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2014年11月22日20:48

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ポール・マクリーシュ指揮 東京都交響楽団 レビュー(完全版)

 (2014年11月20日木曜日19時 サントリーホール)
ホグウッドの病気、急逝のため、ロバート・レヴィンに続き、代役として初来日したポール・マクリーシュは古楽界の鬼才と評価される一方、モダン・オーケストラの指揮者としても活躍しており、首席ならびに芸術顧問を務めるリスボンのグルベンキアン管弦楽団とは今年から来年にかけ、モーツァルト、ベートーヴェンからヴェルディ、ブラームス、ドヴォルザーク、R.シュトラウスまで取り上げる。
今回の都響への客演で、その優れた手腕をはっきりと確認することができた。
長身のマクリーシュは、1曲目、コープランドの「アパラチアの春 13楽器のためのバレエ(原典版)」と後半の最初のR.シュトラウス「13管楽器のためのセレナード」を椅子に座り指揮したが、その意図は視線を合わせるなど、一人一人の奏者とのコンタクトを取りやすくするためだろうか。

「アパラチアの春」が素晴らしかった。
冒頭の「非常に遅く」。バレエでは「朝の光に包まれながら登場人物が姿を現す」部分は、静寂の彼方から現れ、静寂の彼方に去っていくようなひそやかな響きで始まる。セピア色の写真か、一幅の絵画を見るような懐かしい感覚がわいてくる。その繊細な響きは絶品で、たちまちマクリーシュのセンスの良さの虜になる。
アレグロになり、「花嫁と花婿、隣人たちの踊り」の快活な音楽も、都響の奏者たちの自発性を引き出し、生命力にあふれている。
原典版の完全なものとして演奏された「信仰復興運動家と信徒たちが、人生の暗く不条理な面を花嫁と花婿に諭すように踊る」後半部分の重々しい表現や、聖歌「シンプルギフト」が回帰する部分の心が洗われるような格調の高さにマクリーシュの趣味の良さを感じる。そして最後の夕暮れの空気に包まれる静謐さの見事なピアニシモ。すべてが幻の彼方に消え去っていくようだ。
温かい拍手が聴衆の受けた感動を物語っていた。

メンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」(クリストファー・ホグウッド改定版第2稿)でモダン・オーケストラを指揮するマクリーシュの本領を聴く。この曲は椅子なしで指揮した。
マクリーシュは響きに対するセンスの良さを持っている。やや高音がきついが芯のある透明なヴァイオリン群、クリアだが温かいヴィオラ、チェロ、コントラバス群。木管の温かいブレンドとハーモニー、金管群の抑制された、しかし輝きを保った音。これらに加え、きびきびとしたテンポとともに構築されるしっかりとした音楽の骨格。イギリス的というか、シャンドス・レーベルのような音と言ったらいのだろうか。

第1楽章だけでもマクリーシュの指揮の聴きどころがいっぱいある。
最初の序奏の格調と、管楽器が応えるハーモニーの適度なバランス。ピアニシモの繊細な弦が奏でるドレスデン・アーメンの旋律の透明感。第1主題の躍動感。ダイナミックな展開部のあとドレスデン・アーメンが再現する絶妙なピアニシモのタイミングの取り方。
第2楽章のスケルツォではトリオの表現に魅了された。美しい絹織物のような色彩感豊かで、滑らかで細やかな音が紡ぎだされる。
第3楽章アンダンテの抒情は甘さが控え目で、イギリス的な抑制がきいて渋みがあり、感傷に流れない。
第4楽章も細かなところまで目が行き届きながら小さくまとまらず、のびのびとした広がりもあり、音楽のスケールが大きい。アンダンテから続いてフルートのコラール「神はわがやぐら」が聞こえてくるところも宗教的な格調の高さがあり、第1主題は躍動感に満ちている。展開部から再現部にかけては音楽の勢いが増し、フガートの明快なコントラストの見事さ、コラールを奏でる金管の神々しさと次々に流れの幅と厚みが大きくなり、輝かしいコーダのコラールに至る。
抑制と解放のバランスが絶妙なマクリーシュの指揮に魅了された。こうなると、マクリーシュの本来のフィールドである彼の指揮する古楽をぜひ聴いてみたいと思う。

なお、今回セルパンという蛇がうねったような形をした古楽器がメンデルスゾーンの指示通り用いられていた。第4楽章のコントラファゴットに重ねられるというが、吹かれているところを見逃してしまったことは残念だ。

写真は東京都交響楽団facebookページより。

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