10月22日木曜日,快晴。
藤原伊織の『ダックスフントのワープ』は多くの読書人を魅了した奥深い人間ドラマであるが、モチーフにテレポーテーションが使われている。瞬間移動、すなわちワームホールの隙間を突いてワンコがワープするのである。SFだと九分九厘の読者は受け取っているが、知ってる人は知っている。決してSFではなく、現実でも可能なのである。
私はその稀少な人間のひとりで、AIを使うことなく午後1時半、両てのひらをあるカタチを模して組んだ次の瞬間、昭和38年の某市某村にある古びたカフェに着いていた。途中、トンネルの中を潜り抜けたのだが、瞬間的にiPhoneのシャッターを切ってみたら写っていた。
自分の母親くらいの女性が注文を取りに来た。
「今日の甘味は、チーズケーキとパンプキンムースとくず餅です」と言われ、どれにしようかとしばし迷った。すべて手作りだそうだ。
飲み物がセットで付いている。
メニューに書かれたドリンクのなかから敢えて抹茶を選び、「どのデザートがオススメですか?」と訊いてみたら、女性はちょっと考え込んだあと、「カボチャがお好きならパンプキンかな、今の季節は」と答えたので、それを頼んでみた。
甘味セットはどれも300円。私は令和8年からやって来ているので、ただみたいな価格だ。
店内は5つのテーブルがしつらえられていて、うちひとつは和室に和テーブルが置かれていた。
私は二人掛けのテーブルでくつろいでいる。
敢えて浜田広介の「りゅうの目のなみだ」を携えてきた。主人公の少年は自分と似ていて、作り事の童話だとは思えないほどに感情移入できたからだ。
パンプキンムースにスプーンを入れて食べ始めると、ひと匙目で歯応えのある粒があった。スプーンで少しムースを崩してよく見てみると、その粒は栗だった。
なるほど、これは旬の季節のスイーツだ。
お抹茶はわりと喉ごしがよくて、すっきりしたキレがある。母の仕種を真似るように抹茶茶碗を3回回して5口か6口で飲み干した。
ムースを食べ終わったあと「りゅうの目のなみだ」を読んだ。20分ほどで読み終わった。
百円玉を3個握りしめ、女性に「美味しかった、また来ます」と言って店を出た。
カフェを出て周りに誰もいないことを念入りにチェックしたあと、ふたたび両手であるカタチを模して組んで念を送ると、一気に自宅まで戻ってきた。私は決して超能力者ではなく、ワープの術を知っているだけの平凡な男。
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