使われており毒性はない。エメラルドグリーンを混色によって作り出すのは、ほぼ無理だと言われている。
 鮮やかな発色の新しい油絵の具を生かした描き方を印象派の画家達も研究し、後には、アカデミック系の若手の画家達も多用するようになるのだが、そのあまりのキンキンした発色に、ゾラが閉口したエピソードが残っている。これは現代でも同じで、発色のきつい人工顔料の油絵の具の使い方を、一歩間違えれば、ただ、ギラギラした色彩の油彩画になるばかりだ。そこで重要になるのは脇役だ。主役を立たせ生かすのは脇役になる。モネが見つけた方法が、モネグレーだった。ルノアールの絵画の人物の肌を見て、死肉色だと評した評論家がいたが、これが非常に重要な指摘になる。ルノアールは死肉色を意図的に使っていた。この死肉色を実現するためにルノアールは黒を積極的に使っている。モネのモネグレー、ルノアールの死肉色。これらに共通しているのが無彩色だ。印象派の画家達は、脇役として無彩色を使うようになる。無彩色はアカデミックな描法でも良く使われていた。グリザイユがそうなのだが、このグリザイユを絵画の下絵で使うようになるのは、テンペラから油彩画への移行期あたりまで遡る。テンペラでグリザイユを描き、その上に油絵の具で固有色を乗せていた。西洋絵画では伝統的な描法になる。この描法をフランスのアカデミック絵画でも取り入れるようになったのだ。ただ、これは、初期のテンペラと油彩画の混合技法で良く行われていた描法であって、油絵の具だけで描く場合、下絵をバーントシェンナで描くのは、その名残りだろう。グリザイユは一色で描くと言う意味で、グレーを使わなければならない訳ではない。バーントシェンナで描いてもグリザイユになる。現在の油彩画技法でも広く普及している描き方だ。ただ、アカデミック絵画で言うグリザイユとは、描き方が違ってくる。バーントシェンナでの下絵描きは、揮発油を使って大まかな形を取るぐらいで、直ぐに固有色を乗せ始めるが、アカデミック絵画でのグリザイユは、下絵としてのグリザイユ描写の段階で、かなりしっかりとマチエールを作り上げていく。揮発油だけでは描かず溶き油も使う。絵肌のベースを作るためにグリザイユやカマイユを使う、と言ってもいいかも知れない。この段階で固有色はあまり使わない。だが、フォルムはある程度まで描き進められ、絵肌も作られていく。そして、調子の変化とコントラストもこの段階で決められる。グレーだけで描かれる場合もあれば褐色系が入る場合もある。下絵なので固有色は乗せられていない。ルーベンスは、カマイユで下絵を描いて、その後、弟子達が彩色していったとも言われている。彩色は弟子達の仕事だったのだ。使われる絵の具はシルバーホワイト、ブラック系絵の具、そして褐色系絵の具だ。グリザイユで気をつける必要があるのは、グレーは色を殺す、と言う事。グレーの上に淡い色を乗せるとその色を殺してしまうので、淡い色でフィニッシュしたい場合は、その部分にはグレーを使わない方が良い。グレーで人物の肌を描いて、その上に固有色を乗せるやり方は、下手をすると失敗する原因になる。原因の大きな理由は、順光部と影の部分とをはっきり分けていない場合だ。影の部分は下地にグレーがあっても固有色が落ち着いていいのだが、順光部は、グレーが効かされていない方が良い場合が多い。順光部と逆光部(影の部分)を分けていく感覚は非常に大事。そのために、西洋絵画では、最初のデッサンの時に、順光部と影の部分とを大きく分けて描くのだ。これが油彩画の製作の時にも重要になる。
 西洋絵画と日本絵画の大きな違いの一つが、この、順光部と影の部分(逆光部)を最初に分ける描き方だ。西洋絵画の立体表現の基礎の基礎になるのだが、ここの意識が弱い日本人が意外に多い。西洋絵画は、日本人が元から持っている感覚をベースに描いていく絵画ではないので、西洋絵画だと意識していないと日本的感覚に引っ張られてしまうのだ。簡単なデッサンやクロッキーを描く場合も、光が当たっている部分から影に移行する際を常に意識して観察する事が大事。19世紀以降、ヨーロッパの絵画も平面描写や線描写を大胆に取り入れるようになり、造形そのものが大きく変わっていったのだが、西洋絵画としての基礎は、そのまま残されていた。平面描写は、表現として受け入れるようになったのだが、あくまでもいろんな表現の中の一つに過ぎず、西洋絵画の造形の基礎が平面に変わった訳ではない。この誤解が原因で混乱が起こってしまっている。平面描写が流行れば、なんでもかんでも平面、線描が流行れば、なんでもかんでも線描。平面描写をしなくてはならない訳でも、線描を使わなければならない訳でもないのだが、どこか強迫観念的に平面や線描に囚われてしまってはいまいか。元から、油絵の具は、平面描写や線描には向かない絵の具で、結果、油絵の具離れを起こす原因となってしまった。平面描写や線描をメインにやっていくには、やはり粘度の低い絵の具や墨の方が、その表現の幅は広くなる。線描には水を沢山使える絵の具の方が向く。広い均一の平面を仕上げるには、エアーブラシも有効だろう。油彩画は、油彩画として伝統を踏まえた道を歩むようになっており、それまでの現代アートの流れとは枝分かれしている。保守的になったと言うよりは、今までがあまりに油彩画の基本的な描法を無視し過ぎていたと言うのが実情だ。日本には、ブグローのようなアカデミックな油彩画を描く基礎的な技法は、十分には伝わっていなかったのだ。手探り状態で西洋絵画の古典を研究していた日本の油彩画家達は、過去の遺物のような、時代錯誤のような扱いを受けていた時期があった。猫も杓子も抽象絵画。抽象絵画意外芸術にあらず、と言うような風潮があった。偏った価値観の原因の一つは、無知だった。アカデミックな油彩画を描けない、描き方が分からない、伝わっていない、知られていない、どうしていいのか分からない。キャンバスの選択から、キャンバスの布目の処理の仕方さえ、分かってはいなかった。ルーベンスがどうしてキャンバスではなく、木板にこだわったのか、その理由も理解できない。ブグローの絵肌は、非常に緻密で、平坦だ。余計なマチエールがほとんどない。油彩画の絵肌、マチエール、絵の具の重ね塗りにより絵の具層の厚み、最も基本的な油彩画の描法についても、十分な研究が行われてこなかったのだ。









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