陶磁器に関しては、観るようになってからまだ日は浅いが、出光美術館や松岡美術館でにわか勉強、アウトラインは習得(?)が、料理を盛る器として陶磁器をまとまって鑑賞する機会はこれまでなかった。知らない用語もたくさんあった。
展覧会では、近世に用いられた代表的な陶磁の食器〜大皿・鉢、向付、蓋物、猪口〜それぞれをまず紹介。以下は、解説から。
大皿・鉢
人数分の料理をまとめて盛る器。美しく華やかに盛り付けられた料理と豪華な器に客は歓声を上げるだろう。給仕役が取り分けたり、客が順番に自分の分を取って次の人へ回したりする。
向付
近世においては、一人ひとりに「膳」や「折敷(おしき)」が用意され、その上に並んだ器で料理をいただく。膳や折敷の上では、手前に飯碗と汁椀が置かれ、その向こうに置かれるのが向付。向付は客全員がお揃い、あるいはお揃いの柄違いで、食べ終わった後鑑賞の対象にもなった。客同士の話が弾むね。
蓋物
平安貴族の「大饗料理」や武家の「本膳料理」はいずれも儀式料理で「出来たてを食べる」ことを重んじなかった。しかし、近世になると、出来たての美味しさを供する意識が高まり、蓋のついた鉢、蓋向、蓋茶碗は、料理の色、香り、潤い、温かさを保つと同時に、蓋をあける瞬間の演出効果もあった。
猪口
近世には、調味料や薬味の種類が豊富になり、繊細な味わいが重視されるようになった。猪口や汁次に調味料・薬味を入れて添えれば、食べるときに好みに合わせて風味を加えられる。また猪口や手塩皿は珍味や香物などを少量盛るのにも適している。
さて、それら器の形や文様は、客をもてなす上では重要なポイントだ。
めでたさでいえば、まず思い浮かぶのが「宝尽くし」。
「歳寒三友(さいかんさんゆう)」の「松竹梅」はめでたいばかりではなく、元は節操や高潔な君子の象徴されたし、そういう意味では、蘭竹菊梅の「四君子」もある。ただし、食器としてはあまり見ないような?
竹がめでたいのなら、その子ども「筍」も喜ばれる。筍の成長は早く、吉祥だ。
多福を象徴するものとして、
「蝙蝠(こうもり)」=bianfu=変福:福に変わる
中国製の陶磁器染付にこうもりはよく登場する
「鶏」=ji =吉も、中国語では同音。
幸福のひとつは、多産、安産、子孫繁栄。
「ネズミ」、「リス」は多産。中でもネズミは大黒天の使いでもあるからさらに縁起が良い。
植物では、「瓜」は、たくさんの実をつけて蔓が長く伸びることから子孫繁栄や長久を意味する。「とうもろこし」、「柘榴」、「葡萄」は実や種が多いから、多産、子孫繁栄を暗示。
「玉取り獅子」は獅子が鞠(玉)と戯れる姿だが、雌雄の獅子がじゃれ合うとその毛玉から立派な獅子が生まれるという中国の伝説で、子孫繁栄、男児の成長、厄除けなどを願うもの。
不老不死、長寿も幸福な条件。
「鶴亀」はそのものが長生きとされ、「桃」は不老不死の仙果。
「猫と蝶」=maodie=耄耋(もうてつ):70歳80歳、長寿。絵画に多い。
もう一つの大事な願いは、出世と蓄財。
いずれも中国語で同音
「鹿」=lu=禄:俸禄、高給を得る
「蜂」=feng=封:領地を与えられ爵位を受けること
「猿」:猴=hóu=侯:侯爵(hóu)最高位の爵位
「魚」=yu=余(余りが出るほど豊かであること)
中国由来のものが多く、同音(だじゃれ)で吉祥語とすることが多い。以上は私の数少ない知識。以下、本展覧会で得た新知識と気に入った作品を紹介しよう(忘れないためにも)
第1章 近世の食卓を彩る陶磁の食器ー大皿・鉢・向付・蓋物・猪口
大皿・鉢
