昨夜風呂に浸かっていて、天井がずいぶんと汚れているのに気づいたので、今朝、バスマジックリンをたっぷり付けたスポンジで拭いた。臭いが強いし目も痛くなる。拭き終わって、なるたけ自分の頭に掛からぬよう天井に向かってシャワーで流したのだが、やっぱ頭が濡れてしまって気持ち悪い。
本を返却しに図書館へ。友人お気に入りの美人はいなかった。土日に図書館へ行ったのが間違いだろう。雑誌棚そばのテーブルで「本の雑誌」を20分ほど飛ばし読みをし、1冊だけ雑誌のバックナンバーを借りて退館。空が晴れてきたので、もっと自転車に乗りたい気分だ。
帰宅後、パソコンというか大正時代の本と向きあって、一字一字打ち込み作業を始めた。その時代の翻訳書というのは総じてペダンティックであり、訳者の気合いも半端ないテンションだ。私が文字を覚え始めた昭和30年代というのはまだ教養が多少とも尊ばれた時代で、親の本棚には一部、旧かな遣いの本もあったし、「文章の姿勢」が問われているような文化が残っていた。私は悪ガキのくせして「日本のこころを大切にする」精神が強く、その点で極右だったかも。気合いの入った日本語がその頃から好きだった。
午後4時になって、ラズリと散歩へ出掛けた。
今日はどこへ行こうかね。
若宮大路まで出て海側を見たら、いつも立ち寄るショップの店主がいたので、そこに向かう。週末、必ずといっていいほど店前にいるNHKさんもいて、3人でだらだらと立ち話をした。たまにお客さんが来て、店主は店の中に入って対応する。
NHKと私の会話となると、本の話をする。古本屋やブックオフに入ると、「あれば買いたい本リスト」にある本を探すよね、なんてたわいもない話だ。
私が『日本奥地紀行』を挙げた。図書館で借りて読んだので今さら新刊を買う気にはならないが古本であれば買いたい、と言うと、「同感、同感」と彼は応える。
えーーーーと、書いたあの女性、名前なんだっけ? と私は著者をど忘れしていることを伝えると、彼も私と同じく「えーーーーと、あのガイジンさんは……」と私のアルツが感染してしまい、二人して考え込んだ。で、彼も私も明治大正時代の人間ではないため、彼がポケットからスマホを取り出し検索。15秒後に「ああ、そうだった、イザベラ・バードだ!」と感嘆したように言う。
「彼女の歩き方って『ブラタモリ』に通じるところ、あるよね?」と私。
「そうそう。数年前に新訳が出たので、また買って読み直そうかな。東洋文庫だったと思う」とNHK。
彼と私はただの顔見知りに過ぎないのだが、趣味がきわめて似通っている気がする。たとえば今日、この店の隣にある10畳くらいの空き地を指差して「ここに自家焙煎のコーヒー豆専門店を作ったら場所柄、お客さんが来てくれるかも知れない」と私が言ったところから、彼がいかにコーヒー豆に詳しいかということがよくわかった。いくつかの専門店の名を挙げたり、コーヒーミルのオタッキーなネタで盛り上がった。
この立ち話の間、ラズリは道行く人たちから撫でられまくりで、わりとご機嫌だった。小学生の女の子がラズリをいたく気に入り、お父さんに「ボーダーコリーを飼おうよ、可愛いよう」とねだっている姿がほほえましかった。飼うとなるとそれなりにたいへんだ、とはもちろん言わず、香具師のような口上を述べてしまった。「一般的にボーダーコリーは20から30くらいの言葉を聞き分けますから、新聞と命令すれば新聞をくわえるんです」。飼って後悔しろ(笑)。
1時間くらい立ち話をしてから、うちに引き返すことにした。
で、ラズリのまあるい背中を見つめながら歩いていたら、道路の端っこにカードらしきものが落ちているのを発見。手に取ったらANAカードでクレジット機能付きのようだ。拾ってしまったので駅前の交番に届けに行った。
若い巡査が対応。事情を説明すると、椅子に座ってください、と丁寧な口調で言われる。
拾った場所と時間を訊かれ、さらに私の名前と連絡先も尋ねられた。
で、帰ろうと腰を浮かせたところで、「所有者が現れたら報酬などを求めますか?」と質問され、「いや、要りません」と応えた。すると、それまで彼が記入していた遺失物表(?)の下のほうにある欄を指して「ありがとうございます。ではここにサインしてください」と言われる。
サインをしながら、この書類に少なくとも私の左手全部の指紋が付いていることに気づき、さらにANAカードには右手の親指人差し指中指の3本の指紋も付いているので、「くれぐれも言っとくぞ。私の名前と指紋を登録すんなよ」と言いたくなったのだった。が、冗談を冗談と受け取ってもらえないかもしれない、と一瞬のうちに考え直し、黙って交番をあとにした。
さらにうちに着く前になって「しまった。カードゆえ、逆に警察からカード会社に連絡して、持ち主にその旨を伝えるのか、あくまでただの遺失物として警察に保管されるのか、訊いておけばよかった」と悔やんだのだがあとの祭り。
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