いまはまだそういう気分じゃないのです ドアの隙間に午後をはさめば #短歌
思い出をたたむみたいに夕暮れは今日の輪郭やさしく消して #短歌
真ん中で光るみたいにためらってわたしをわたしより先に知る #短歌
年齢を脱ぎ捨てる水 胸に満ち名もなく泳ぐ午後が疼くよ #短歌
言わないで済むならきっとそれでいい 舌に残った理由は消えず #短歌
ちゃんとしたはずの世界の端っこで賞与の文字が少し冷たい #短歌
抱えたままどこにも置けずいる夜の硬貨みたいに体温がある #短歌
透けてゆく指のかたちを確かめて折り目のぶんだけまだある重さ #短歌
またひとつ母をたたんで箱の底 ほどけば声がこぼれてきそう #短歌
風の名をまだ持たぬまま触れている乾ききらないきょうの端っこ #短歌
くり返し聴いているからだいじょうぶ 明日も今日のつづきでいられる #短歌
賞味期限確かめるでもなく戻す 今夜を少し延ばしておいて #短歌
ほどけてもまたわたしへと戻る糸 ひかりの端に指をあずける #短歌
火を止めてしばらくだれも見ないまま夜だけ静かに沈殿してる #短歌
潜るたび触れては消える年の層 まだ息継ぎの途中にいるね #短歌
ドラマより近くで響くその声もいつか静かに終わるといいね #短歌
湯気のなかほどけて消えるその声の形をぎゅっと両手で囲む #短歌
会議室 誰も動かぬ地図の上 現在地だけ書き換えられる #短歌
呼ばれずに残った椅子の冷たさを順番のない手で確かめる #短歌
足先でたしかめてやめたまま 底のないこと知ってしまった #短歌
★
ログインしてコメントを確認・投稿する