電気だけ消して戻ってきた部屋で続きのことはまだ考えない #短歌
春の雨あなたの名を呼ぶたびにヴィオロンひとつひかりを失う #短歌
空席に影まで置いて帰ったの 夜がきちんと始まるために #短歌
3月の重さをそっとのみこめば骨より深い理由が見える #短歌
通話終了 それでも耳に残るのはあなたのいない形の温度 #短歌
擦るたび小さな熱を思い出す ひらく前から春は匂った #短歌
悲しみのサイズに合った椅子ひとつ まだ温もりの残る夕暮れ #短歌
拡大しすぎて世界が消えたあと残る体温これが現在 #短歌
同じ手のひかりをすくう水の面 こぼしたぶんもきっとやさしい #短歌
蛇口からこぼれたままの時間ごと 濡れたシャツだけ何も言わない #短歌
たとえばねイヤホンの線ほどくみたい 世界はぼくをちゃんと鳴らせる #短歌
腕を通すまえの静かなひとときにまだほどけないぬくもりがある #短歌
泡ひとつ消えてしまえば夜の皿 指のぬくみをうすく返せり #短歌
桜あん味にはまだと思う午後 遠くの花の匂いを持って #短歌
食べ物と並べるなよと言う奥にまだあるさみしい温度 #短歌
間違えて帰ってくるかもしれない 靴の向きをまだ変えられない #短歌
まだ眠る町のまんなか通る風 触れないままのブレーキが鳴る #短歌
こわれてもひかりの粒はやわらかく 私の中でまだ息をしている #短歌
衣替え迷う時間の廊下にて無花果はまだ名を呼ばれない #短歌
言葉より先に曇った指先があなたの夜にふれてほどける #短歌
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