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2016年01月18日21:20

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トラウマとしてのよしもとばなな

 朝起きたら、痛みも微熱も消えていた。
 正月三が日が明けた日から苛まれ続けて今日が2週間目。私くらいの年齢だと風邪を引いて回復するのに2週間はかかるのが普通だから、いたずらに不安を持ち過ぎた自分が馬鹿みたいだ。結果論ではあるが。
 灯油の備蓄がほとんどなくなってきたので、買いに出るか。考えてみたらクルマは年末に乗って以来、一度も動かしていなかった。バッテリー上がりはないだろうけど、そろそろ動かしておかないと著しく劣化する。
 完全に雨がやんだのが午後1時半。うちの庭は雪が積もっているものの、鎌倉の街はほぼ消えている(はずだ)。
 ドライバーズ・シートに座ったところで、スキーツアー・バスの惨事をつい思い出してしまう。一つ操作を間違うと事故につながるのがクルマの運転だ。
 駐車場を出て街中まで進むと雪はまったく見られなかったので、ガソリンスタンドではなくブックオフへとコースを変えた。普段の日に較べてクルマの通行量は半減どころか6割くらい少ない。大仏前でもいっさい渋滞はなくて、鎌倉と藤沢の境にあるブックオフまでわずか15分くらいで着いた。
 店内も客が少ない。店員のほうが多いくらいだった。
 文庫の棚を「あ」から順々に見ていき、「よ」までに5冊、手に持った。
 よしもとばななの『なんくるない』。よしもとばななが沖縄の小説を書いているの? 新潮文庫なので表4に作品概要が印刷されている。「なんくるないさー」は琉球語、どうにかなるさ、フランス語のケセラセラに近い。
 ずっと過去の恨みがましい感情を持ち続けていた。吉本ばななは青春期最後のトラウマになっていた。
 吉本が『キッチン』で海燕新人賞を受賞した当時、書籍出版準備室にいた。吉本隆明の娘という話題性もあって、受賞作が載っている「海燕」を買って読んでみたら、父親とは明らかにジャンルの違う才能が豊潤にある、と思えた。
 編集会議で早速、ばななとなんらかの本をつくりたい、と訴えたら、まるで私は相手にされなかった。業界でも有名な取締役編集長が「うちはまずシイナサクラコだ。彼女の良さを消すような新人など認めない」と掃き捨て、編集長の番頭役がその言に輪を掛けるような非難を私にした。当然のことながら、私は一人論陣を張ったのだが、何しろ私は編集部の最年少で地位もない。つらいことに、編集長のおか持ち番頭が私を引っ張ってきたこともあって、「こんな馬鹿げたシイナサクラコ・プロジェクトを続けるのであれば異動願を出す」とまでは言えなかった。黒を白、と言い張る番頭を殴るほどの気概はなかったのだった。その1年後、シイナサクラコは小説にもなっていないような小説を発表し、芸能人扱いで吉本ばななと同じくらいには売れた。が、2作目の短い小説を出版したところでついえた。
 会社員でも公務員でも、およそ組織で働いている限り「知に働けば角が立つ」で、一人が正論を吐いたところでどうしようもない。いや、違う。本当に才気煥発な人間であれば、一人で百人の多勢をやっつけることができるものだ。が、私にはそこまでの才能もなければ、本気度もなかったのだった。好きこのんで自分の食い扶持を放棄することもなかろう、という小ずるさが、私の長所でもあり最悪の欠点だった。
 組織で働いている限り、誰しもこんな挫折は毎週、毎月、なんらかあるものだ。また、イヤなら辞めればいいというのが短絡思考であることも事実だ。
 ともかく、よしもとばななは、以降、いっさい目にしたくなくなった。彼女が本を出すたび、自分の卑小さを再認識させられたり、会社をつまらなく感じたりしたのだった。
 よしもとばななが沖縄を舞台にした小説を書いた。読めばいいじゃないか。女の腐ったようなヤツというのは私だ。いつまでもくだらない恨みを引きずってんじゃねえ。
 文庫と新書のコーナーを丹念に見終え、レジで5冊分の代金を支払ってブックオフを出た。
 午後4時前。心なしか、ドライバーのマナーがいいような気がした。クルマの交通量は増えている。が、総体的に慎重、というか乱暴なドライバーがいないのだ。だから、運転がラクだった。
 ガソリンスタンドで灯油を買う。病気明けなので、18リットルのポリタンで15リットルしか入れなかった。2つポリタンを持って来たので計30リットル。これで1カ月くらいはなんとかなるだろう。
 夕刊を読んでいて、軽く舌打ちをする。
「再生エネルギー倍増で経済効果1兆ドル超 国際機関試算」。
 自然エネルギー政策を推進すると、要は利益拡大に繋がるというわけだ。日本ではGDPを3.6パーセント押し上げる、と書かれていた。詳細な記事ではないのでイマイチ意味がつかみにくかった。
 日本は1990年代前半までは、世界一の風力発電量だった。技術も当然、世界一だとされていた。が、あれよあれよという間に先進各国は風力発電にも力を入れ始め、日本は現在19位までランキングが下がっている。私は愛国者として悔しくて仕方ないのである。くそったれ。こうして最低賃金、教育費、福祉関連などなどどんどんと落ちていくのね。
<風力発電ランキング(2014年)>
1 中国
2 米国
3 ドイツ
4 スペイン
5 インド
6 イギリス
7 カナダ
8 フランス
9 イタリア
10 ブラジル
11 スウェーデン
12 デンマーク
13 ポルトガル
14 オーストラリア
15 ポーランド
16 トルコ
17 ルーマニア
18 オランダ
19 日本
20 メキシコ
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