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2026年11月03日05:00

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人類最古のペスト流行はシベリアの5700年前の中石器狩猟採集民に起こった(前):鍵はシベリアマーモット

 中世ヨーロッパ人口3分の1を一気に失わせ、恐怖に陥れたペストは、知られる限り最古の人のペスト流行は、ロシア、シベリア南東部のバイカル湖の近くで起きていた。イギリス、オックスフォード大学のルアイリ・マクラウド博士が率いる研究チームが、約5700年前にこの地域の墓地に埋葬された狩猟採集民(写真=ペスト菌DNAが検出された墓の埋葬骨;絵=ペストの犠牲者を埋葬する狩猟採集民)に、ペスト菌の存在を示す証拠を発見したという論文を2026年6月17日付けの英科学誌『ネイチャー』に発表したことは、前に述べた(6月25日付日記:「集団的大発生を起こしたペストの起源は新石器時代より前の5700年前の中石器時代狩猟民に」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202606250000/を参照)。

◎マーモットの歯を装飾品に利用していた狩猟民
 だがそれでは、なぜシベリアなのだろうか。
 中石器時代狩猟採集民たちはこの地域に生息するシベリアマーモット(写真=Marmota sibirica)からペストに感染した可能性が高い、とマクラウド博士は語る。
 マーモットはネコほどの大きさの、穴を掘って暮らすジリスの一種で、その関与を示す考古学的な裏付けもある。
 バイカル湖周辺で起きたペスト流行と同じ地域の墓地から、マーモットの門歯(前歯)が数百個見つかっているのだ。その長く湾曲した門歯は装飾品として珍重され、副葬品として埋葬されたとみられる。マーモットはヒトと密接な関わりがあったことを示す明確な考古学的証拠のある唯一のペスト媒介動物だと、マクラウド博士は指摘する。

◎モンゴルではマーモットを皮ごと焼くポードクが国民的料理
 マーモットからヒトへの感染は、その後も数千年にわたって続いてきた。アメリカ、ミネソタ大学の歴史学者で獣医師のスーザン・ジョーンズ博士によると、1870年代にシベリアへ向かった調査隊は、マーモットの間でペストが広がっており、そのマーモットを扱ったヒトへの感染が起こっているという推測を持ち帰ったという。同博士は旧ソ連のペスト防疫体制を10年にわたり研究している。
 また1910年〜1911年にかけて中国の旧満州で約6万人が死亡したペストの大流行では、地元の猟師たちが調査員に対して、病気はマーモットが原因だという見方を示した。
 それでも、中央アジアのステップ(草原地帯)に暮らす人々にとって、マーモットの文化的価値は失われていない。熱した石でマーモットを皮ごと焼く「ボードグ」(写真)はモンゴルの国民的料理だ。マーモットの内臓は健康によいと信じる人も多く、違法なマーモット猟がいまだに続けられている。

◎ペスト菌にとってマーモットは理想的な生息環境
 マーモットの生肉を食べることは、ペストの感染と関連づけられてきた。2019年にはモンゴル西部で、ある夫婦がマーモットの内臓を生で食べた後にペストで死亡した。また翌年にモンゴルの近隣地域で、15歳の少年が狩りで捕まえたマーモットを食べた後に死亡している。
 ヒトは通常、ペスト菌を長く維持する宿主にはならない。対して、マーモットはペスト菌を長期間維持するのに適した宿主だ。そう指摘するのは、ノルウェー、オスロ大学でペスト菌の生態を研究するニルス・ステンセス博士だ。

◎ペスト菌に感染しても半数以上のマーモットは生き延びる
 実際、シベリアマーモットはペスト菌に感染しても50%〜80%が生き延びる。さらにマーモットは、地下で密集した社会性コロニーを作って生活し、10数匹の大家族が同じトンネルを共有している。ノミはマーモットからマーモットへと飛び移る。
 病原体にとっては、うってつけの環境なのだ。
 また巣穴は、マーモットが冬眠する間、ペスト菌にとって居心地のよい住処にもなる。ロシアの研究チームは、ペスト菌がげっ歯類の巣の敷き材で400日以上生存することを確認している。
 その地下世界から、人間が築いた帝国を揺るがす災厄が生まれたのだ。
(この項、続く)

注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
 写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202611030000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。

昨年の今日の日記:「寄生植物の自己回避の仕組みを解明、アフリカのストライガによる農作物の被害軽減に光明」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202511030000/

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