ムービルは2026年9月30日をもって閉館。最終上映の作品が『ニュー・シネマ・パラダイス』に決まったと知り、家族でチケット予約をした。上映終了後、そのまま「閉館セレモニー」に参加できることから、最終上映回の予約は困難になると予想された。案の定、シネマポイント会員の予約が可能になる17日21時には公式サイトへのログインに時間がかかり、1分後に「ログイン順番待ちです。しばらくお待ちください」が表示されて、停まった。そのまま待つこと、1分。ようやく、チケット予約画面に入り、座席の選択画面になった時にはすでに劇場の半分が埋まっていた。なんとか、家族分の予約ができたのはラッキーだった。
映画館で『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年、原題:Nuovo Cinema Paradiso)を観るのは36年ぶり、2回目。閉館する映画館が最後に上映するのにこれ以上ふさわしい作品はない。「映画愛と映画館愛に溢れた名作」だからだ。
実は、私はこの最終上映を観るまで、主人公サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ、愛称トトの解釈について、大きなミスをしていた。おそらく、一番最初に本作を観た時に「勘違い」をし、そのまま最終回上映のこの時までの長い歳月「それ」を信じていたのだ。少年時代のトトを演じたサルヴァトーレ・カシオがとても愛らしく天衣無縫で、それでいて賢く機転に充ちていたことが原因のひとつだと思う。彼に比べると、青年期を演じたマルコ・レオナルディには「トト」のキャラは荷が勝ち過ぎているように感じた。少年時代の賢く愛らしい「トト」が成長したにしては何かが違う。悪戯小僧の茶目っ気や機転が明らかに消えている。まして、中年期を演じたジャック・ペランについて好感を抱けるはずがなかった。兵役を終えてトトが帰郷してみると、すでに映写技師の仕事は見知らぬ男が担っており、恋人エレナは所在不明になっていた。シチリア島を離れ、自分の道を探すようにアルフレード(フィリップ・ノワレ)に強く勧められ、ジャンガルド村を去って、30年。誰とも連絡をとらず、「母が懸命に連絡先を探し、アルフレードの死と葬儀のことを知らせるまで一度も帰郷しない」薄情な男だったからだ。そして、「電話をするたびに違う女性が電話に出た。どの声も本当におまえを愛しているとは思えなかった」と語る母マリアの言葉がトドメを刺した。中年期のトトは「故郷を棄て、母親を棄て、アルフレードとの友情も忘れ、都会で自由気ままに遊び暮らし、つき合う女性をとっかえひっかえするクズ男」と確定した。「思い込み」と「こだわり」の強い私は少年期のトトとアルフレードの友情のドラマを愛するあまり、青年期のトトに違和感を覚え、中年期のトトを毛嫌いしたまま、過ごしていた。
しかし、最終上映回を観て、驚いた。シチリア島ジャンカルド村を離れるトトをホームで見送ったアルフレードが彼にアドバイスをした内容である。「故郷のことも俺のことも全て忘れるんだ。そして、二度と帰って来るな。懸命に自分の生きる道を探せ。人生はおまえの観た映画とは違う。もっと厳しく困難なものだ。ここにはお前の夢はない。お前が帰って来ても、俺は自分の家に迎えない」とアルフレードから諭されていた。トトはアルフレードのこの言葉を守り、夢に向かって全身全霊を傾けて進んだ。トトは薄情な男ではなかった。幼い頃のように、アルフレードの教えに忠実に従い、彼の言葉を守って奮闘したからこそ、ローマで有名な映画監督になれたのだった。トトがアルフレードの葬儀に参加するために帰郷してからのシークエンスがこれまでとは全く違って観えたのは当然だろう。おかげで、本作の素晴らしさを今さらながら痛感できた。
上映後、短い休憩時間があった。ロビーでは『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマ曲「Cinema Paradiso」がヴァイオリンとハープで生演奏された。18時30分からは「閉会セレモニー」がスタートし、セレモニー冒頭では檀上で再び、テーマ曲「Cinema Paradiso」が演奏された。映画を観た直後だけに心に沁みるものがあった。閉館セレモニーはFMヨコハマのレポーター藤田優一さんがMCを務め、社長の挨拶(映像)、支配人の挨拶の他、閉館特別映像上映のあと、サンドアートパフォーマンスが披露された。短い時間ではあったが、長く横浜市民に愛されてきたムービル閉館にふさわしい温かいセレモニーだった。観客が退場する時、閉館セレモニー参加者全員に記念品(オリジナルハンドタオル、AI調合のオリジナルフレグランスカード)がプレゼントされた。観客が退場すると、「ムービル4」の入口に支配人はじめ全スタッフが整列し、閉館の挨拶とこれまでの愛顧に対して感謝の言葉が語られる。フロアを埋め尽くす観客は大きな拍手でそれに答えた。こうして、ムービルは37年の務めを終えた。ここで観た映画の数々、家族と過ごした時間をこれからも忘れることはないだろう。ありがとう、相鉄ムービル。そして、さようなら。
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