3月3日、おひな祭りの日。
昨日は打ち合わせのため、朝9時に家を出てJRで甲府へ向かう。帰宅したのは午前零時だったから、引きこもり生活が長い私にあっては珍しい一日だった。今回は詩人の縁者と共におこなう打ち合わせゆえ、気を遣う。
甲府駅で彼らと合流。軽くランチをとって山梨日日新聞社へ。
滞りなく話し合いは進み、午後3時半に社を出た。
その後、駅前のカフェで雑談などをしたのち特急あずさに乗った。iPhoneで「えきねっと」にアクセスし、チケットレスで特急券を購入。これがすごく面倒くさい。が、券売機より100円安くなる。世の中、なんでもかんでもスマホが「主役」だ。スマホ嫌いゆえ(非人間的で反知性的なデバイスという点を蔑視している)、使ってるiPhoneは5年前の旧製品で、午後4時過ぎ時点でバッテリー容量は朝タンだったのに50パーセントを切っていた。
当初は打ち合わせが終わりしだい帰宅する心づもりだったのだが、多摩市在住の画家君に会ってもいいかなとも思い直して、結局、iPhoneから彼にメッセージを送った。
これから甲府を出る、聖蹟桜ヶ丘駅着は推定18時50分というところだろう、と。
彼は本日、大枚をはたいてクルマのタイヤ交換をすることになっていた。私と同じ車種、同じボディカラーということもあって、クルマ談義ができる彼の相手ははっきり言って私一人だ。稀少車で稀少カラーのお馬鹿コンビ。
午後7時、彼が待っているコンビニの駐車場に着いたのだが、想定外の事態を迎えた。彼は大パニックに陥っていた。
「センセ(と私を呼ぶ)、小さな釘をたくさん踏んでパンクしたようなんです」
わかった、と私は応え、「そのタイヤを二人でチェックしてみようね」と。
本日おろしたての新品タイヤなのに、ところどころ白い塗料がついている。いや、タイヤに踏みつけられたプラスチック片かもしれない。
しかし、彼も私もそれぞれ手でタイヤを直截触れながら一周しても、金属の釘は見つからない。
それでも腑に落ちない、というか、パニックは完全に治まっていない様子なので、ここからいちばん近いガソリンスタンドにとりあえず行って、もっと明るい場所で念入りにチェックした上で、空気圧のゲージを借りて空気圧をチェックすべし、などと私は命じることに。
数分後、セルフのガソリンスタンドに到着。気が動顛している彼に代わって事情を店員に説明すると、若い彼はプロ意識を持っていて「ぼくも一緒に見てみます」と。
が、3人でチェックしても異常は見つからなかった。念のため、私は店員さんに「タイヤ4本とも、空気圧を測ってくれないか。今日タイヤ屋さんでタイヤを替えたばかりだから、4本とも同じ空気圧のはずなんだ」と頼む。店員さんはその通りにやってくれて、「どのタイヤも2.5入ってます」と。
それを聞いてようやく画家君は落ちついた。
こういう思い込みは決して笑い話なんかじゃない。よほどの豪胆な人間以外、つまり9割のひとはちょっとしたトラブルに見舞われると、冷静じゃなくなる、パニック症候群とはほど遠いフリを私は何十年にわたって演じてきたが、ホントは画家君と同じ小心者で、過剰反応をするところがよくある。
だから画家君に「み〜んな同じだよ。ぼくなんてクルマに乗るたび、小さな異音ひとつで”クルマがどこか壞れたのでは?”ってびくついてる」などと素直な気持ちでコクって、元気づけた。半ば、宮沢賢治の心情でもある。
画家君はようやく平常心に戻れた。そのGSから10分くらい走ったところで「デニーズ」の立て看板があったので、入店することに。しかし、そこでもまだ画家君は心が弱っている様子に見えた。縁石に乗り上げそうになったので、「ダメ、危ない、縁石、ブレーキ踏め」とでかい声で叱責した。
駐車料金は2時間まで無料だったので、店内で1時間50分だべった。お腹が減っていたので、普通の神経ならめちゃ不味い「ジャンバラヤ」(インドネシア風チャーハン)もそこそこ食べられた。空腹は最高のごちそうだ。
相模大野駅まで送ってもらった。昼間は暖かだったのにめちゃ寒いやん。
ホームで電車待ちをしていると、体力がぐんぐんと低下してきた。
既に11時近いので、電車は空いていた。iPhoneのバッテリーは画家君とメッセージ交換を何往復かしたため10パーセントになっていた。Yahoo!ニュースさえ見ることができない。ということはある意味ラッキーで、落ちついて筑摩の文庫判全集『坂口安吾』を開く。これしか暇つぶしがない。敬愛する作家の本を暇つぶしなんて言っちゃダメだけど、私は安吾をお気楽な友人だと思ってもいて、論理の破綻ぶりとかまで共感できる数少ない作家さんなのである。「日本文化私観」を読みながら執筆年をつい調べてみたら昭和17年。日本文化の中身のなさを指摘しているのだが、マジ危ない奴だなあ(爆)。よく治安維持法であげられなかったもんだ。たぶん特高はアホだから安吾の意図を読めなかったんだろう。
そうこうしているうちにようやく鎌倉駅着。午前零時ちょっと前だった。
帰宅後ソッコーで入浴。
入浴後、伊予原新さんの短篇集『八月の銀の雪』を再読し始めた。伊予原さんの作品はいずれも好きすぎて感想を述べる気にもならない。自分にとって神みたいなひと。
今日はまだこれからだ。校正を始めよう。頑張れよ、俺!
さっき、家の前に生えてるフキノトウを4つばかりちぎった。天ぷらだな。先週もやっぱり4つ摘んだ。こういうエピソードを打ってると、都会暮らしの人から「自然生活ですね」という印象を持たれかねないが、それは半分違っている。鎌倉に住んでいてもフキノトウを知らない住民はいっぱいいて、要は自然ではなく意識に負っているだけだ。
もうニュースもスマホも見ないで、下向き加減で歩きたい。
トランプにFIFAが平和賞をあげるというとてつもない政治的なおもねりを見て、ワールドカップは基本、見ない、日本を応援しないことにした。4年に1度の楽しみだったが、これももうええわ。健全な祭典とはもはや言えまい。
世界は争いがない方向へ一歩後退二歩前進で歩んで来たが、この先は一歩前進しても二歩後退するだろうと思い始めた。究極のネガティブ志向になっている私。
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