全く未知なるアニメだったが、『ルックバック』の感想について意見交換をしている中、マイミクのalcoa01さんからご紹介を受け、Amazonプライムで視聴した。おそらく、アニメ映画『ルックバック』と何らかの共通点があるとお考えがあってお勧めされたのだろうと勝手に解釈したが、まさか、同じ原作者とはいえ、これだけ毛色の違う作品が生み出されている事実の方に驚いた。容赦ないスプラッターと適度なエロチックさで、正に、青年誌掲載漫画らしさに溢れている。アニメに疎い私から見ると、吉沢やすみの『ド根性ガエル』(週刊少年ジャンプ、1970〜1976年掲載)と鳥山明の『ドラゴンボール』(週刊少年ジャンプ、1984〜1995年掲載)、さらに『スパイダーマン』の世界を合わせたようなハイブリッド感のあるダークヒーロー物語でとても面白かった。
『ルックバック』と通底するのは、ひとつには「大切なパートナーの死を乗り越えて、主人公が大きく成長し、生まれ変わって前に進む」ということだろう。一度は死んだ主人公デンジが「チェンソーの悪魔」であるポチ太に心臓を提供され蘇り、「チェンソーの悪魔」の能力を手に入れる。そして、超絶な能力をもつチェンソーマンとして悪魔達と戦うことになる。世界観も形も全く違うが、『ルックバック』で藤野が京本の遺志を継ぎ、漫画家として再び活動を開始するのとよく似ている。デンジはポチ太を、藤野は京本を「今は亡きパートナーの存在を強く感じながら、共に戦い続ける」のは同じだ。
「ふたつめ」については重大なネタバレになるので、後述する。
ちなみに、いきなり劇場版を観ても話が理解できないと思い、アニメ版(全12話)をサブスクで視聴した上で『劇場版チェンソーマン レゼ篇』を観た。劇場版は続編にあたり、当然ながらアニメ版を観ていることが前提なので、アニメ版を知らずに劇場版を観ても世界観の理解は困難だろう。アニメ版に比べ、劇場版はかなり緻密な物語に仕上がっており、その違いがわかったことも収穫だった。
【物語】 自称16歳の少年デンジ( 声:戸谷菊之介)は亡き父が遺した借金返済のため、やくざの依頼を受けてわずかな金銭で悪魔を斃す「非正規のデビルハンター」として、「チェンソーの悪魔」ポチ太と共に生きていた。ある時、悪魔と契約して特殊能力を得たやくざはデンジの存在が邪魔になり、デンジを罠にかけ、殺害する。ポチ太は「デンジの夢の話をもっと聞きたいから」と自分の心臓をデンジに与えて一体化し、デンジは「チェンソーの悪魔」の能力をもって蘇った。やくざと彼らが操る「ゾンビの悪魔」達を皆殺しにしたデンジのもとに、公安のデビルハンター達が駆けつけ、デンジの才能を見抜いた公安対魔特異4課のリーダー、マキマ(声: 楠木ともり)に「今、ここで悪魔として殺されるか、それとも人間として私に飼われるか選びなさい」と突きつけられる。デンジは美人のマキマに惹かれ、公安のデビルハンターとなって生きる道を選ぶ。
公安のデビルハンターとなったデンジは彼のお目付け役となった早川アキ(声: 坂田将吾)の部屋で同居し、さらに新たにバディーを組む「血の魔人」のパワー(声: ファイルーズあい)も部屋に転がり込んで、奇妙な男女三人の共同生活を送ることになった(ここまでがアニメ版)。
