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2018年04月22日21:07

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豆大福と珈琲

 一冊の本で人生が変わる、というようなことはまずあり得ない夢想だが、私は本屋や図書館、ブックオフに行くたび、今日こそ自分を変えてくれる本との出会いがあるのではと、いまだに想う。
 日々の暮らしは相変わらず平々凡々たるものだが、今年に入ってから毎月のように潜在する意識に小さな変化をもたらすような前進がある。唯我論に則れば、世界に存在しているのは自分の意識だけでありとあらゆる事象は幻であるそうだから、昨日より今日のほうが自分としてはいい状態かもと思えるのはしあわせである、
 今日読んだ片岡義男の短編集『豆大福と珈琲』で、ちらっと自分は変わるかもという予感がした。そもそもこの本は逗子図書館で偶然見つけて借りたのだが、2週間前に初めて逗子の図書館カードを作ったのだった。図書館と言えばサラリーマン時代の日比谷図書館と京橋図書館、そして27年来の鎌倉図書館一辺倒だが、3月にある調べものをしていて資料本が逗子図書館にあることが分かった。さらに隣接する鎌倉市民であれば借りられることや駐車料金が1時間は無料であることも知った。逗子図書館に行ってみると、鎌倉図書館に較べて建物や雰囲気が明るい上に、なぜだか新刊書も逗子のほうが多い。あらためて人口を調べてみると5万8千人足らずだから鎌倉の3分の1なのに、新刊も雑誌も豊富というのは、どうにも解せない。逗子サイコー、というより、鎌倉市行政の文化的貧困を嘆きたい。
 ともかく逗子図書館と縁が出来てから既に3回、訪ねている。読書の幅と深さが12パーセント広がった(当社比)。で、18日の木曜日に借りた一冊が片岡の本だったのだが、この本を読んでいる間じゅう、自分の今に欠けている感性と矜恃が見え隠れし、優しい(易しい)ヒントを声高じゃない口調で教えてくれたのだった。これこそがハウツー本や自己啓発書ではあり得ない文学の良さである。手許を照らしてくれる柔らかな灯りのようなもの。
 そうだ、これも先月のことだが、使わなくなって粗大ゴミに出そうとした2つの照明器具で、部品をリユース・リフォームして一つの間接照明を作ったのだが、これが思いの外読書用に効果があって、読書環境が大きく改善された。灯りひとつでこれほどに本が読みやすくなるのかと感じ入り、1週間くらい、灯りをつけるたびに嬉しかった。3方向からの光源は、物の立体感が際立つ。それは紙に印刷された文字も含まれる。思いがけない出会いだった。
 あとはこのような小さい進歩と幸福感をうまくまとめ上げて、カタチにすることだ。縮こまっていた私の背中をそっと押してくれたのが片岡の短編集であり、他にも借りてきた逗子の図書館本だった。
 今日の夕方、手作り名刺をプリンタで印刷した。
 用紙は無数の凹凸(エンボス)が入ったタント、いや、OKミューズコットン紙。A全用紙を毎回A4の大きさにカッターで切って印刷するのだが、これは製作部のYブーという男からもらった。Yブーの「ブー」はブタのブーで、私より5歳くらい若い太った男だ。この厚手の用紙を使って印刷するとき、毎回、Yブーを思い出す。彼はある恥ずかしい事情で退社を余儀なくされ、数年後、突然死のごとく亡くなった。お世辞にも好人物だとは言えない同僚だったが、私は彼のダメさ加減が実は好きで、よくからかっていた。
 普段の折衝から、私が紙好きなことをYブーは知っていた。で、「よかったら見本紙を持っていきなよ」と言って、渡してくれたのだった。
 Yブーが会社から消えた上にもう死んじゃったので、この特殊用紙は私の宝のひとつになった。使用するたび、ありがとう、とつぶやいている。

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