見知らぬ誰かの体温(ねつが染み込んだ湿るベンチのなかに溶けゆく #短歌
まっさらな光のなかでくちづけをして昨日の嘘をなかったことに #短歌
すれ違うスーツの群れの眩しさを少し離れた歩道から見る #短歌
だけど「自由」という名の新しい透明な檻にぼくは捕らわれている #短歌
ひだまりという暖簾の裏でおじさんが靴を履きなおしている午後 #短歌
向こうからビニール傘を頭にかぶったおっさんが走ってくる午後 #短歌
というふうにドラマみたいに綺麗には終わってくれない泥のグラウンド #短歌
神様が燃やし損ねた映画館 ぼくの心臓はハサミの形 #短歌
世界の終わりみたいな夕日が沈む 僕らの距離はまだ測れない #短歌
演じ終えシンクの底に横たわる銀のフォークにそそぐ水道水 #短歌
窓枠に夕焼けひとつ置いてきて明日の自分に鍵をかけるよ #短歌
計算はあっているのかいないのか まあなんとかなるのが人生 #短歌
その静かな歩幅を夜に溶かすまであなたの手をそっと握りしめる #短歌
部屋の空気が濁るそのたびに僕は私を諦めてゆく #短歌
戻れないかたちに曲げてしまったのふたりの夏を責めるみたいに #短歌
ケアという名の呪縛はいつでも柔らかい毛布で僕を縛る #短歌
誰かに愛される記憶だけが喉を通るあたたかい液体になる #短歌
誰のものでもない午後をいちばん丁寧なやり方で生きる #短歌
スパイスの香りが部屋を満たすとき私もふわり羽根をひろげる #短歌
だれにも見つからない場所へ行く沈黙だけをポケットに入れて #短歌
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