大好きなジェイソン・ステイサムの最新作『シェルター』の上映回数があっという間に少なくなった。劇場によっては一日2回、少ないところではレイトショーのみになっている。これは上映終了が間近と思い、仕事の切れ目を狙って出かけて来た。『ビーキーパー』(2024年)、『ワーキングマン』(2025年)となかなか面白い作品が続いたので、そろそろ危ないかなと覚悟はしていたが、
思った以上に小粒で凡庸なアクション映画になっていた。それでも、「跳ぶハゲ、射つハゲ、強いハゲ」(by 映画秘宝)のジェイソン・ステイサムの活躍をスクリーンで観られるのは嬉しい。ちなみに、私が一番気に入っているステイサム主演作は『キャッシュトラック』(2021年)である。いつか、『キャッシュトラック』を超えるハードボイルドなステイサム主演作が登場するのを私は待ち続けている。
【物語】 スコットランドのヘブリディーズ諸島にある孤島。すでに機能を停止し廃墟になった灯台で男(ジェイソン・ステイサム)は愛犬と静かに暮らしていた。週に一度、彼のもとに食料品を届けに来る友人とその姪のジェシー(ボディ・レイ・ブレスナック)が彼のつつましい生活を支えている。島の近くまで叔父の漁船で行き、そこからはジェシーがボートに移乗し、男の住む家のドアの前まで物資の入った箱を届けるのが彼女の役目だった。ある日、ジェシーは箱の上に、男へのプレゼントの小箱を置いた。翌週、嵐が接近する中、叔父と共に島に向かった彼女はドアの外に小箱が残されていることに気づく。男が受け取りを拒否したのだ。ジェシーは「ドアの前に箱を置いて帰る」というルールを破って、ドアをノックした。その時、叔父の漁船には猛烈な嵐がすぐそばまで迫っており、全ての漁船は操業を中止して、避難するようにとの無線連絡が入る。叔父はジェシーの名前を呼ぶが、風雨が強く、とうてい彼女には届かない。漁船は大波にもまれ、木の葉のように上下する。ノックの音で男がドアを開けると、「ここへは来るな」と不機嫌そうに箱を受け取り、ドアを閉めようとするがジェシーが足を挟み、それを阻止。ジェシーは男に小箱を渡そうとするが、男は足でジェシーの足をどかせ、ドアを閉めてしまう。強くなる風雨にジェシーはあきらめ、ボートに向かうが海は大荒れに荒れていた。ジェシーが置いたプレゼントの小箱も風で吹き飛ばされた。
ボートに乗り込むとジェシーは必死にオールを漕ぐが、コントロールできない。漁船の叔父もジェシーに気づき、ボートを回収しようとするが、大波にもまれ漁船は接近することも不可能だ。叔父が船首をボートに向けた途端、漁船は横波をまともに食らって転覆。ジェシーのボートもひっくり返って海に投げ出されてしまった。家の中で、ふと海上に目をやった男はその光景を目撃し、あわてて船外機付きのボートで救助に向かう。海に飛び込んでジェシーを助けようとするが、沈没した漁船の漁網が足にからまっている。その時、男は漁船に閉じ込められた友人が絶命している姿を見た。命の危険を顧みず、なんとか、ジェシーを救助した男は彼女を家に連れ帰るが、彼女の左足首はロープにからまったことで大きく腫れ上がっていた。ジェシーは「病院に連れて行って」と懇願するが、男は「それはできない」と静かに答える。彼には島外に出られない事情があったからだ。しかし、彼女の傷は酷く、化膿しはじめた。「病院には連れて行けないが、物資を調達して来る」男は意を決して、本土に向かう。町中の防犯カメラに映らないよう気をつけながら、商店でジェシーの手当てに必要な医薬品を購入し、目立たぬように引き上げる男だったが、商店の前で少女達の自撮り写真の背景に写り込み、リアルタイムでMI6に送られてしまう。MI6の「高度監視システム シア」は男が大使館爆破のテロリストで「最優先排除目標」であるティモール・チェルモエフと瞬時に割り出し、アラートを発する。「シア」が一般市民の違法監視を行っていたことが露見し、政局を恐れた首相は事態を収拾するため、MI6長官スティーブン・マナフォート(ビル・ナイ)を表面上、更迭。首相は彼の手腕を高く評価しており、本業の諜報活動に専念させる方が賢明と判断したのだ。マナフォートから指名され、長官代理となったロバータ・フロスト(ナオミ・アッキー)は「シア」のアラートに従い、男を殺害するため、直ちに強襲部隊の派遣を命じるのだったが・・・。
この先、ネタバレです。ご注意ください。
マット・ディモン主演の『ボーン・アイデンティティ』(2002年)にそっくりな流れでびっくりした。ボーンシリーズの緻密な物語、スケールの大きな展開に比べると全てが小さくまとまってしまい、描写も浅い。既視感あるエピソードの羅列で、残念ながら、ボーンシリーズの劣化コピーとの印象はぬぐえない。あまりに似すぎていて、意外性がないのが残念過ぎる。『ビーキーパー』や『ワーキングマン』に比べればシリアスであるのは間違いないが、何かひとつでも「あっと言わせる」シークエンスを盛り込むことはできなかったのだろうか。
男の正体が、エリート暗殺者育成プログラム「トンビ(ブラックカイト)」で訓練された最も優秀な工作員マイケル・メイソンであり、暗殺命令を拒否したことでMI6のマナフォート長官から抹殺指令を出されたため、10年間潜伏していたという流れは、ボーンシリーズにそっくりだ。「トレッドストーン計画」で忠実な暗殺者に育てられたジェイソン・ボーンは忍び込んだ大型クルーザーで暗殺目標が幼い子ども達と一緒だったため殺害を躊躇って、反撃を受け、射たれて海中に転落。記憶を失って拠点に帰投しなかったことで、トレッドストーン計画の責任者アボットは彼の抹殺を指示。マイケル・メイソンは、イラクの核開発計画の中枢にいた科学者を「命を助ける」という約束で英国に亡命させていたが、約束を破って科学者を殺せというマナフォートの命令に逆らったため、MI6から追われている。ジェイソン・ボーンもマイケル・メイソンも暗殺者である前に、人間としての道義を重んじている点、そのためにボーンはCIAに、メイソンはMI6と敵対することになった点、あまりによく似ている。
マイケル・メイソンが事件に巻き込まれたジェシーを守ろうとするのは、ジェイソン・ボーンがマリー・クルーツ(フランカ・ポランテ)やニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)を救おうとしたのと全く同じだ。一緒に逃避行を続けるジェシーがいつの間にかメイソンをサポートするパートナーになるのも同様。
ガンアクションも近接格闘シーンも悪くはないが目新しさはない。マイケル・メイソンが元英国海兵隊特殊舟艇部隊出身という経歴が活きているのは冒頭のジェシー救出シークエンスのみ、というのももったいない。彼が名前すらつけず、ジェシーが「ジャック」と名づけた愛犬との絆もほとんど描いていないのも不可解だ。メイソンとマナフォート、マナフォートとロバータ、ロバータと「シア」オペレーターのマディソンの関係描写はほぼないか、あっても実にあっさりしている。これがこの物語の底を浅く感じる理由だろう。描かないことで逆に物語に深みが出る場合もあるが、本作はその範疇にはない。次回作に期待したい。
◆関連日記
映画『ワーキングマン』
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映画『ビーキーパー』
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映画『キャッシュトラック』
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映画『キャッシュトラック』再び
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