ある朝、デンジは悪夢を見て目覚めた。それはいつも見る同じ夢だ。夢の中のデンジは少年で、路地の先にある古びたドアの前に立つ。そこでポチ太の声が聴こえて来て、彼は「ポチ太、夢の中くらい撫でさせてくれ」とドアノブに触れようとするが、ポチ太から「デンジ、絶対に開けちゃだめ」に言われ、そこでいつも目を覚ますのだった。公安本部のマキマの部屋に出頭すると、バディーのパワーが体調不良のため、しばらく休養が必要とのこと。マキマは、パワーの替わりにデンジと組みたいという「サメの魔人」ビーム(声:花江夏樹)を紹介する。ビームは普段は会話もできないほど狂暴だが、デンジの能力に惚れ込み、「チェンソー様! 最強! 最高!」と呼ぶデンジの前では何でも言うことを聞く、従順かつ忠実に仕える僕(しもべ)だった。「なんだか、浮かない顔だね」とデンジの反応にマキマが声をかけると、「男は嫌いっす。最強に元気ですよ」とデンジは元気なく答えた。「最強に元気なら、明日一日、私とデートしない?」 マキマの思いがけない誘いにデンジは大喜びする。
翌日、早朝から待ち合わせ場所でマキマを待つデンジ。「俺、女の人と遊ぶの初めてで。今日はどんな感じですか?」とマキマに質問すると、マキマは「今日は夜の12時まで一日中、映画を観まくります」と意外なことを明かした。「なんだか、思っていたのと違うなぁ」と戸惑うデンジだったが、次から次へと映画館をハシゴし、マキマの隣の席でおとなしく映画鑑賞を続けた。周囲のお客さんが笑ったり、泣いたりする中、デンジは彼らの反応が不思議で仕方ない。映画のあと、喫茶店で感想を話し合うと、マキマもデンジと同じで他のお客さん達とは明らかに受け止め方が違っていた。「俺、正直、今までの映画は全部微妙です。俺、映画がわからないのかも」 そういうデンジにマキマは「私も10本に1本くらいしか面白い映画には出逢えないよ。でも、その1本に人生を変えられたことがあるんだ」と答えた。最後の作品の何気ないシーンでデンジは涙を流して感動する自分に驚くが、隣の席でマキマも泣いていることに気づく。「あのラスト、俺、一生忘れないと思います」「私も。あれだけで今日のチケット代の元がとれたね」マキマも答えた。「俺、心ってあるのかな」 独り言のようにつぶやいたデンジの顔をしばらく見つめていたマキマはいきなりデンジに抱きつくと、胸に耳を押し当て、デンジの心臓の鼓動を聴く。焦るデンジ。マキマはそっと身体を離すと、指でデンジの胸に触れ、「あったよ、デンジ君の心」 そういうと静かに去って行った。マキマの後姿を呆然と見送るデンジ・・・。
マキマとデンジが「同じ映画を観て、共に心を動かされた理由」は不明だが、マキマがなぜデンジを映画に誘い、なぜ、ふたりが同じ映画で感動したのかはいずれ、明かされることになるだろう。
翌日、「ドキドキするってことは、俺にもやっぱ、心あんじゃん!」 デンジはそれが嬉しくて、たまらない。路上で悪魔被害に遭った人々への救済のため共同募金に遭遇し、「心がある俺は募金もしちゃうんだ」と募金する。お礼にもらった白い花を、彼は勘違いして食べてしまった。やがて、雨が降り出し、電話ボックスに避難したデンジだったが、見知らぬ少女(声:上田麗奈)も雨宿りに電話ボックスに駆け込んで来た。デンジの顔を見るなり、涙がこぼれるほど笑い出した少女に気分を害したデンジは「なんだ、テメエ!」と声を荒げたが、少女は「ごめんなさい、あなたの顔が死んだうちのワンちゃんにそっくりだったから」と謝罪。それを聞いて、デンジは突然悶絶した表情を浮かべ、口を押えて苦しみ出す。びっくりした少女に「タラ〜ン!」と口から白い花を出して、プレゼントした。「これって手品ですか!」と笑顔を見せた少女にデンジは「かわいい・・・」と心の中でつぶやいた。「私、この先の『二道』という喫茶店でバイトしています。今度来てください。この花のお礼をします」と少女は手をふりながら、雨上がりの歩道を走って行った。
