パントマイムでできた小窓は風を呼ぶ あのとき話せなかったことまで #短歌
想い出にすらならなかった家がある こたつも障子もあたしの嘘で #短歌
しずかなる廊下をふたたび歩きたい未完成って言えたころまで #短歌
チャイムにはだれの名前もないけれどわたしがいないことを知ってる #短歌
記録より記憶がやさしい夜もある すこしふるえてた手をそのまま #短歌
借りただけなのにありがとうって言われたひとの言葉にずれる背すじで #短歌
まいにちをひらく瓶から黒い粒ときどき泣くようにの零れてしまう #短歌
肩からはみ出すネギがわたしできょうは誰にも見つかりたくない #短歌
うつぶせの背にそっと積もってゆく光 だれにも怒られない午後 #短歌
光ごとすいこむように読んでいた指にやさしい緑の濁点 #短歌
前をゆく人の歩幅に合わせたらこの街の音がちゃんと聞こえた #短歌
犬くらいの重さがほしい日があってたとえば今日とかきょうとかきょう #短歌
失くしても怒られないものばかり揮発してゆく午後六時半 #短歌
ピント合うまえに流れた案内音 写真のなかでだけ笑ってる #短歌
閉めるときだけ見える場所にあった文字だれにも叱られなかった線 #短歌
決められぬままに煮えたる菜のはしにわたしの箸は少し触れてた #短歌
花びらの下には隠れる彫りのあとに声をかけるほどの意味もなく立つ #短歌
ふりむけば水たまりだけがうつしてるないていることまだ気づかれず #短歌
席料のようにはらってしまうことたそがれだけが冷えていたから #短歌
思い出と名づける前の光にもふれてはほどく花のかたちで #短歌
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