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2015年11月22日21:10

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愛を口にしない人(が好き)

 寒くはないが、暑くもない。
 Jリーグ最終節、サンフレッチェ広島対湘南ベルマーレ戦を最後まで見終わり、日が陰ってきた頃合いで石油ストーブをつけ、1メートルほど離れて座った。カフェテーブルのそばに未読の本が積み上げられていて、本当は家具以外、本でも物でも置きたくないのだが、ついに本を収納するスペースがなくなったので、20冊ほど重ねている。これ以上積むと崩れてしまうだろうから、来年のことも考えて本を100冊以上捨てるかブックオフに処分するかしないと。
 昨日買ったばかりの沢木耕太郎『「愛」という言葉を口にできなかった二人のために』を手にとってしまう。内容は「暮らしの手帖」に連載された映画評を集めたものだが、評論でも紹介記事でもない。沢木は朝日新聞にも連載小説が始まるまで月1回、映画時評「銀の街から」を書いていたが、これも映画を題材にした含蓄と示唆に富むエッセイで、映画の感想文でもなければあらすじ紹介でもない。沢木の映画評を読んでしまうと、それでなくても優れた論考に追随してしまう性格なので、紹介された映画を観たとして沢木の後追いをしているだけになってしまう。だから丁寧に読むものの、読んだ端から忘れたいと思うのである。
 引き出しの多い人、というのは話を聞いても文章を読んでも面白い。記憶力がいいことと記憶の整理能力が高いことと普段から気を抜かない生活態度であること。この3条件が揃うと、知識が十全に活きて、教養のある人になる。好例が沢木耕太郎だ。ちなみに、安倍総理はこの3条件以前の問題で、ニッポンは美しい国と盲信しているわりに古今和歌集も世阿弥も武士道も谷崎潤一郎も三島由紀夫も触れたことがない(推測)。かりにも日本国を代表して外国の要人と会っているのだから、谷崎がわかりやすく日本の美を説いた「陰翳礼賛」でも引けばいいのに。
 ともかく沢木のエッセイは読ませる! で、読み手を立ち止まらせる箇所も多い。
 エディー・タウンゼントというボクシング史上最高のトレーナーがかつていた。
<いまは亡きそのエディーさんによれば、セコンドとして選手と一緒に戦いのリングに上がるとき、自分に言いきかせていたことがあったという。大事なことは選手を勝たせることだ。しかし、それよりもっと大事なことは選手を無事に家族のもとに帰すことだ、と。>
 映画『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』とは直接関係のないエディーさんの英ソードを最初に紹介し、映画の内容というか骨子を読者に説明する。読者は薄々(上官は部下らを無事家族のもとに帰す、ということが求められるべきことだ)くらいの示唆を受け、しかし沢木は起承転結の「転」のように、「戦争に勝者と敗者はいても、戦場には勝者も敗者もいなくて、殺した者と殺された者、傷つけた者と傷つけられた者、そして間近の死に対する恐怖を抱く者しかいない」といった考えを示し、そして論はいつのまにか、エディーさんが沢木に語った話に戻っていく。
<「心掛けているのは、ボクサーにタイトルを取らせることより、彼を五体満足のまま父母のもとへ、妻子のもとへ返すことだ」>
 彼の映画エッセイを読み進んでいくうち、いくつか引っかかりを覚える。そもそも沢木は、自分は会話のなかで「愛」という言葉を出したことがない、と前書きで書いている。にもかかわらず、本のタイトルは『「愛」という言葉を口にできなかった二人のために』だし、取り上げた映画に関わるすべての人、それは俳優であれ監督であれ登場人物であれ、誰に対しても愛という言葉こそ遣わないものの、やさしい愛情を注いでいるのである。もっといろんな引っかかりもあったのだが、それを徹頭徹尾に説明しようとしたら新書1冊分くらいの分量になるので、そんな長文なんて誰も読みたくもないだろう。私自身も読みたくない。
 ああ、沢木よりも前に読むべき本があるだろう。
 他にやるべきこともあるだろう。
 こんなふうに毎日毎日、サボってばかり。
 サボりついでに明日から旅へ。
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