多分きみ笑わせようとしてくれた店員の声が少し遠のく #短歌
遠ざかるあなたの影を見送りて瞳孔ひらく夏のまばゆさ #短歌
文庫本の重さのままで目を閉じて電車の午後がそのまま夢へ #短歌
鉄条網ひらひら抜ける羽虫ひとつ昼のわたしの居場所がにぶい #短歌
かべのすみまだみぬ冷たさがしつつ自分のからだ熱を持ちすぎ #短歌
ひとの目にうすれてのこる川ながれ観覧車より剥がれゆく錆 #短歌
小人用だったのだろう その傘が世界の隅で干されていた日 #短歌
夕暮れの喫茶店には似た人が二重写しに佇んでいる #短歌
黄昏のパンくず落ちて膝の上時間を食べて夜に入りゆく #短歌
ふと角度変えてみるたびなつかしく祖父の上着の匂いがするよ #短歌
デジカメをひらく季節のうすあかり 去年のわたしがまだ手を降って #短歌
まぶたには閉じられぬ日のかさなりてひとつのパンの夜をひらくよ #短歌
きみの熱 ゼリーのなかにとじられてあいはひとさじとおくにひらく #短歌
真夜中に咲いてはこぼれ ひるがおの肉を思う路地 湯気のような夢 #短歌
眠らずに歩けば路地にあらわれてトゥクトゥクらしき影がよぎれり #短歌
封を切りひとつぐちへと消えてゆく残りを数え声を待ちながら #短歌
握らずにひと駅すぎる手のあたり ほどよい距離を探す指先 #短歌
君の声とけて広がるこの部屋に永久を少し置いてゆくよう #短歌
青い月 絵の具の夜を照らしきる 主よ わたしは絵の中にいる #短歌
青く澄む水の底には雨しずく しんと静まり閉ざすひかりを #短歌
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