改札を出たあとすこし考える いまのわたしは本物だろうか #短歌
呼ばないでいればよかった気もしてる春の雨だけ窓に残って #短歌
物わかりのいい消費者のふりをしてやさしい嘘をかごに入れてる #短歌
帰ったあとも椅子はそのままで夜が静かに始まっている #短歌
うまく言えない重さを持ったまま3月の道を歩いて帰る #短歌
ポケットにしまえなかった声ひとつ 切れたあとでも耳はあたたかい #短歌
きっとまだ生まれる途中なんだよね 影のあとから追いつくみたいに #短歌
擦るたび起動してゆく記憶あり 春はまだ来ぬ匂いの装置 #短歌
沈んでもまた浮いてくる気持ちなら月にあずけておけばよかった #短歌
体温をまだ指先で弄び世界のあとに残ったあなた #短歌
指先で掬えば崩れるやさしさを胸のあたりでまだ光らせる #短歌
知らないねこの部屋の呼吸のしかた 端っこで丸くなればわかるよ #短歌
思い出は完全乾燥しないまま朝という名の靴を履きます #短歌
泡ひとつ消えてしまえば夜になる皿 ぼくらの指はそれを知ってる #短歌
遠くから花の匂いを連れてきて午後はゆっくり春をひらいて #短歌
触れられぬままの温度を口にしてあなたはすこし甘くこぼれる #短歌
向きをまだ変えない靴を置いたまま帰らないことだけが近づく #短歌
馬たちは音を立てずに通りすぎさくらの影に人は来なかった #短歌
まだ息をしている光があるならばこわれたことも間違いじゃない #短歌
名を呼べば熟れてしまいそうな午後 無花果の皮に指を遊ばす #短歌
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