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2018年01月30日21:20

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洋上に満天の星

 一路伊豆・下田を目指してクルマを走らせた。まだところどころに雪が残っていて、天城越えの地点では、急な上り勾配の手前に大きなトラックが駐まっていたので、一旦停止をして、トラック脇にいた若い男に「この先、ノーマルタイヤで運転可能か?」と訊ねたくらいだ。「大丈夫です。いま、うちの会社が最後の除雪をしてるので、作業車にぶつからないでください」。ギリギリセーフだったのはただ運がいいだけ。
 予約したのはこれで2回目の投宿となる老舗旅館で、多々戸浜に面している。白砂の海岸に接して建っているので、海側の出入口を10歩進むと砂浜だ。前回泊まった時は日記に「夕陽が沈む瞬間、ジュポっという音が聞こえた」と書いた。
 いちばん安い宿泊コースだったのだが、キンメダイの煮付けを始めとして、下田漁港であがった魚の4種盛りや洗練された前菜、工夫を凝らした和の料理が並び、さらに前回にはなかったデザートバイキングが催されていた。ちょうどフルーツに飢えていたこともあって、洗面器いっぱい分くらい食べた。ポンカン、グレープフルーツ2種、ブドウ(皮ごと食べられるレッド・グローブ)、ハニーデューメロン、パイナップル。これに地元産イチゴがあればパーフェクトだが、さすがに価格高騰の折だからなかった。
 来てよかったぁ、と心の中で快哉を叫んだのは、夕食後にベランダに出た瞬間だった。満天の星空だ。沖縄の名護湾沿いにあるリゾートホテルで見た冬空の星と同じくらい、無数の星々がさんざめいる。

 パーシャクラブ 「満天の星」

  さんざめく 天河  
  星晴りてぃ 流り船
  かぬしゃまぬ笛む音
  満天ぬ星

 山中湖も真冬はこれくらいに星が綺麗に見えるはずだが、寒さが厳し過ぎるのとクルマの走行が(私には)不可能なので、知らない。
 すぐにオリオン座とカシオペア座がわかった。iPhoneを取り出して天体観測アプリでチェックする。明滅しているように輝いている一等星のシリウスはオリオン座の斜め下にあるのか、などと小学生になった気分。鎌倉でも一等星と二等星程度は見えるが、暗い街とは言え街灯くらいはあるので、数える気になれば数えられる。鎌倉も下田も太平洋に面してはいるが、相模湾なんて外国から見れば湖くらいなもので、本物の太平洋洋上の星空に較べたら大人と子どもの差があった。宮沢賢治の童話を読んでいると、田舎の人は星と共生しているのではないかと思うのだが、もし私が辺鄙な片田舎で暮らしていたらやっぱり天体運行に惹き付けられるだろう。星と星を線や楕円で結びながら、あれが白鳥、これはさそりと、魂で以て絵を描く夜遊びをするかもしれない。
 それにしても寒い日に来てしまったものだ。下田では雪はまったく降らなかったと宿の人は言っていたが、東京より数度くらい暖かいものの、晩ご飯が終わったあとは零度に近い冷え込みだったように思う。温泉の質はごく普通の単純泉だが、大浴場も湯船も規模が大きく、体の芯から温まることが出来た。
 翌日、なまこ壁で有名な松崎へ行った。クルマをどこに駐めたらいいのだ? 観光協会の前にある駐車場にいったん駐めて協会に入ったら、20代中盤といった風の男がカップラーメンを食べていた。私を見るなり大慌てになって食べるのを中断したのが面白いかった。その駐車場に駐めたままでいい、と言う。が、町歩きを始めて15分足らずで、足が進まなくなる。吹き荒れる寒風が半端ではないのだ。嵐に近い。
 寒さしのぎにクルマへ戻り、重要文化財の「岩科学校」を訪ねてみよう。
 が、学校の中に入っても寒い。暖房がまったく利いていない、というか、木造の大きな建物なので、全館暖房なんて無理なのだろう。

重要文化財岩科学校は、なまこ壁をいかした社寺風建築様式とバルコニーなど洋風を取り入れた伊豆地区最古の小学校です。
明治12年4月に着工、翌13年9月に完成を見た洋風デザインの印象的な建物で、日本では甲府の旧睦沢学校(明治8年)、松本の旧開智学校(明治9年)などに次ぐ古いものとして知られています。
平成4年11月に2年間の改修工事を終了し、明治13年の形に復元されました。
                                松崎町のHPより

 館内には昭和の各年代で使われていた教科書が展示されていて、昭和40年当時の国語の教科書もあった。私が習った教科書だ! 両親が亡くなって遺品整理を余儀なくさせられた際、私の教科書は一冊欠かさず取ってあった。一切合財全部廃棄したのだが、今になって自分がどんな書き込みやアンダーラインをしていたのか、ちょっと見てみたくなった。昔の自分と向かい合いたいと思うほどの懐古主義はないが、小さな段ボール箱2個分に絞った両親の遺品とアルバムと日記、そしてぼくの習字やノートや成績表などは取っておいた。小学校4年に書いた自分の習字を見ると、いかにも元気溢れる伸びやかさが字に表れている。あまりに健康的な筆使いゆえ、額に入れて自室に飾りたいくらいだ! 智恵がついた分、勢いを失った(笑)。
 旅をしていると、普段以上に自分と向きあえる。
 そして、注意力散漫な自分でも発見のひとつやふたつはある。下田の爪木崎ではちょうど水仙祭りが開催中だったのだが、水仙って甘やかな香りがするのね。家の周りと言わず鎌倉中のあちらこちらに水仙は咲いているのだが、香りがあるとは知らなかった。ちなみに爪木崎の水仙は300万本とのこと。
 だらだらと旅日記を綴っていると、また来週にでも行きたくなった。書こうと思えばいくらでも書けそうだ。
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