《色絵粟鶉文八角台鉢》肥前・有田 江戸時代17世紀
粟は穂=sui=歳 鶉=an=安:平安、安泰
八角=八方天儀:8つの方角を守護する神
《染付松樹文三脚大皿》鍋島 江戸時代17〜18世紀
脚は菊葉形。菊も松も高潔な人物を示唆する。美しい染付にうっとり
《織部洲浜形手鉢》美濃 桃山時代17世紀
洲浜形(すはまがた)とは、水辺の砂州や入り江の地形を上から見下ろしたような、曲線の輪郭に出入りのある形状。織部焼や高取焼などに多い。
また、一つの器に大胆に2種類の色分けをされている様式を「鳴海織部」という。鉄分の多い赤土と鉄分の少ない白土を継ぎ合わせて、白土部分には鮮やかな緑色の織部釉を掛け、赤土部分には白泥や鉄絵で文様を描くという、非常に装飾性が高く変化に富んだ技法である。
《古染付鹿馬図富士山形鉢》景徳鎮窯 明時代17世紀
富士山形というのは、日本で命名したのだろう。それにしてもユニーク。孟子「木石与居 鹿馬与遊」に由来で、世俗を離れ、自然の中で無心に暮らすという意味らしい。
《青花桃樹雲龍図洲浜形鉢》景徳鎮窯 明時代17世紀
これもまた洲浜形で、縁起の良い「如意頭」を模したもの。
《祥瑞二段捻鉢》景徳鎮窯 明時代17世紀
「祥瑞」は、しょうずい ではなく「しょんずい」と読む。明末の中国・景徳鎮で日本向けに作られた最高級の染付磁器のことをいう。
「捻鉢(ねじばち)」は、連続・永遠(永遠の発展)→家内安全、一族繁栄を意味する吉祥文。
我が家にも、安い捻鉢がある。もちろん、祥瑞ではない(笑
*画像は参考画像
向付
《片身替釉洲浜形向付 五客》高取 江戸時代17世紀
白釉+鉄釉の「片身替釉(かたみがえゆう:陶磁器の表面や器の左右で、異なる種類の釉薬を掛け分ける)」は初期高取焼の特徴。
《色絵透彫花鳥文皿 七客》柿右衛門様式 江戸時代17世紀
複数の輪が交差して連なるように繋がった幾何学模様を「輪違文(わちがいもん)」という。仏教用語の「七宝」に通じ、円(輪)が無限に繋がる様子から「永遠の連鎖」や「円満」を表す縁起の良い文様。
如意形といい、仏教由来の吉祥文は多いのね。
《赤絵鷺文金蘭手碗 一口》景徳鎮窯 明時代10世紀 *画像なし
茶碗形の向付でセットがバラバラになったものは、茶人に薄茶碗として愛用されたという。
《錆絵染付絵替土器皿 二十客のうち五客》尾形乾山 江戸時代18世紀
使い捨ての素焼き皿の土器(かわらけ)に彩色を施して、特別なものにする、その発想がさすが尾形乾山。
《阿蘭陀四方藍画花鳥蜻蛉向付 五客》オランダ 17世紀
なんとデルフト焼きの向付。中国の他、オランダにも注文していたとは。
茶の湯において、中国、朝鮮、ベトナムの茶器を使い、インド更紗を好み、懐石料理ではデルフト焼き…茶道はなんとまあグローバルな世界。
《白楽蛤皿 五客》樂了入 江戸時代19世紀
今回の妄想お持ち帰りは、家で日常的に使いたい食器として選ぶならこれ。蛤だから使う季節は春限定なのだろうか。もし春限定でなければ、使い勝手良さそう。お刺身でもほうれん草のおひたしでもなんでも盛れるね。
蓋物
《織部四方蓋物 一合》美濃 桃山時代17世紀
蓋を開けたら、流水、橋、蛇籠がさらりと描いてある。のびのびした絵は気持ち良い。
《色絵帆船阿蘭陀人文蓋茶碗 五客》伊万里 江戸時代18世紀
画像ではわからないが、描いてあるオランダ人や帆船がまるで安野光雅の絵本のようでかわいい。
猪口
《色絵唐花文猪口 五客》鍋島 江戸時代17世紀
オリエンタルな模様が素敵
