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2015年06月27日23:41

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舟越桂

ノヴァーリスの『青い花』のなかでスフィンクスは問います。
「世界を知ることとは何か?」
少女は即座に答えます。「自分自身を知ること」
この一節を読んで30代の舟越は深い感動を覚えました。
具象彫刻で作られた作品はただひとつのものでありながら
それを観た者は「人間はすばらしい」などと普遍的にとらえる。
そのことが一気に理解できたといいます。
そして、「ひとはみえるものと見えないものでできている」
という立ち位置から作品をつくっていくのです。
 
 
フォト



舟越桂
〜わたしの中のスフィンクス〜
@兵庫県立美術館
 
大理石の玉眼をもつ静謐な木彫の半身像。
どこかでかならず眼にしているのではないでしょうか。
 
2003年に東京現代美術館などで大規模な個展がありましたが
関西では初。私も初日に行ってしまいました。
 
 
作品を間近で観る展示形式のため、入口でカバンはロッカーに預けます。
会場に入るといきなり、ビリジアングリーンのドローイングと《月の降る森》。
 
舟越桂の作品タイトルはとても詩的です。
作品を説明するというより込められた思いが語られているというか。
 
そして会場の説明にもあったように、玉眼は必ず左右開き具合にセットされて
いるので、鑑賞者と眼が合うことはありません。
どこか遠くを見ているような、自己の内面をみつめるような、眼。
 
会場構成は年代ごとになっていました。
1.1980年〜1990年初め
2.1990年〜2000年代初め
3.2000年〜現在
 
1990年代の作品には異形の姿が現れます。
頭と胴体が別の方向をむいている《遠い振り子》
胴体に山の形があり頭のうえには送電線のようなワイヤーがある《山を立てる》
二人の女性頭部が一つの身体につけられた《雪の上の影》・・・
 
胴体に何本も錆びたワイヤーが巻かれた《凍ったはしご》と
深緑の胴体が美しくわずかに左に首をかたむけた《そこだけの冬》。
前者は個人蔵、後者は旭川の美術館蔵、と普段なら出逢わないであろう、でも
なんと並べるのがふさわしい。
 
山をみて、ふと「山はあのままの大きさで自分の中にはいる」と思った作者の
ことばそのままの《山を包む私》。
外皮そのままの楠木が胴体の前面に山のかたちに残されていて。
肩をあげ、首をかしげ。
胴体がフォルムであるのに対して小気味よいほどシャープに作られた頭部、
奥行きにむかう頬のライン。丁寧にサンドペーパーでみがかれた額に対して
眼のまわりや口の両側には細かい“のみ”の跡が残されているのが絶妙、絶妙。
 
そして2000年から現在は
胴体がより作り込まれ、両性的な裸体が現れます。
そう、スフィンクスのシリーズ。
 
《バッタを食べる森のスフィンクス》にはちょっとびっくりしました。
唇からバッタの胴体や脚がはみだしているのです。が、
「森の上に浮かんで人間の世界をみていて、あまりのひどさに苦いものを食べずにいられない」
スフィンクスを表しているとの説明をきいて納得。
 
そういえば《戦争をみるスフィンクス》という作品もありました。
瞑想的な表情の作品が多い舟越には珍しい顔をしかめた強い表情。
「後年、あの時代になにもしなかったとは言われたくない。
反対の意思表示を残したかった」
 
近作のドローイング《大切な言葉》では頭のまわりにぐるりと色々なものが
描かれています。本、二人の頭部、飛ぶひと、教会、オカピ、樹。
そのアイディアノートというべき小さなスケッチブックも展示されていますし、
講演会(そう、ご本人の講演会があったのです!)では実際にロンドンの
ギャラリーでこの作品が彫刻となって展示される様子が映されました。
女性の右肩からワイヤーで立ち上がる林檎、オカピ、樹。
左肩からは”青い花”を表すガラス、トルソの立ち上がる教会、彼女を守る手。
素敵!
 
話に出たついでにいいますと、講演会では作品のメイキング映像をスライドで
見せてくださいました。
頭部と胴を木工ボンドで貼るときには自転車の荷物バンドゴムを幾重にも掛けて固定する(このとき少し曲げるのはミロのヴィーナスの昔から)。
胴体は中彫りして重さを軽くしたりするのですね。
また、質問コーナーでは楠木を素材として選んだ経緯など。

藝大大學院のとき、函館のトラピスト修道院から木彫のマリア像をという
依頼がお父様の舟越保武氏にあり、木彫はやらないから息子に、と話がまわってきて。
初めて(!)大きな作品を彫るので先生に相談したら価格的にも楠木を薦められた
のが出会いだったそうです。
彫り出して2週間で「できる」という手応えがあり、半年後に完成。
(これ、一般人が見られるんでしょうか?)
そして奥さまの半身像を彫ったのがはじまり。
眼がはいるのはそれから2、3作あとのことだそうですが。
 
講演会のあともう一度作品を観たりして長い時を
過ごしてしまいました。
 
8月30日まで。
http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1506/
 
 
フォト

↑大階段下でヤノベケンジ《サン・シスター》発見。
********************
 
図録は、買いませんでした。
誌上で小川洋子さんが寄せられているショート・ストーリィなど
(作品からイメージされたのでしょうか)良かったのですが。
やはり写真が実物とは乖離していて・・・
3次元のものを2次元にしているので仕方ないですね。
カタログをみて買う、というコレクターさんにはあのような
画像が求められるかもしれませんが・・・あまりにもくっきりしていて
それでいて深緑が黒く写っていたり・・・ちょっと残念でした。
それよりもう一度観にいきたい。
 
それともうひとつ。
 
同日に同じ兵庫県美で、クラシックコンサートと、
イラストレーター・天野喜孝さん(ガッチャマンにグイン・サーガ!)
のアーティスト・トークがあったのです。
別の日だったらもちろん参加させていただいたと思うのですが。さすがに・・・
こちらもちょっと残念でした。
 

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