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2015年12月14日06:16

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パッとしない監督による、パッとしない戦争大作。ガイ・ハミルトン監督「空軍大戦略」(1969)。

日本公開当時、大阪の映画館はほぼ顔パスでしたから、見ようと思えば見れたのですが、今の今まで見ないでいました。基本的に興味がなかった。“バトル・オブ・ブリテン”を描いたイギリスの国威発揚映画だと思っていたからです。←「史上最大の作戦」のあと、「トラ・トラ・トラ!」から「バルジ大作戦」と、大型戦争映画がレベルダウンしていたという事実も影響しました。

そんな映画をなぜ今ごろ見たのかというと、第二次大戦の転機となったバトル・オブ・ブリテンの全貌をおさらいしたいと思ったから。戦後70年ということで、いろんなドキュメンタリーを散見していますが、その全貌を見ていないという意味です。

物語は1940年の7月から始まります。ダンケルクから敗走したイギリス軍を、フランスを制圧したドイツ軍が襲う、という背景がある。まずドイツ軍は海峡を渡ってすぐのところにある飛行場を襲い、着実にイギリスに打撃を与えていきます。数で劣るイギリス軍は、“1機が4〜5機を撃墜して互角”だとヒュー・ダウディング司令官(ローレンス・オリビエ)が言う。しかしベルリンを空襲されたことから、ドイツ軍の上層部がロンドン空襲を目標に切り替え、戦況は逆転していきます。

僕はこの、ロンド誤爆からベルリン空襲への過程を見たかったのですが、この映画にはチャーチルは登場せず、ベルリンへの攻撃を命令する場面も基本的にありません。勝利に酔っていたドイツが、突然の首都爆撃に慌てふためくさまが映し出されるだけ。さらにはヒトラーの演説が画面に登場するという手法は、イギリス国内ではベルリン空襲というポイントを誰もが知っているからかもしれないけれど、僕のような人間にはそこを描かずして何を描く、という雰囲気でした。

そもそも一番の売り物である空中戦が、たしかに長い時間を占めてはいるのですが、たとえば「追撃機」などのように戦闘機同士の戦いのスリリングな面白さを満喫させるほどではありません。機銃掃射、煙が出る、破裂という単純なパターンを繰り返すのみ。ドイツ軍爆撃機の銃座に座る人間が、何度も同じように血しぶきとともに倒れるというのも、2度見れば十分。
この映画のサントラ盤を販売していた会社に在籍していたから、テーマ曲は耳にタコができるほど聴いていますが、同じメロディーが英独両方で流れるというのも芸がないなぁ。

ガイ・ハミルトンという監督さんは、007映画を4作も監督したから、まるでアクション映画の名人みたいに扱われますが、この人はむしろ「好敵手」のような、人情コメディーが得意だと思います。むしろジョン・ギラーミンに任せておけば、「ブルー・マックス」をしのぐ航空戦映画になったのじゃないだろうか。

余談ですが、ガイ・ハミルトンは最初「スーパーマン」を監督する予定だったそうですね。それもイタリアで撮影する予定だったそうな。それがパインウッドに変更になると、“イギリスに1会計年度につき30日以上滞在すると納税義務が出る”から、ハミルトン監督は、さっさと降りてリチャード・ドナーと交代したそうです。そんな経済事情が優先する監督さんは、僕にはダメダメのダメですわ。

また戦争映画なのに女との絡みが出てくるのも微妙でした。クリストファー・プラマーがスザンナ・ヨークと絡むシーンは、夫婦という設定なのでドラマに深みが出るはずですがイマイチ。戦闘でやけどした兵士を見て、夫のことを案じたスザンナ・ヨークの不安が後に的中するあたりも冴えません。

そしてマイケル・ケインが優秀なパイロットを演じていますが、彼は飛行機に乗るのが大嫌いなはず。「素晴らしきヒコーキ野郎」の候補となったとき、“飛行機に乗れと言われたらどうする?”と聞かれて、“そんな仕事は断る”と言ってたのに、やはり金の力には負けたのか?
とりあえず「ジャッカルの日」に主演する前のエドワード・フォックスの姿を見ることができたのが救いでした。

ポーランドやチェコから逃げてきていたパイロットたちの活躍など、本来はバトル・オブ・ブリテンの大きな要素となっているものを、軽くコミカルに描いているあたりも面白くない。ダウディング司令官が、“ロンドン空襲に専念してくれれば、奴らの航続距離から言ってロンドン攻撃は毎回10分程度”と述べたり、ラストにテロップでチャーチルの言葉“人類の歴史の中で、かくも少ない人が、かくも多数の人を守ったことはない”が出たりと、歴史を肯定する方向に終始した凡作だと思います。←一般人が何人か死んでも、パイロットが何人か助かる方がいいという“戦略的判断”が優先するのは我慢ならないもので。
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