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2016年02月02日23:54

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広告・マーケティング・精神分析、そして宗教

広告原稿を書く際には明確なテンプレート(設計思想)がある。まず、その広告で扱う商品の性格から想定されるターゲット像を設定する。それも漠然とした設定ではなく、年齢や性別や職業や趣味や家族構成など、細かい属性を一つ一つ決めていき、その顔が目の前に浮かんでくるくらい、徹底して具体的にターゲット像を設定する。ターゲットの顔が浮かんで来たら、その後は、そのターゲットにアピールするであろう商品の訴求ポイントを列挙していく。そしてその後、その列挙された訴求ポイントを最大限効果的にターゲットに伝えられるような記事全体のプロットを構想する。――これが広告原稿のテンプレ的な設計思想なのだが、このターゲット設定をより統計的に厳密化しようとすると、マーケティング戦略のクラスター分析の世界に入っていくことになるのだろう。コピーライティングやマーケティングは「他者の欲望」という目に見えない不可解なものを対象にし、その動向の可能な限り正確な予測を目指している。不可解な「他者の欲望」の可能な限りの合理的把握という野心に衝き動かされているという意味で、コピーライティングやマーケティングは、精神分析に一脈通じあう営みであり、実際、現代のマーケティング理論の多くは精神分析の知見を取り入れている。現在某大手ビール会社のマーケティング部に勤務している大学の同期の友人も、マーケティングの研究を重ねていくうちに、統計的手法だけでは飽き足らず、ユング心理学の世界へと足を踏み入れつつある。ユング心理学が一種のオカルト思想であることは有名だが、コピーライティングもマーケティングも、そして精神分析も、元々は「他者の欲望」の合理的・法則的な認識・把握を目指したものであるはずなのに、深みにはまればはまるほど、科学の領域を逸脱し、かえって宗教的・オカルト的な領域へと近づいていくのは興味深いパラドックスである。このパラドックスのうちに、あるいは資本主義という不可解な怪物的現象の宗教的性格も淵源しているのかもしれない。ともあれ、精神分析の創始者フロイトの同時代人である「認識のドン・ファン」ニーチェの次の有名な箴言は、コピーライターやマーケターへの忠言としてもまた有効なものといえるだろう。

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」(ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』)
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