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2016年03月09日08:20

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「古楽とは何か」

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アーノンクールが亡くなった。僕はそれほど古楽器演奏に拘りや思い入れがあるわけではないけど、彼の指揮によるベートーヴェンの『プロメテウスの創造物』は、個人的には初期ロカビリーにも通じる瑞々しい鮮烈な躍動があるように感じ好きだった。ちなみに、古楽器演奏の運動は、クラシックの世界における「ロック世代の反逆」だったのではないかと僕は思っている。



アーノンクールには『古楽とは何か――言語としての音楽』という著作がある。音楽と言葉を対立的に捉えた書物にフルトヴェングラーの『音と言葉』があるが、音と言葉は対立的なものではなく、むしろ音楽ももう一つの言葉なのである――というアーノンクールの立論は興味深い。アーノンクールには、もしかしたらフルトヴェングラーへの対抗意識もあったのかもしれない。

そもそも、古楽器ブームとは何だったのか――というと、あれもまた欧米の戦後世代(ベビーブーマー)の惹き起したムーブメントの一つだったのでは ないだろうか。さらにいえば、クラシックの世界で、大衆音楽の世界におけるロック革命に対応するムーブメントが古楽器ブームだったのではないだろうか。アーノンクールと並び、古楽器ブームを牽引した、ホグウッド(1941年生まれ)やマンロウ(1942年生まれ)は、たとえばジョン・レノン(1940年生まれ)とほぼ同世代の英国人で、 彼らは同じ時代の空気を吸いながら成長し、やがてそれぞれの音楽活動を開始したわけだから、そこには何かしら世代的な共通する気風や精神性みたいなものもあったと考えるのも、それほど牽強付会ではないと思われる。そして、その共通する気風の最たるものが、戦前世代への不信と反感だったのではないだろうか。

かなり大雑把に図式化すると、ナチスに対してさしたる抵抗を示すことも出来なかったにもかかわらず、戦後も大御所として権威的に君臨するフルトヴェングラーやクナッパーツブッシュやカラヤンといった巨匠たちに対する「反抗」という意味合いが、60年代以来のクラシック界における古楽器ムー ブメントにはあったのではないか――と思うのだけど、実際のところはどうなのだろう。

モダンな楽器編成によるベートーヴェン演奏を確立したのはヴァーグナーだと言われているが、ヴァーグナーはヒトラーに愛好され、ナチス・ドイツのいわば「音楽的イデオローグ」として強力に機能した音楽家である。そんなヴァーグナー的なベートーヴェン像、ひいてはクラシック像を異化・解体するべく、アーノンクールらはヴァーグナー以前の古楽器編成によるベートーヴェン像、ひいてはクラシック像を提示しようとしたのではないか――。

花田清輝は「前近代を否定的媒介にして近代を超克する」というユートピア・テーゼを繰り返し唱え続けたが、その実践的ヴァリエーションをアーノンクールが先導したクラシック界における古楽器ムーブメントにも見ることができるかもしれない。そして、、ボブ・ディランの先導した「フォーク(前近代))」と「ロック(近代)」を綜合する「フォークロック」革命もまさに「前近代を否定的媒介にして近代を超克する」という試みだったのであり、ここにも同世代的な並行現象を見ることができるのではないだろうか。


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