湯気ごしに視線を逸らすその癖が何より確かな前戯だった #短歌
笑ってた一瞬だけが写真なら濡れたままでも遠くへ行ける #短歌
湯気のなか哲学だけが声を持ち人形は息のふりしてとける #短歌
行き止まりではなく始発と呼ばれてた道をいまでも見送っている #短歌
くり返す手洗いの数を数えればどこかで違う生きものになれる #短歌
「もういない」って水槽を拭きながら言いかけたまま夕方になった #短歌
差し出せば断られると知りながら閉じたままでも傘は傘です #短歌
倫理とはつねにやわらかい場所を狙うようにはたらくものか #短歌
例外として生まれたものが今日 教壇に立つ 書かれていない順で #短歌
部品から声をはめ込むたび少し遠のいていく聖地の座標 #短歌
未記入の欄にひかれる線のよう君は何度も否定で返す #短歌
世界には分類しきれぬ味がありしずかに戻す袋の内側 #短歌
鑑の中でしか咲かないダリアがわたしの声を持ち始めてる #短歌
この家に音が足りない夜だからひとり用でも濯ぎを二度に #短歌
だれにも言えない怒りの行き先が午後の木陰をこくしてゆく #短歌
ちがうこと言いたいときのまばたきがだいぶうるさい 湯気のむこうで #短歌
だれも見ていない火の奥でひとつずつ名前をなくす羽音があった #短歌
きこえるのは声じゃなくてそのあとにうまく言えなかったことのほうです #短歌
靴音がひとつ消えてくそのあとでわたしがいなくなる話をする #短歌
もう戻らない光のほうへ向いていた あの道はいまも始発のままで #短歌
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