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2015年11月30日08:59

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鴨居玲

老人、酔っ払い、ピエロ…

鴨居玲が繰り返し描いたモチーフのひとつ、教会は
次第に傾き、ついには空をとびました。

フォト


没後30年 鴨居玲
〜踊り候え〜
@伊丹市立美術館

フォト



スペインの光と影をまとい、57歳で自死。

5年毎に回顧展が行われてはファンが増えてゆく、という不思議な画家。

東京では25年ぶりということもあって
ステーションギャラリーは人気だったようですが。

関西展も講演会は大盛況、ずらりと立ち見も出ました。

講演会
『知られざる鴨居玲』
石川県立美術館普及課長 二木信一郎氏

講演から幾つか印象に残ったことと
そこから感じたことのメモ、いくつか。

◆野球
パンフレットに寄せられている文章と同じ
バッターボックスに立つ鴨居の写真からお話は始まりました。

作品からくるイメージと異なり、鴨居の草?野球歴は長く、終身打率も2割7分。
孤独ではりつめた創作作業と青空の下のチームプレイで
バランスをとっていたのではといいます。

◆移ろう
鴨居は一つのところに長くいない(いられない)生涯を送りました。

それは父が新聞記者だったこともあるでしょう。
父が大阪毎日新聞から北国毎日新聞に移った年に金沢で生まれています。

兄はレイテで戦死、
姉は下着デザイナー鴨居洋子。

学業を終えてからも東京、大阪、西宮、神戸、
ブラジルからパリ・ローマ、芦屋、
スペイン、パリ、神戸と
目まぐるしく居処を変えています。

◆戸籍と《教会》
鴨居は昭和3年2月3日と昭和2年10月3日、2つの誕生日がどちらかわからないと言っていました。
戸籍をみると、昭和2年の方が記されているのですが、それは昭和6年に届けられたという記載があります。
いくら昔のこととはいえ、3年もたってから出生届を出すなどということがあるのでしょうか。
自分の存在をうやむやのなかにおきたかったような
鴨居のイメージには合いますが。

ちなみに石川県美がなぜ戸籍書類をもっているかというと。
元々工芸部門のコレクションからスタートした県美は
昭和48年から油彩等の部門ができ、
昭和57年、その充実のために日動画廊を訪れた際に
ちょうど展示されていたのが《1982年 私》の大作でした。
即、購入。
今なら54歳の現存画家の作品を買うなど考えられませんが、
バブル時代だったんですねえ、とのこと。

鴨居は200号の作品を描いたものの個人が買うとは思えず、まさか美術館が…と
大変喜び、冒頭の空飛ぶ教会の絵をくれたそうです。

それを美術館が500万円以上に評価したため、
多額の寄付に対する紺綬褒章の対象となり、戸籍を取り寄せてもらったのです。

もっとも褒章申請は、鴨居が辞退したため取り下げられました。
このあたり、フライヤービジュアルの《勲章》でビールの王冠を胸につけた人物像を思わせるエピソードです。

鴨居が寄付した《教会》には左上に縦長のキズがあります。
これは公募展に出した折、つけられてしまったもので
鴨居は当初、送ってくれれば直します、と言っていましたが、
そのうちに私が直すと別の作品にしてしまうからやめます、と言ってきたそうです。

事実、鴨居の遺作のひとつも、完成した作品を
手直しして未完に終わったものでした。


◆鴨居コード
鴨居作品の大きな謎に、《1982年 私》の白いキャンバスに何を描こうとしたのか、というものがありました。
画面ではこれまで描いてきたモチーフ
酔っ払い、抱き合う人、おっかさん、首吊り、ピエロ、バンジョー弾き、旅人、廃兵、愛犬チータ等がずらりと並び、
真っ白のキャンバスを前にした鴨居が呆然と座っています。

もちろん帰国後のモチーフに悩んでいた自身の姿なのですが。

しかしキャンバスはイーゼルとの比率から100号と思われ、
その大きさのキャンバスで鴨居が横向きの絵は描かないはず。
そこで90度回転した位置からよくみると、人物のような影が見えたので
それを遠近法を修正して画像処理したものがこれ。
明らかに女性の座った姿です。
(画像は二木氏講演会レジュメより)
フォト




これはお話を聞いたあと作品を改めて階段上から眺めて確認しました。
ダヴィンチコードならぬ鴨居コードですね、と二木さん。

◆女性像
帰国後の鴨居は日動画廊の意向もあり、
女性像に取り組みます。
それは鴨居が自分で満足するスタイルにまで行き着かなかったかもしれませんが、
今回出ている朱色と灰色のパステルデッサン《裸婦》など、美しい。

講演会後半で紹介された薄く透ける衣をまとった《LOVE(A)》や《白い人(A)》など、
赤や金の下地でしょうか、輝くようです。
前者は個人蔵ですが、後者はひろしま美術館蔵、これは見に行かねば。

また、石川県立美術館では鴨居の命日の9月7日周辺には特別展示を行っているとのこと、
これも是非行かなくてはなりませんね。



12月23日まで。
http://artmuseum-itami.jp/jp/category/current_exhibition/
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