朝の9時台、ケータイに着信あり。登録されていない電話番号だ。出てみると、本日の午後2時半、クルマを査定&買い取りに来る業者だった。ちなみに今日、3社が30分ずらしで来ることになっている。午後2時、2時半、3時。
正午にうかがいたい、と。
格段、断る理由もないので、応じることにして、急いでクルマを洗車することに。昨日から今日にかけて大嵐だったので、さぞかしクルマに小枝や落葉がくっつき汚れてもいるだろう。
クルマの掃除が終わったのは午前11時40分。
業者が正午にやってきた。20代後半のやや太った大柄の青年。
査定が終わって、このクルマをぜひ売ってください、と懇願される。
電話で明かしただろ、あと2社が来ることになっているじゃないか。
「そこをなんとか断っていただいて、うちに売ってください」
買い取り価格を聞く前に、私は彼に伝えていた。高く売ろうという意志はあまりなくて、気持ち良く引き取ってもらっていくばくかのお金になれば、と。
そこにつけ込まれたのだろう。
ほぼ適正だと思われる査定額を言われた。
「あなたは社員だろ? ここで買い取ることが出来ても給料は同じなのでは」
私にとって、結果的に誤った質問を投げてしまった。
「いえ、買い取りは給料に直で繋がるんです」
私は困ってしまい、「1分時間をくれ」と返した。
チラ見したら、彼の右頬に汗の粒が見えた。
血の巡りが悪い頭で考える。
3社を競わせたら1万円から1.5万円、査定額が増えるだろう。しかし、このあと2時から更に2社の営業マンと対面するのも面倒だし、この若いモンは必死になって私におべんちゃらを言って私を騙そうとしている。それを見て見ぬふりをし、ちょっと頭の悪い前期高齢者役を演じる(実際のところ、私の頭はゆるいのだが)、というのも年長者の務めではないか、と思った。
「いいよ、あとの2社は断ろう」
で、彼の目の前で2社に電話をした。うち1社は「査定いくらです?」と私に訊き、正直に答えたら、うちのほうが高い値段を必ず提示しますから、などと言う。それでも断った。
それから2時間後、私は箱根駅伝戸塚中継所近くの大手中古車販売店へ自分のクルマを駆って行き、引き渡した。運転しながら、あと1万円は高く売れたなぁ、などと苦い思いもしたが、それより今、事故ってクルマがパアにならないよう運転に集中するほうが大切だ、なんて殊勝な気持ちが勝った。
おまえ、御大尽かよ、とビンボーなほうの私が茶化す。
これでいいのだ、と太っ腹なほうの私が応える。
クルマを売るのに結局、丸一日を費やしてしまった。
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