桜がひらく順にあの世も広がって部屋には水の音ばかりしてた #短歌
返した手少しだけ冷えていたことそれがわたしのぜんぶだったね #短歌
山菜を採る人どこか春の山 乗用車が道端に待つ #短歌
すこし遅れて歩き出すそのあいだ影とわたしが入れ替わってる #短歌
やさしいってきっと鍵をかけないこと戻るかどうかは別としてもね #短歌
靴紐の結び目ごと連れてゆく まだほどけない夜のほうまで #短歌
もしかしてエスパーなんですかと問えば触れる前から熱を知られる #短歌
あとすこしだけ近づけばいいのにね 体温だけが先に目覚める #短歌
言葉より先に触れるってどういうこと 信じてほしいだけかもしれない #短歌
ガラスペン乾く光の手ざわりに飽きた桜を遠くで見てる #短歌
嘘みたいさくらふぶきのなかをゆく名もなき春の化身としても #短歌
遅れてくわたしを追ってくる影がほんとのほうかもしれないね #短歌
約束は芽吹く手前で止まってる 春は来ている来ているけれど #短歌
折り目だけ先に覚えたさびしさを宛名ないまま胸にしまった #短歌
自販機の前でほどける決心を買わないままに持ち帰る手 #短歌
はるさきをほしいわたしにひとりぶんぬがれたままのからだが立つよ #短歌
指先で確かめているやわらかさ 失くさないよう折り目をつける #短歌
半分にしたはずの午後の静けさがどちらの胸にもちょっぴり多いよ #短歌
水面まで届かぬ声を抱えつついちばん古い名だけあたためる #短歌
窓の外だけ進んでいく時間へと遅れたままの手を伸ばしてる #短歌
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