《染付桃形酒入 一口》景徳鎮窯 明時代17世紀
イスラムの金属製水注↓を模して作られた水注器を「仙盞瓶(せんさんびん)」といい、明代に流行、日本では茶席の道具や飾り壺として珍重された。
参考
第2章 器が語るものー形よ文様に込められたもてなし
《白泥染付金彩薄文蓋物 一合》尾形乾山 江戸時代18世紀
土の風合いを活かした素地に、白化粧と染付、そして金彩を施すことで武蔵野の情景を詩情豊かに表現した名品。見込みの紋様もまた意外で素敵。重文。
《色絵萩文向付 五客》鍋島 江戸時代17〜18世紀
胴に描かれた萩の花に高低差があり、置く向きによって景色が全く違ってみえる。
《古染付向付》景徳鎮窯 明代17世紀
展示は、鶏形、巻貝形、筍形、半開扇形、魚形の5種。
面白かったのは、全て五客だが、使い勝手がいいようにと、鶏形については後から1客鳳凰形をついかしたとか。
そうそう、和食器は5客、洋食器は6客と覚えていたが、そんなおおらかさもあるのか。鳳凰形に当たった客はラッキーだとか、そんな遊びも想像する。
*参考画像
《天啓赤絵寒山図反鉢 一口》景徳鎮窯 明時代17世紀
天啓(てんけい)とは、中国・明朝末期の年号(1621〜1627年)。この時代に景徳鎮の民窯で日本向けに焼かれた「古染付」のうち、赤や緑の上絵付けを施したものは「天啓赤絵(てんけいあかえ)」と呼ばれる。
反鉢というが、ぐにゃっと曲がった風情は、「わざと」ではなく焼成前に「うっかり…」のように見えてしまう。
《五彩羅漢氷裂文四方皿 一口》景徳鎮窯 明時代17世紀
展示は、中央に膝を立てて読書する羅漢さんが描かれている。「氷裂文」は氷がヒビ割れたような文様だが、これは長い冬の困難を耐え、春の訪れを喜ぶ吉祥文である。
*参考画像
《染付雲雷文大皿 一口》伊万里 江戸時代17世紀
飛雲文(ひうんもん)は、神仏が宿る場所や「良いことが起こる前兆」を意味する瑞雲の一つ。
もうひとつ、卍錦は卍の字を連続して繋げた模様のことで、仏教の吉祥の印である「卍」が絶えず繋がっていることから、「永遠」「繁栄」「長寿」などの縁起の良い意味がある。
中央に向かってぼかしてあるので、まるで中央から光を発しているように見える。
色々と勉強になった展覧会だった。もちろん、お勉強だけでなく、目に楽しい器を堪能。
8月30日まで。
写真撮影は全て不可。一部入れ替えあり。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2026_2/index.html
今を生きる私たちのすでに約400年前には、日本ではおもてなしの場においてさまざまな産地・形・文様・用途の陶磁の食器をもとめ、使いこなし、楽しむことが定着していたようです。
華やかな大皿、優雅な鉢、個性的な向付……。こうした陶磁の食器のデザインに注目してみると、そこには吉祥や季節感、あるいは珍しい器でもてなしたい、などのメッセージが少なからずあることに気づきます。食器とは、おいしい料理とあいまって客人にさらに深い喜びを得ていただくための「眼のごちそう」だったのではないでしょうか。
日本人が愛好した陶磁の食器は国産にとどまらず、中国をはじめとする海外製にもおよび、食器に対する日本人の旺盛な興味がうかがえます。このような食器が使われた当時のおもてなしのようすにも時おり触れながら、うつわ一つ一つの造形をお楽しみいただく貴重な機会になります。
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