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2015年07月02日16:17

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青木尚佳ヴァイオリンリサイタル 素晴らしいヴァイオリニスト!

(7月1日、浜離宮朝日ホール)
 おおらかで素直でスケールが大きい。テクニックは安定しており、音色はやわらかく美しい。聴く者を青木尚佳の大きな世界で包容する。聴いていると幸せな気持になる。音楽とは本来こういうものをいうのではないかと思った。
 タルティーニのヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」は難所のアレグロアッサイの中間部、高音でトリルしながら低音で旋律を弾く部分や、更に超絶技巧を要するカデンツァの1000以上というトリルも完璧だった。演奏にはバロックの様式感もあって格調が高い上に余裕があった。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第8番も作品の雰囲気に合う軽快さ
と柔らかさがあった。惜しむらくは今井正のピアノがややきつく、青木尚佳の伸びやかな音楽とマッチしていないように感じられたことだったが、幸いシマノフスキの「ノクターンとタランテラ」は二人の息がぴったりと合っていた。青木尚佳のヴァイオリンは凄味があった。妖艶であり、祝祭的。この作品の理想的な演奏と思わせた。
 サン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番はこの日の白眉。完璧な技巧、美しくどこまでも伸びやかで自由なヴァイオリンが天に向かって羽ばたいていくような気がした。今井正のピアノに夢見るようなロマンティックな表情があればさらに良かった。具体的には、4楽章構成と見た場合の第1楽章第2主題のヴァイオリンを支える波打つフレーズと、第2楽章のアダージョ主題の表現。
 しかし第4楽章でヴァイオリンとピアノが丁々発止にやりあうところでは今井もヴィルトウォーゾ的な演奏で存在感を示した。二人とも白熱した熱演だったが、音楽に崩れはなく完璧で爽快なコーダはブラヴォを呼んだ。
 アンコールは3曲、ラヴェルの「ハバネラ形式の小品」、クライスラーの「愛の喜び」そしてドビュッシーの「美しき夕暮れ」。ドビュッシーの最後の弱音が消えていき場内が長い静寂に包まれた時は胸が熱くなった。
 青木尚佳はロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位、中国国際コンクール第2位。彼女の音楽性、将来性は受賞歴をはるかに超えていると思う。ひとつだけ注文があるとすれば、その音楽にコクと味わい、甘さと辛さ、重量感など、聴き手が身体で実感できるようなものが加わったらまさに鬼に金棒だろう。ただそれらは今回のリサイタルで見せた、信じられないような成長ぶりや、世界に通用するヴァイオリニストになる日はそれほど遠くないであろう彼女にとっては、演奏を重ねるうちに自然に身に付いてくるものではないだろうか。
おりしもチャイコフスキーコンクール優勝者発表のニュースが流れる中、日本に青木尚佳というヴァイオリニストが存在することが誇らしく思えるような素晴らしいリサイタルだった。

追記:ピアノの今井正は本番の数日前に激しい腰痛に襲われ、昨日は痛み止めを打っての出演だったとのこと。だとすればよく演奏したと言うしかない。次の機会は万全の体調で聴きたい。
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