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2025年01月08日10:06

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映画「ビーキーパー」

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ジェイソン・ステイサムの最新作『ビーキーパー』を観た。昨年、劇場予告編を観て以来、ずっと、新春3日の公開を楽しみにしていたのだが、同時に一抹の不安もあった。それは、ステイサム主演の前作『キャッシュトラック』(2021年、原題:Wrath of Man)がとんでもない傑作で、さすがに『キャッシュトラック』を超えるのは難しいと思っていたからだ。ステイサムが主演というだけで、二つの作品は脚本も監督も違い、直接比較すること自体、意味はないのだが、ファン心理からすれば期待と不安が入り混じるのは当然だろう。

 しかし、本編スタート直後から、「これは『キャッシュトラック』と並ぶか、それを超える傑作かも知れない」という手応えを感じた。とにかく、物語の展開が速い。謎の主人公ビーキーパー(養蜂家)は暴走トラックのようにひたすら目標に突き進み、圧倒的な強さを見せる。さながら、ターミネーターT800のように行く手を阻む者を瞬殺し、彼が爆走したあとは「竜巻が通過したかのように」壊れた器物と死傷者の山が築かれていく。アクションの速さと規模において、明らかに『キャッシュトラック』を超えている。この映画と比べるべきは『イコライザー』や『ザ・コンサルタント』の方が相応しいが、ことアクションに関する限り、それらをも凌駕している。新春早々、痛快なアクション映画を堪能することができ、大満足で劇場をあとにした。

【物語】 都会の喧騒を遠く離れた郊外の農場で、男(ジェイソン・ステイサム)は納屋を借り、養蜂を営んでいた。大家のエロイーズ・パーカーは教師として長年勤めたあと引退し、今は慈善団体の責任者として「他者に尽くすため」の活動に従事している。ある日、男はエロイーズの要請を受け、屋内にあったスズメバチの大きな巣を駆除した。エロイーズが「あなたがいて助かったわ。あなたのおかげでこの土地も豊かな自然を取り戻せました」と感謝すると、男は「スズメバチのために蜂が全滅するところでした。私の方こそ、納屋を貸していただいた上に土地を使わせていただいて感謝しています。親切にしていただいたのは、初めてです」と応えた。エロイーズは「お礼に夕食に招待するわ」と笑顔で男を誘い、男もそれを喜んで受けた。

 男が養蜂作業に戻り、夕食時にプレゼントとして持参するために「蜂蜜」を準備している頃、入力中のエロイーズのPCモニターに突然、警告メッセージが表示された。PCが不正プログラムに侵され、内部のデータが破損する恐れがあるという内容だった。PCに疎い彼女はメッセージにあるコールセンターに電話をして症状を伝えるが、そこはフィッシング詐欺集団の偽のコールセンターだった。責任者の巧みな誘導と懇願にすっかり騙されて、マイニングソフトのダウンロードを実行し、個人資産の全額と、慈善団体の活動資金200万ドルを詐欺集団の口座に振り込んでしまうのだったが・・・。

 この先、少しネタバレしますので未見の方はご注意ください。








 観客の誰もが「それは詐欺だよ! 電話しちゃいけない!!」とハラハラする中、純真無垢で世間知らずのエロイーズは詐欺集団の偽コールセンターに電話をしてしまう。「ご迷惑をおかけしたお詫びに500ドルを送金しましたので、ご確認ください」と詐欺集団の責任者はエロイーズの口座にわざと5万ドルを送金する。あまりの大金に驚き、いったんは「返金するわ」と送金手続きをしようとするエロイーズだったが、送金にはパスワードが必要だ。「これはやはり、銀行の窓口に相談してからにしましょう」と思いとどまる彼女に、責任者は「それではミスがバレて、私は解雇されてしまいます。私には家族がいるのです」と泣き出しそうな声を出し、エロイーズにこのまま返金してくれるよう懇願する。このシークエンスが実に恐い。哀れに思った彼女がパスワードを入力した瞬間、ダウンロードした詐欺プログラムによって、彼女の個人資産全額と慈善団体の活動資金200万ドルは吸い出されてしまう。

 他者の幸せのために一生を捧げて来た真面目な、もと教師エロイーズは、卑劣な詐欺集団に騙され全てを失ってしまった。管理していた慈善団体の200万ドルを奪われたことは取り返しのつかない失敗であり、個人資産喪失だけであれば、彼女は死を決意しなかったかも知れない。警告メッセージ表示から、偽のコールセンターとの通話、そして、エロイーズの自殺という一連のシークエンスは臨場感があり、ショッキングだった。

 夕食時間にエロイーズの自宅を訪ねた男がすぐに異変に気づき、真っ暗なキッチンでナイフを手にする様は彼が「ある種のプロ」であることを明快に伝えている。室内に照明がついておらず、煙感知器が鳴っていたからだ。おそらく、エロイーズは詐欺にあったあと、一度は気を取り直して、夕食の準備にとりかかったはずだ。火のついたコンロにフライパンが載っていたことから、そう察することができる。そして、調理の最中、突然、強い後悔と自責の念に襲われ、発作的に拳銃自殺を図ってしまった。銃声が聴こえなかったのは、母屋から離れた大きな納屋の中で、男が蜂蜜を遠心分離器にかけていたからだろう。