少女がバイト先の喫茶店に着き、エプロンを締めるとマスターから「お客さんに水をお出しして」と指示される。見ると、窓際の席にデンジが座っている。「はや〜!! 私より先に来たでしょ」「お礼をもらいに来ただけだよ」とデンジ。花のお礼にと出されたコーヒーを一口飲み、妙な顔をする彼に少女は笑う。「コーヒーって、美味くないじゃん。ドブ味だよ、ドブ!」と憤慨するデンジに、少女は「子どもだ、子ども!」とデンジの肩をゆすりながら笑い転げる。その感触にはっとするデンジ。この娘、俺のこと好きなんじゃないか! 「私の名前はレゼ、あなたは?」と少女は尋ねた。「俺の名はデンジ」「デンジ・・・、デンジ君・・・。私、デンジ君みたいな面白い人、はじめて」そう言って頬を赤らめたレゼに、デンジは呆然とした。「確定じゃん! 俺のこと、好きじゃん! 俺は俺のことが好きな人が好き。どうしよう。マキマさん、助けて。俺、この娘、好きになっちまう」と心の中で叫んでいた。
それ以来、デンジとレゼは急速に接近し、親密の度合いを深めていく。「俺の心はマキマさんが見つけてくれた。俺の心はマキマさんのもんだ」と悩みつつ、デンジの身体は素直に行動していた。連日、レゼの喫茶店に通いつめ、レゼはデンジの隣で学校の課題をする。レゼはデンジが学校を知らず、勉強にも無縁であることを心配して、「行っちゃいますか、夜。一緒に学校を探検しない?」と誘う。その頃、「台風の悪魔」と契約した謎の男は、「台風の悪魔」の要求でデンジの心臓を狙っていた。血も涙もないといわれる強敵にも弱点がある。「血と涙のある場所を探すのさ。そいつの妻と娘をさらって皮を剥ぎ、それを見せたら、そいつはおとなしく殺されてくれたよ」 謎の男は不気味に笑った。
深夜、学校に忍び込んだデンジとレゼ。誰もいない夜の教室で「学校の授業ごっこ」で遊んだ後、ふたりは屋上に上がり、全裸でプールに飛び込んだ。泳げないデンジの手をとり、泳ぎの基本から教えるレゼ。夜のプール、月の光のもとでふたりの裸体が白く浮かび上がった。やがて、雨が降り出し、プールから上がったふたりは教室で雨がやむのを待っている。「デンジ君はさぁ、都会のネズミと田舎のネズミ、どちらが良い?」「なんだ、それ?」 都会のネズミは美味しい食事にありつけるが、猫や人間に命を狙われる危険性が高い。田舎のネズミは美味しい食事とは無縁だが、安全に暮らせるというイソップの寓話だった。「俺は都会のネズミの方がいいな」「え〜、田舎のネズミの方が良いでしょ。平和が一番ですよ」とレゼ。「君は美味しいものを食べて、楽しけりゃいいのかい? じゃあ、明日、お祭りに行かない? きっと美味しいものがあるし、楽しいよ」 「あぁ、仕事が終わってなら、いいよ」「え、ほんと! やった〜!! 約束ね」 そういって、レゼはちょっとおトイレ行ってきます、と真っ暗な廊下に出て行った。「超糞かわいい・・・」デンジはレゼの後姿を見送りながら、そっとつぶやいた。
レゼがトイレから出てくると、学校の外は荒れ模様になっていた。稲妻が光り、暗い廊下の先にナイフを持った謎の男が待っていた。「一緒に連れションしようぜ、お姉ちゃん!」 デンジが教室で「マキマとレゼ、どっちとつき合えば良いのか」と妄想を膨らませている間、レゼは謎の男に追われ、必死で校舎内を逃げていた。そして、ついにレゼは大雨が降る屋上に追い詰められてしまう。「もしも〜し、お姉ちゃん、君は屋上でションベンするのかい?」と舌なめずりしながら、謎の男はレゼの近くに迫って来る。「あ、あなた、一体何なんですか?」 レゼは息を切らせながら、謎の男に問う。「そういう君こそ、自分が何者なのかわかっているのかな? 俺は君を知っているぜ。君は、チーズなんだよ。ネズミをおびき出すためのチーズ!!」「あなた、何を言っているの?」「俺はこれから君の皮を剥ぎ、眼をくり抜いて、チェンソーにこう言うんだ。君の大切な女性はまだ生きている、ってな」 謎の男は不敵な笑みを浮かべ、舌なめずりしながら、一歩、また一歩とレゼに近づいて来るのだったが・・・。
この先、ネタバレします。
未見の方はご注意ください。
