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2023年03月15日20:30

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ワカメを拾いに海岸へ

 相変わらず頸椎症神経根症の傷みで苦しんでいる。13日の月曜、かかりつけの整形外科で神経の痛みを緩和する点滴を受け、いちばん効果が強い鎮痛剤(リリカ)を1週間分、処方してもらった。医師に朝方の激痛で目が覚めると訴えると、「リリカは150ミリ/日とされているが、どうしても痛みが退かないのなら300ミリまで服用していい」とのこと。1錠75ミリなので、月曜の夜、18時半に1錠、24時に追加で1錠服んだ。朝ごはんのあとに75ミリ1錠を服用しているので、この日は計225ミリだ。
 結果、朝7時半までぐっすりと眠れた。しかし、これは鎮痛剤のなせる業なので、心から喜ばしいというワケではない。痛み止めを少し多めに使ってみたら効いた、というだけ。いざという時に備え(たとえばガンの闘病)、日常生活では鎮痛剤を多用しない主義ゆえ、これからどうしようか。
 月曜の夜で言うと、よく眠れたのはリリカ以外の要因が考えられる。リリカを服用する前後の1時間、『聖なる酔っぱらいの伝説』(ヨーゼフ・フロート著)という中編小説集を読んでいた。ブックオフの新書棚の最下部に、いかにもひっそりと棚挿しされていた白水Uブックス・シリーズの1冊で、背表紙には小さな級数で池内紀訳と打たれていた。池内さんを慕う私としては、無条件で「買い」だ。読み始めて5分と経たないうちに、ぎくしゃくとした訳語なのにイメージが湧きやすい文章と内容で、これぞ小説固有の「沼」だと思った。展開の中に自分が放り込まれ、この先はどうなるの、次のステージで私は不幸になるの? と疑似体験をしていく面白さ。
 愉しい読書というのは尖った神経を穏やかにしてくれるものだ。鎮痛剤が効いたのか、それとも池内さんの訳文が効いたのだろうか。
 そういうわけで3月14日は朝から気分がよかった。朝食もそこそこに、ずっと懸案だった「九錠の会」会報ニュースを2時間ほどかけて校正した。私が編集者だからという理由で会員たちは、よく言えば十全の信頼感で私に預け、悪く言えば面倒なことは私に「丸投げ」。粗っぽい文章を書いてもどうせあとで直してくれるだろう、みたいないい加減さが垣間見られる。甘えるな、と言いたいのだが、一方で、この人たちはしっかりとした文章を書く能力がそもそもないのではないか、だから甘えているのではないかもしれない、とも思う。
 朝から午後1時半あたりまで、リリカの鎮痛作用が効いているらしく、躁鬱病患者の躁状態みたいな快活さが漲っていた。干潮表で鎌倉一帯の干潮時間を調べてみたら午後3時過ぎが干潮だった。今くらいの痛みなら某海岸までワカメ拾いに行けそう。天然ワカメが海岸に漂着するのは年に2週間しかなく、しかもそこそこ海が荒れた翌日という条件付きである。昨夜は……たぶん海の波は高かったはずだ。
 自転車で行ってみた。海岸に着いた。まず目に付いたのは市役所から派遣された海の掃除人。たぶんシルバーボランティアに依頼したのだろう。私より年上風だった。彼のそばまで行って、「ワカメが打ち上げられてた?」と尋ねてみたら、「ああ、あったよ」と言って詳細な場所を教えてくれた。
 そこへ行くと、あったあった! 根っこからもぎ取られた大型のワカメが5本6本とまとまってあった。やや育ち過ぎているので、市販品のような柔らかさはないものの、荒波と潮に抗って育ったゆえの分厚さと旨味があるワカメだ。
 ビニール袋いっぱいに採ったところでやめた。これ以上重いと、うちまで運べない。マウンテンバイクなので前カゴなどはない。小さなサドルの上にワカメを乗せ、歩いて帰るわけである。重いとバランスを崩した時にひっくり返るかもしれない。海岸にはまだまだたくさんのワカメがあるので悔しいけれど、今日はおしまい。
 ーー夕ごはん前から体調が悪くなってきた。そして比例するかのように首、肩、腕の痛みが強まった。
 私、卑しいな。年に数回の機会だからこの機を逃がすのはもったいない、というのもビンボーたらしいし、海岸清掃人に聞いてピンポイントで採集地点へ行ったのも小狡い。高市早苗が象徴するような自民党の卑しさとは違う次元であるが、少しく卑小なる資本主義的志向だと言えなくもない。
 夜、石井光太懇親のノンフィクション『誰が国語力を殺すのか』を100ページ読んだ。この時点で、少年犯罪の有り様が昭和と較べて歪みが顕著になったことや、ネット民に顕著な貧しきボキャブラリーと思考がほぼ解明されている。タイトルをモジると「誰が日本の国力を殺すのか」だ。これは本文のなかで石井が100ページの段階で数回、「国語力(国語教育)の低下が著しくなったことと、と21世紀以降のゆとり教育が重なって、このままでは国際競争が格段と厳しくなった現代で、国力自体が危うくなっている」と述べていた。各種の統計を駆使して語っているだけに、石井が指摘している「(国語力の)格差拡大」「日本語能力の水準が年々低下」は、一刻も早く対策をとらないといけない喫緊の国家的課題だろう。
 話が前後するが、私はWBCに興味があって、大谷をはじめとする日本代表選手に対しても好感を持っている。が、夕方4時54分から7時までのニュースで大谷のホームランとヌートバ選手の大活躍シーンを、まったく同じ映像で5回も6回も見せられて違和感があった。これでは戦前、ラジオと新聞で連日、我が艦隊はミッドウエイで敵艦10隻を撃墜したなどと国民を鼓舞するのと同じではないか? 北朝鮮の名前を出して悪いけど、あの国営放送と同じ無邪気さじゃないか。国力が落ちている。SNSでバズればそれが好評だろうが悪評だろうが注目されればいい、という人が年齢を問わず増えている”道徳”の崩壊が進んでいる。国家の素晴らしさを喧伝するのも一定の節度があってしかるべきだし、世の中の腐敗をもう少し丁寧かつ大きく指弾するべきではないか。
 私は時代の「気」と無縁で生きていない。自分は下劣なほうなので、世の中自体が下劣になると下劣度が増すし、国力が落ちると自分の人間力も比例するかのように落ちてしまう。そんな流れに棹挿したいけど、いかんせん力がない。
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