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2015年11月27日17:24

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昨日よりも若く――ロジャー・マッギン来日公演

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昨日は7月に予定されていたのが延期になったロジャー・マッギンの来日公演を観に行った。いままで観たことのある「ロック・レジェンド」たちのライヴとは随分と異なる体験になった。トム・ペティがバーズについて、

「オリジナル・メンバーの誰ひとりとして、ロック畑の出身でないことを認識するのは重要なことだ」

と語っていたことの意味が、すごく実感として理解できたように思う。

ロジャー・マッギンのライヴは、いわゆる「ロック的な」熱演とは無縁のものだった。ライヴ全体に漂っていたのは、カラッとした風通しのいいユーモアで、ロジャーは終始笑顔を絶やさず、軽妙なMCで曲間を繋ぎながら、しかし余裕綽々の態度でカントリー・マナーの超絶アルペジオを繰り出し続け、緻密に演奏を組み立てていく。力んだコード・ストロークで誤魔化したりしない。どんなに技術的に高難度のことをやっていても、苦しげな顔をしたり無理やりな絶叫を披露したりして「熱演」を演出することはなく、絶対に涼しげな笑顔と余裕を忘れないその姿に、むしろ高いプロの矜持を観る思いがした。プロが見せるべきなのは、「気合い」ではなくあくまで「技術」なのである――という矜持。超絶技巧を余裕綽々の「非熱演」的な態度で披露するというのは、もしかしたらカントリーの世界の基本なのかもしれない。そしてカントリー的な、苦労を絶対に人には見せない陽気なプロ意識とダンディズムにこそ、まさにバーズというバンドのロック・フィールドにおける異質性は由来していたのであり、あの時代に「フォーク」や「ロック」といったシリアスに受け取られがちだった音楽を異化し、素材にまで還元し、それこそ余裕綽々の態度で自在に組み合わせて「フォーク・ロック」というそれまで誰も聴いたことのなかった前代未聞の音楽を提示することができたのも、バーズのメンバーたちのカントリー的な「余裕の精神」のなせる業だったのではないか――そんな風にも思ったりした。バーズのメンバーが、ステロタイプなロック的なマッチョイズムに捉われていたら、けっしてバーズは「ミスター・タンブリンマン」をあのような形で完成させることはなかっただろうし、その後のロックの歴史も決定的に異なるものになっていただろう。ロックを否定することがロックを前進させることになるという、いわば弁証法的な逆説を非常に分かりやすい形で提示したことこそ、バーズというメンバー全員が元々「非ロック」のフィールド(いわばロックの「外部」)にルーツを持つ演奏集団の革命性だったのである。

ライヴのクライマックスは、やはり、バーズ版「ミスター・タンブリンマン」を、その誕生秘話を説明しながら披露したパートだったろう。ビートルズの映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』を観て、劇中でジョージ・ハリスンが弾いている12弦リッケンバッカーに惹かれて、そのサウンドでフォークやカントリーを演奏したら面白いのではないかというアイディアを得たこと、ちょうどその頃いい曲がないかと探していたらボブ・ディランの「ミスター・タンブリンマン」のデモをレコード会社の人に聴かせてもらったのだけど、その単調な弾き語りをデヴィッド・クロスビーが「アイ・ドント・ライク・イット!」と言ったこと、じゃあ、こんな風にしたらどうだろう――とバッハの対位法に影響を受けたイントロをロジャーが提案し、「12弦ギターのサウンド+ボブ・ディランの歌詞+バッハの対位法」を組み合わせ、ついにバーズ版「ミスター・タンブリンマン」が完成することになったこと、という有名なエピソード、これをロジャーの実演付きで目の前で再現されるのだから、やはりグッとくるものがあった。長いロックの歴史の中でも、最もエポック・メイキングでスリリングな瞬間の一つが、当事者自身の証言と実演をもって目の前でリプレイされるのだから、ちょっとした精神的な「タイムトラベル」を体験させてもらったような錯覚を味わうことができた。音楽は時を超える――とはよく言われるが、それは昨夜のロジャー・マッギンのライヴにこそ相応しい修辞であるように思う。

他にも、「霧の五次元」を演奏する前にスマホで「トワイライト・ゾーン」のサントラを流す姿も、ちょっとチャーミングだったし、「ミスター・タンブリンマン」と並ぶ代表曲「エイト・マイルズ・ハイ」は最初「セブン・マイルズ・ハイ」だったのだけど、ジーン・クラークがビートルズの「エイト・デイズ・ア・ウィーク」に引っ掛けて「エイト・マイルズ・ハイ」にしようというアイディアを出して、現行の題名に落ち着いたというエピソードも、本当に当時はみんなビートルズが好きだったんだなと感じさせ、ちょっとほのぼのした。

あと、ロジャーの口から「デヴィッド・クロスビー」とか「ジーン・クラーク」とか「クリス・ヒルマン」とか「トム・ペティ」とか「ジョニ・ミッチェル」とか「ボブ・ディラン」とかいう名前を聞くのも感慨深いものがあった。MCで、これから演奏する曲について解説する中でさり気なく口にされるのだけど、それぞれのミュージシャンへのロジャーの敬愛のようなものが端々から感じられて、演奏されるそれらのミュージシャン縁の楽曲の一つ一つの響きを、何というか「血の通ったもの」にしていたように思う。

紛れもない偉大なレジェンドなのに、ちっともスターっぽく振舞わない等身大でジェントリーな佇まいもカッコよく、服装もお洒落で、若々しくて、こんな風に年が取れるのなら、長生きするのも悪くないと思わせてくれる、まさに「昨日よりも若く」を地で行く、御年73歳のロジャー・マッギンだった。

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【セットリスト】

第一部

1:マイ・バック・ペイジズ
2:バラッド・オブ・イージーライダー
3:ワズント・ボーン・トゥ・フォロー
4:5D
5:イッツ・オールライト・マ
6:ミスター・スペースマン
7:プリティ・ボーイ・フロイド
8:ゴーイング・ノーホエア
9:ドラッグ・ストア・トラック・ドライヴィング・マン
10:ベルズ・オブ・リムニー
11:ロック・アイランド・ライン
12:フレンズ・オブ・マイン
13:ロシアン・ヒル
14:ドント・ユー・ライト・ハー・オフ(マッギン、クラーク&ヒルマンの曲)

第二部

1:ロックンロール・スター
2:アメリカン・ガール(トム・ペティのカヴァー)
3:キング・オブ・ヒル
4:ラヴァー・オブ・ザ・バイユー
5:チェストノット・メア
6:ジョリー・ロジャー
7:ドリームランド(ジョニ・ミッチェルのカヴァー)
8:チャイムズ・オブ・フリーダム
9:抱きしめたい(勿論ビートルズのカヴァー)
10:ブラック・マウンテン・ラグ
11:ユー・ショウド・ミー(タートルズのカヴァー)
12:ミスター・タンブリンマン(ボブ・ディラン・バージョン)
13:ミスター・タンブリンマン(バーズ・バージョン)
14:ターン・ターン・ターン
15:エイト・マイルズ・ハイ

アンコール

1:すっきりしたぜ
2:天国の扉

セカンド・アンコール

1:リーヴ・ハー・ジョニー・リーヴ・ハー


追記:バーズTシャツも、ちょっと高かったけど買っちゃった。夏に着るのが楽しみ♪

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