「俺がほしいのは君の皮と眼だけだ。他はいらない!!」と絶叫しながらレゼに飛びかかる謎の男。悲鳴を上げながら、自分に振り降ろされるナイフを見つめるレゼ。次の瞬間、レゼは男のナイフをかわすと、脚を男の身体にからめ、男の首に左腕を回し、右腕で強烈に締め上げた。「ぐ、ぐぁあ」男は堪らず倒れ込むが、レゼは蛇のように男の身体にからみつき離さない。雨でびしょ濡れになりながら、なおも締め続け、ロシア語の歌を静かに口ずさみながら、ついに巨漢の男を窒息死させる。
不審者に追われ、正に「絶体絶命のかよわい少女が突如、能力を開放して不審者を斃す」という驚きの展開。ここに原作者・藤本タツキの本領が発揮されている。彼は読者や観客(視聴者)に最悪の展開を予想させた上で想像のはるか上を行く、または予想の裏をかいて「心底、驚かせる」ことが好きなのだろう。性癖といえるかも知れない。
「申し訳ありません! ボム様がここにおられるとは思いませんでした!」と「台風の悪魔」がレゼに謝罪した。レゼの正体は「爆弾の悪魔」と契約した魔人だった。レゼは男の死体の始末を「台風の悪魔」に命じると、このツケを払うために「私の言うことを聞くのよ」と宣言する。
翌日、レゼはデンジとお祭りに出かけ、夜店を楽しんだ。そして、マスターから教わったという花火を楽しめる秘密スポットにデンジを案内する。ここからが衝撃の展開だ。
打ち上げ花火が夜空に大輪の花を咲かせる中、レゼはデンジに抱きつき、キスをする。次の瞬間、デンジの足元に大量の血がほとばり落ち、デンジは尻もちをついて、レゼを見上げた。口のへりから血が流れ出る。レゼがにっこり微笑んで舌を出すと、彼女の舌の上に噛みちぎられたデンジの舌が載っていた。呆然とするデンジの首をレゼがナイフで横なぎにし、デンジの首は切られ鮮血が噴き出した。デンジの前に片膝ついてレゼが座ると「ごめんね、痛いね」と言いながら、「デンジ君の心臓もらうね」とナイフを胸に突き刺す。彼女もまた、デンジの心臓を狙う刺客だったのだ。その時、ビームが瀕死のデンジをさらい、彼の身体を抱いたまま、崖下に飛び降りて逃げて行く。「やばいやばいやばい、なんで臭いで気づかなかったんだ! あれはボムだ!!」 ビームはデンジを抱きかかえたまま、逃げる逃げる・・・
『劇場版チェンソーマン レゼ篇』の凄さは、主人公デンジが気を許したレゼが、自分の命を狙う最強の刺客だったということだろう。「公安が絶対にわからないところへ、一緒に逃げよう。私が一生、守ってあげる」とデンジを誘ったあとのシーンが前述のキスに繋がるのだから「とてつもない衝撃」だ。そして、公安のデビルハンター達が束になっても敵わない強敵レゼを、終盤、マキマが異次元の強さで瞬殺するという驚愕の結末。『ルックバック』に通底するふたつめが、「レゼの死」である。『ルックバック』では主人公藤野をはるかに超える才能の持ち主で、藤野の大切なパートナーの京本が暴力によって突然奪われるが、本作でデンジの能力をはるかに凌ぐレゼが、圧倒的な暴力の前に瞬殺される。「主人公より優れた、主人公の大切な相手が、暴力によって突然奪われる」という構図が全く同じだ。藤本タツキの好む物語構造なのだろう。私が「レゼは京本に似ている」と感じたのは、その容貌だけでなく、彼女たちの「立ち位置(役割)が同じだった」からだ。『ルックバック』が京本の魅力に負うところが大きかったように、『劇場版チェンソーマン レゼ篇』は「レゼの可愛らしさ」こそが肝であったと断言できる。いつもの喫茶店で、レゼの死を知らなまま彼女を待ち続けるデンジの姿が切ない。
※藤本タツキの描く女性はどれもみな魅力的だ。マキマとレゼ、どちらを選ぶかデンジが悩んだように、観客も迷うに違いない。京本の面影を思わせるレゼに、私は強く惹かれる。
ログインしてコメントを確認・投稿する