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2023年02月21日20:35

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両国に行く

 2月19日日曜日。朝9時の「日曜美術館」はルーブル美術館特集の再放送。夜の「クラシック音楽館」は河村尚子+N響によるラフマニノフピアノ協奏曲第2番。どちらもテレビ画面に釘付けとなった。
 
 2月20日月曜日。朝刊一面二面にわたって、ウクライナ侵攻1年特集でロシア国内はどう変わったのかを詳細にまとめていた。スーパーではコカコーラや「オレオ」のクッキー、鮭にイクラに肉にパンと品揃えは2021年と変わらず、マクドナルドとスタバは名前が変わっただけで同程度のハンバーガーやシャレた珈琲飲料が売られ、ヨーロッパ・アメリカ・日本による制裁はまったく影響が見られないらしい。22年の経済成長はマイナス2.2パーセントだったが、ちなみに調べてみると日本の実質経済成長率は1.1パーセントだ。一時ほどではないが円安傾向にあるのだが、ルーブルは侵攻前と変わっていない。
 日本からロシアへの中古車輸出は「昨年4月頃から注文が増え始め、以前の2倍まで膨らんだ」と中古車輸出業者は語っている。また日本はロシアからの輸入製品を一部禁止したそうだが、カニやウニといった水産資源は対象に入らず、昨年の水産物輸入は量と金額とも前年から10パーセント増えたと。
 金平茂紀さんは講演で「昨年末とお正月をモスクワで過ごしたが、一般国民に戦争の影響を受けている様子はまったくなく、平穏な年明け風景だった」と言っていたが、ひょっとしたらロシア国民はウクライナ侵攻に関心さえないのかもしれない(いまだ8割がプーチン支持だというし)。そして、この日本も実はロシアと似たり寄ったりで、ウクライナ国民に深い同情を寄せながらも、食卓にはロシア産の鮭やイクラやカニが並び、ロシアの影響で高くなったもののエアコンの効いた部屋で暖かく過ごし、株やFXで資産活用をしている人なら円や世界各国の株価基準額が大きく上下動をしているので、例年以上に儲けた人が何百万人単位でいるはずだ。トルコ地震もウクライナ侵攻もしょせんは他人事で、それよりも電気代の高騰とか、卵の値上がりに対してひどく心を痛めている。
 しょせん人間なんて自分も含めてこんなもんだ、と割り切りたいのだが、電車の中で本を読み始めたら、居心地が悪くなった。
 夜7時から両国のシアターで現代舞踏を観ることになっている。そのために上京。1時間以上電車に乗るので、新書1冊をリュックに入れた。橋本治のほぼほぼ遺作となってしまった『思いつきで世界は進む』(ちくま新書)。ウェブなのかPR誌本体かわからないが、「ちくま」に連載していたコラムをまとめた内容で、4ページ1テーマの主張が並べられている。車窓から景色を見たり、いまどのあたりを走っているかを確認したりするので、電車内で読むにはちょうどいい。橋本は現ニッポン人をひどく小馬鹿にしている。納得していない。腹を立てている。諦めている。
 自分とは意を異にしているコラムが多かったが、橋本が憤ったり落胆したりしている理由はよく理解出来る。私はひとをバカにすると毎回のようにそれが自分にはね返ってきて、落ち込むことが多いのだが、橋本の率直な意見を目にすると、こんなことを言っちゃっていいんだ、と思った。が、それは橋本治だから許されるのであって、一般ピープルはやはり口を慎むべきだと考え直す。前日の「折々の言葉」(朝日朝刊)でルソーが語る「人間を社会的にするのはかれの弱さだ」(『エミール』の中から)という言葉を噛み締める。私たちはこの弱さを梃子にして生きる他、すべはない。
 午後5時半、両国駅からほど近いラーメン店『欽福』に入店。なんでもラーメン二郎系らしく、モヤシが山のように盛られたラーメンだという。私には珍しく前夜、ネットで調べておいた。
 鉢がテーブルに置かれた時点で、「これ全部、食べられるかな」と思ったが、意外とするする食べ進み、最後まで美味しくいただけた。800円也。
 公演がおこなわれる会場に向かう。一店舗、照明が明々と照らされたお店があったので行ってみると、「両国 國技堂」というあんこせんべいが有名な和菓子屋さんで、両国土産人気ナンバーワンらしい。が、なんとも高そうなのでやめた。先月から恩師や老作家に贈答品を贈り、先週もガス暖炉業者に鳩サブレーを送り、本日の公演チケット代は3500円だし、適正な小遣い額を想うとしょうもない土産は控えたほうが無難だろう。こういう我慢を3回か4回おこなって、来月はまた旅に出よう。
 まだ開場時間まで30分もある。スマホで調べたら近くにダイソーがあったので、電池を買いに行き、時間を少々つぶしてから会場入り。
 自由席なので、前列3列目に座った。そこで橋本本を開いたはいいのだが、隣に着席した女性二人組がまるで喫茶店にでもいるかのように大きな声で喋り続けている。一人は葉山か逗子住まいらしく、地元の話題を出している。こういう会話のすぐそばで本を読むというのはかなりつらい。「ぼくは薄暗い芝居会場の座席で読書するのが趣味なので、靜にしてもらえませんか」とは言えない言えない。やむなく寝たふりをしていたら、さっき食べたラーメンが大盛りなので本当に眠たくなってきた。
 公演内容は想定内。私より4つも上の男がここまで自分をさらけ出して踊っているのだから連帯と共感をしておこう。
 帰りはいったん逆方向の下り電車に乗って錦糸町へ行き、そこから横須賀線に乗った。これで鎌倉までずっと座って行ける。橋本の本だってラクに読める。
 両国界隈はずっと小粒の雨が降っていて寒かった。なので、電車の中が極楽に思えた。
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