 男が部屋に入り、エロイーズの変わり果てた姿を発見した瞬間、背後から頭に銃を突きつけられる展開は巧い。しかも、その相手は母エロイーズを訪ねて来た娘ヴェローナであり、彼女はFBI捜査官だった。「お母さんは自殺かも知れない」となだめる警官達の声に耳を貸さず、「母の亡骸がある部屋に、ナイフを持った見知らぬ男がいたのだから、彼がクロであることに疑いはないでしょう」とヴェローナは押し切る。警官は男に「なぜ、ナイフを持っていたんだ?」と尋ねると、男は「部屋が暗く、煙感知器が鳴っていたから」と説明する。屋内に侵入者がいる可能性があるとの的確な判断に驚いた警官がさらに「あなたは警察関係者??」と質問すると、男は「ビーキーパー(養蜂家)だ」とだけ応える。この映画で何度か繰り返される「男の身元」を尋ねるシーンだが、これも味わいがあって良い。

 フィッシング詐欺の被害に遭ったことで自殺したエロイーズの復讐のため、「謎の男」ビーキーパーは敢然と行動を起こす。巣箱の中に隠した衛星電話でかつて彼が所属した組織に連絡をとり、エロイーズを騙したコールセンターの所在を突き止めると、ジェリ缶をふたつ提げて乗り込んで行く・・・。

 正直なところ、「謎の男」の過去は一切、明かさない方が良かった。ビーキーパー(養蜂家)の男が「恩人を騙し、自殺に追い込んだ詐欺集団」に復讐するが、男はとんでもなく強かった、という純粋な復讐劇で充分だったろう。「どこかの国のエリート特殊部隊隊員か諜報機関の敏腕工作員」という過去を匂わせるだけに留めるべきだった。それをいかなる組織にも属さない独立した超法規機関「極秘プログラム ビーキーパー」としてしまったことで、にわかに嘘臭く、漫画チックになったのは残念だ。

 脚本のカート・ウィマーが「群れを守るために生きている限り戦う」という蜜蜂の習性と男の行動原理を完全に重ねたかったのは理解しよう。「悪い子孫を残す女王蜂を働き蜂が殺す」という習性の存在が、物語の上で重要な意味を持っていることもわかる。しかし、「極秘プログラム」のはずのビーキーパーの工作員が「本当にビーキーパー(養蜂家)である必要があるのか」は、はなはだ疑問。ここは象徴的な意味での「ビーキーパー」に留め、実際は他の職業を隠れ蓑にするべきだ。詐欺集団の顧問のもとCIA長官ウォレス(ジェレミー・アイアンズ)が偽コールセンターを「燃やした男」がビーキーパー(養蜂家)と聞いただけで、その正体を察してしまうのが良い例だ。かつての部下のCIA長官ジャネット(ミニー・ドライヴァー)にビーキーパーの所在を問い合わせて、「引退したビーキーパーのアダム・クレイ」とたちまち、名前まで判明するのは興覚めでしかない。生年月日と社会保障番号しかわからず、軍歴や指紋、旅客機の搭乗記録すらない「防諜の専門家」である男が、行く先々で平気で手がかりを残していくことも気になった。

 男の戦いぶりは、実に素晴らしい。寡黙で、迅速、それでいてパワフルだ。何より見事なのは、「相手を殺さず、制圧する」ことを第一にしている点。銃器に頼らず、まずは相手の戦闘力を殺ぎ、昏倒させるに留めている。詐欺集団の偽コールセンターのビル前では、入館を阻止しようとする警備員達に「雇い主がお金をだまし取る詐欺グループだと知っているのか?」と尋ねた上で、それでもなお、抵抗する者は打ち倒している。相手の銃器を奪い、たちまち分解して、銃器での反撃が不可能としたり、分解したパーツで痛撃を与えたりと変幻自在だ。男を追う警察、FBI、雇い主を守ろうとする傭兵グループに対しても、できるだけ殺さずに無力化しようと努めているのがわかる。

 ただし、男の正体を突き止めて蜂箱を破壊し、最初から彼を殺害するためにエロイーズの納屋を襲撃したグループについては容赦しなかった。偽コールセンターで一度は見逃してやった首謀者が率いていたのだから、これは仕方ないだろう。

 最後に。

 同じステイサム主演の復讐劇でも、『キャッシュトラック』とはかなり趣が違っていた。喪った者への哀しみの深さ、死の原因となった者達への怒りの強さについては『キャッシュトラック』の方がはるかに上だ。重厚なハードボイルドにして強烈な復讐劇である『キャッシュトラック』は、やはり私の好みに合っている。『ビーキーパー』もかなり良いのだが、恩人エロイーズとの交流描写があまりに短いことと、「社会の秩序を保ち、群れを守る」というビーキーパーとしての行動原理が「個人的な復讐」色を薄めてしまっているのがとても惜しい。社会正義の追求としてではなく、「唯一、親切にしてくれた恩人の復讐」を男があくまでも個人的に遂行するドラマの方が説得力があり、盛り上がったと思う。

 それから、男の後を継いだビーキーパーの女があまりにエキセントリックで、あれではビーキーパーとしての職務を充分に果たせるはずがない。もとCIA長官のウォレスも「あれはもっと早く引退させておくべきだった」と本音を漏らしていたが、彼女はビーキーパーではなく、他の組織の凄腕の殺し屋という設定にすべきだったろう。

 最後に、エロイーズの自殺の動機となった「給付金200万ドル」を回収する能力も機会もあったのだから、現金で奪還する様を描いてほしかった。フィッシング詐欺集団を派手に壊滅させるのも良いが、彼女が理事として管理していた慈善団体の多額の給付金が失われたまま終わるのではエロイーズが浮かばれない。この点、フィッシング詐欺で奪われた煉瓦職人の年金を全額取り戻したデンゼル・ワシントン主演の『イコライザー』シリーズは格段に優れている。


◆過去日記『キャッシュトラック』
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1981294395&owner_id=6007866
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